第30話 輻輳
俺とプルーンの心配事は、姫……いやあっちゃんの行先がまだ決まらない事だ。このまま王都に二人が到着したら、五人でここに暮らさないといけなくなってしまう。俺やプルーンはいっしょの寝床で雑魚寝も慣れているが、さすがにあっちゃんにそれはさせられないだろう。この件は、商会に相談する事も出来ず悩ましい。
プルーンが、例の秘密組織と都度打ち合わせてはいる様だが、どうやら王城では
王女の王都下潜伏説が有力視されているようで、一般人は気がつかないが、新居の契約とか、ホテルの長期滞在などの自宅外での居住などが裏で厳しくチェックされ始めているとのことで、新たに別の部屋を借りても不審がられる可能性があるらしい。
今日は夜遅くまでかかるかもしれないので、先に寝ていてくれてよいと言って、プルーンは夕方遅く、秘密組織との打ち合わせに向かった。
おれは、あっちゃんと留守番だ。
「ゆうたさんの作るお夕食はいつもおいしいですね」
あっちゃんが俺の料理をほめてくれる。王宮にいたときは、もっとおいしいものを食べていただろうに……本当に心優しい姫様だ。
「ゆうたさんは、ぷるちゃんのつがいさんなんですよね? ぷるちゃんいいなー」
「ああ、あっちゃん。その事なんですが、あらかじめお伝えしておいた方がいいと思うんですが、私には人間のつがいがいて、あと二日後、プルーンの妹のメロンと一緒に、この王都に上京してきちゃうんで、しばらくの間、この家、ちょっと狭くなってしまうかもしれないのですが、ご容赦下さいね」
「えっ、そうなのですか? それはかえって私がご迷惑をおかけする様で恐縮です。ですが……それじゃあ、ゆうたさんはぷるちゃんのつがいではないという事でしょうか? 彼女、あなたにいただいたという加護付きのネックレスをとても大事にしていましたが?」
「ああ、獣人は一夫多妻制で、プルーンは俺とつがいでよいと言ってくれています」
「なるほど。それでは、人間も一夫多妻なのですね」
あれ? 俺墓穴掘ったかな。
「いやー、人間はエルフと同じで、一夫一婦制を採用しています‥‥‥」
「でも、それでは、ぷるちゃんが可哀相な気がしますが‥‥‥」
あー、この人、天然そうで結構頭の回転早いや。
あんまり変に誤解されても、後でプルーンに叱られそうなので、話題を変えよう。
「プルーンがいつもしている、あのネックレスなんですが、王都ではなく、プルーンの出身のトクラ村で購入したんです。当時の値段で二十万ポンくらいでしたね」
「えっ? 私も物の価格の相場には疎い方だという自負はありますが……それでもあれが、そんな値段で買えるものだとは思っていません。あの、加護の付加というのは相当高位の魔導士ではないと出来ないのです。その方に一つ加護を付けていただくだけで百万ポンくらいはするのでは? 本当だとしたら、本当に掘り出し物だったのでしょうね」
おー、そうするとあのネックレスは、原価で三百万ポンはするものなのか?
よほど長い年月、不良在庫だったに違いない。
「実は私も、幼い時から加護魔法の勉強をずっとしているのです。王族に加護を貰えたら、皆うれしいでしょう?」
「それはそうですね。兵士なども士気が上がると思います」
「お世話になっているお礼に、なにか加護を授けましょうか?」
「いえそんな、百万ポンの価値のあるものを、そんなに簡単には‥‥‥」
「どうか遠慮なさらずに。それ以上の御恩をいただいているつもりですから。
何の加護がいいですか?」
「それじゃあ、お言葉に甘えます。もう軍隊も関係ありませんし、実生活に役立ちそうな値引きの加護とか‥‥‥」
「えー、それはチャームの加護でよろしいのかしら? そうしたら、なにか普段、身に付けるものを貸して下さい。ネックレスでも指輪でも、ハンカチでもいいですよ」
「それじゃあ、これでお願いします」
そう言って俺は、普段身に付けているハンカチを、あっちゃんに手渡した。
「それでは、行きます!」
あっちゃんが、胸の前で両掌を向き合わせにして詠唱を始める。
すると、空中に光の粒がぽつぽつと沸き上がり、それが、あっちゃんの合わせた掌の隙間に収束していく。
「……精霊と神の御名において加護を付与せん……チャーム!」
詠唱を終えたとたん、あっちゃんの掌からものすごい光があふれだし、部屋の中に拡散した。
おお、すごいなこれ……でもあれ? なんだか身体がすごく熱い。
頭もボーっとしてきた。
あっちゃんの顔を見ると、なんだか彼女も
そして、あっちゃんは、うるんだ瞳で俺に向かってこう言った。
「ゆうたさん……すいません。失敗しちゃったみたいですぅ……」
「ええ? それじゃ、この身体が火照ってるのも?」
「はい、ハンカチに付与するはずのチャームが、私たち二人の身体に付いてしまいました。しかも、最大出力で……」
「なんですって! それは……私たちが最大出力で引かれあっちゃうという事でしょうか?」
「はい……それだけならまだしも、この距離だと魔力が
「うわ! それを早く言って下さい。距離を取らないと!」
俺がそう言い終わらないうちに、あっちゃんが俺に飛びついて来た。
「あはー、ゆうたさん。私、もう我慢できません。私を可愛がって下さいー」
そういいながら、あっちゃんは自分の服を脱ぎ始め、俺の服も脱がせ始めた。
「いや、ダメです。あっちゃん……あ、あー、姫さまあー!」
次の瞬間、俺の意識も何かおかしくなった。まるで身体がふわふわ浮いているようで、思考がまったくまとまらない。目の前に可愛らしい少女がいるのがわかる。
ああこれ、姫様だよな。可愛いな。食べちゃいたいな……もうだめだ……我慢出来ない……次の瞬間、俺は姫様にのしかかり、おもむろに姫様に自分のあれを押し当て、それが彼女の最奥まで入った感覚があった。
「ふはぁっ!」姫様が声を出してのけぞる。
あー、暖かい。このままでいいよな……そう思った次の瞬間……
「あんたたち! なにやってんのーーーーーー!」
ものすごい怒声がして、俺は頭から水をぶっかけられた。
それでようやく正気を取り戻したが、声のした方を見上げたら、ものすごい形相をしたプルーンが、流しに置いてあった洗い桶を手にして仁王立ちしていた。
「あっ、プルーン……ああ、助かった……」
「何が助かったよ、ゆうた! あんた一体自分が何したかわかってんの!
とにかく、その挿しっぱなしのモノを外して、すぐに姫様から離れなさい!」
気付くと俺と姫様はまだ結合したままだった。慌てて俺は姫様から飛んで離れた。
プルーンは俺を無視して、あっちゃんに駆け寄る。
「姫様。大丈夫ですか……ああ、こんなに出血されて……すぐに手当しますから」
そう言ってプルーンは、流しで水を汲み、あっちゃんの身体を拭き始めた。
「あの、プルーン。これはだな……事故でたまたま……」
「うるさい! しゃべるなこの痴れ者! どこをどうすれば事故であそこまでずっぽし入っちゃうのよ! 恐れ多くも一国の王女様を強姦した罪は重いわ。あんた、外で自決してきなさい!」
「いや、ずっぽしとか……それに強姦じゃないし……」
「うるさい! 何も聞きたくない! とっとと死ね!」
プルーンとそんなやりとりをしていたら、ようやくあっちゃんも意識がはっきりしてきたようだ。
「ああ、ぷるちゃん……そんなにゆうたさんを責めないで。
これ、本当に事故なのよ……」
「そんな、姫様。これ、あなたと私が出合い頭にぶつかって、たまたまキスしちゃったって言うレベルの話では無いですよ!」
「だから、とりあえず落ち着いて話を聞いて!」
あっちゃんにそう言われて、プルーンは若干態度を軟化させ、俺と姫様は事情を説明した。
◇◇◇
「ふー。まったく……姫様。あなたの魔法はいっつもノーコンで効き過ぎで……もっと自重していただかないと困ります! これで魔力が周辺にあふれ出して……敵に見つかったりしたらどうするんですか……それと、ゆうた。事故というのは理解したけど、王女様のバージンを奪った事実は消えないわ。やっぱりあんた、死になさい!
なんなら私が介錯しましょうか?」
「……はい、宜しくお願い致します」
やらかしたことが重すぎて、俺も覚悟を決めたぞ。
「ああ、待って下さい。ゆうたさん、私は全く気にしていませんよ!
むしろバージンを奪っていただいたのがあなたでよかったかも……」
「えっ? それって、姫様。あなた、ゆうたに惹かれているという事ですか?」
「あー、違うのぷるちゃん。誤解しないで。決してあなたのつがいさんに懸想している訳ではないのよ。ただ、私の兄が……もし私のバージンを奪う者がいたら即刻斬首
と常日頃から言っていたので、ゆうたさんならバレる前にご自身の世界に帰れれば安全かな? っといった意味で……」
「それって、第二王子のアロン様ですよね。でも、いくらなんでもそれは、姫様への愛情を大袈裟に表現されているだけなのではないですか?」
「いえ、あの兄に限っては本気かと……」
なんだ。王室につかまったら、俺、どのみち死罪なんだな。それにしてもお兄様、大したシスコンだな。ともあれ、どうにかこの場での死罪は免れた様だ。
しかしその後、俺は、あっちゃんに近づくことを禁止され、玄関のたたきで寝る事となった。プルーンは彼女と、奥のベッドで就寝している。
(なんで、ちゃんと入っちゃうかなー)
寝息をたてているあっちゃんの頭を軽く撫でながら、エルフと人間が普通にエッチできる事を目の前で見せつけられたプルーンは、何か釈然としまいまま眼を閉じた。
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