第23話 誤算
次の訓練休暇日、俺は、ゴーテックさんが紹介状を書いてくれたテシルカンさんを訪ね、一人でその住所を訪ねた。しかし、そこにテシルカンさんはおらず、今住んでいる人も、来た時すでに空き家だったとの事で、テシルカンさんの事は全く知らない様だった。
「ゴーテックさんも、おんなじ所にいないかもとは言ってたしな。しかし困ったな。これじゃ手詰まりだが……そうだ、近所で聞き込みしてみよう」
そう思って近くにある古そうな雑貨屋に入ったのだが、俺はここでも差別の洗礼を受けた。人間に話す事などないそうだ。エルフのプライベートを人間に話したのがバレたりしたら……という事らしい。
悔しいが、これはプルーンに同行してもらわないと話が進みそうにない。
だが現状、プルーンを待っていたらいつになるか分からない。
俺は、軍の養成所で法律などの一般教養を教えてくれていて、普段から俺にも普通に接してくれているエルフのウナ教官に、エルフの人探しの事を相談してみた。
「エルフの居場所調査か。それは役所で調べるしかないだろうね。でもそれは、君が人間だからという事ではなくて、一般的に難しいかな。訴訟を起こす等の理由で資格を持った弁護士が申請するか、あるいは地位の高いエルフに便宜を図ってもらうか。
……ああ、そうだ。興信所に頼むのもありかな」
「そうですか。どれもお金がかかりそうですね」
お金の事はプルーンに相談しないと勝手には判断出来ない。しかし、先生が親身に答えてくれた事がうれしく、俺はいつも思っていた、ちょっとした別の疑問を投げかけてみた。
「先生。俺……失礼しました、私は、王都に来てから人間と会っていません。同族同志でいろいろ話してみたい事もあるのですが、どこにいけば会えるでしょうか。それに、軍には少なからずいると聞いていました。まあ、ここにはいないにしても、正規配属されたら会えますかね?」
「ああ。なるほどな。君の気持もわからんではない。でも、この王都で表を歩いている人間は本当に少ないだろうね。すでに君も経験しているかもしれないが、王都は人間にはとても住み辛いんだ。大抵の人間は食い詰めて最下層に潜り込んでしまったり
反社会的集団の使い捨ての駒みたいな生活をしていると思う。まあでも、軍なら正規採用されれば、すぐにでも会えるだろうな」
「そうですか! それじゃ王都の軍には人間がいるんだ…‥」
「……ゆうた君。君、なにか誤解していないか?
王都駐在の部隊には、人間はいないぞ」
「えっ?」
「別に軍が差別している訳ではないとは思うんだが……彼ら自身が王都では暮らしにくいだろうという理屈で、軍に正規採用された人間の兵士は、すぐに王都を離れた部隊に編入されるんだ」
「ですが、配属されて数年は王都勤務だと……」
「ああ、建前はそうなんだがな。何事にも例外はあるさ」
これはえらい事だ……俺達の計画を根本から検討し直さないといけない。
俺が軍に正規採用になったら、すぐに王都を離れる?
「これは困ったわね。ゆうたが一人離れて遠くに行っちゃったら、何のために王都に来たのやら」プルーンも困惑している。
「ごめんね。商会としても、そこまでの情報は持っていなかったわ」
フマリさんも申し訳なさそうに言う。俺達が顔を見合わせていたら、あごひげさんがオフィスに顔を出した。
「やあ、ゆうたさん。プルーンさん。お元気ですか? おや、何か困りごとでも?」
俺達は、今の状況を、あごひげさんに説明した。
「なるほど。だとするとゆうたさん。このまま軍に就職するのは悪手ですね。正規採用後となると、最低五年は軍をやめられませんし、勤務地も融通が利かない」とあごひげさんが言う。
「しかし、軍以外には就職もままならないし、村に迷惑かけるし、とりあえず家族の生活優先と割り切って、俺が任地にいくしか……」
あごひげさんは、しばらく考え込んでいたがやがて口を開いた。
「それでは、ゆうたさん。すぐにどうこうは出来ませんし、今の養成所に可能な限り長く居座って時間を稼いで下さい。その間に、あなたの就職や、どうすれば村に迷惑をかけずに軍を離脱できるか、考えてみましょう。
私は、あと二か月足らずで、またトクラ村に向かわねばなりませんが、フマリにも協力させます。あなたは商会の大恩人でもありますし、少しは私の顔が広いところをお見せしないといけないところでしょうね」
なにか腹案があるのか、あごひげさんは、ちょっと自信ありげにそう言った。
まあ、積極的に単位を取らないようにすれば、すぐには正規採用にならず、来年の春までは見習いでいられる……と言うより、正直、今の俺の単位取得ペースでは本当に落第しかねないかも知れないが。
俺もプルーンも、王都で四人で暮らす事を大前提に、いままで頑張ってきたのだという思いが強く、あごひげさんの言う通りにしてみようという事で腹を括った。
その後、元テシルカンさんの家の近くにあった、例の雑貨屋に行き、プルーンに話を聞いてもらったが、雑貨屋も何も知らなかった様だ。
くそ、あんな偉そうな事言いやがった癖に!
怒る俺をなだめながら、プルーンがその近隣で何軒か聞き込みをしてくれたが、やはり手掛かりは得られなかった。
そして、プルーンの最終採用試験が近い事もあり、その日はデートする事も無く、彼女を宿舎まで送り届けた。
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