境僕境(さかいめのあいだ)

鹿角まつ(かづの まつ)

1話目

心の不調なんて、少しのあいだ学校を休めばきっと治るよって、みんな言ったのに。


疲れた。

もう、どれくらい歩いているのだろう。

近所をふらふらさまよっているうちに、夜がどんどん濃くなって、あたり一面真っ暗だった。

その前は、よく行くスーパーのフードコートに、飲み物一杯でねばっていた。

でも、営業時間終了というものがある。

部屋を飛び出したそのままの格好だから、上は昔から持っているTシャツ一枚に、下は毛玉だらけのスウェットだった。


足の裏も、ふくらはぎも、腰もひざも全部痛い。

このまま力尽きて、倒れてしまって、目が覚めたら死んだあとだったら、

どんなに楽だろう。

通り沿いに神社の入り口が見えた。

身体を引きずって、鳥居にもたれかかった。

もう動けない。


どうして僕は、誰にも救われないんだろう。

どうして誰にも、僕を救えないんだろう…。



柔らかい布団の感触で、僕は目が覚めた。

上半身だけ起きて、まわりを見渡した。ここはどこだろう。

白い壁に、この白いシーツのベッドに、テレビとちっぽけな四角いテーブル。

ずいぶんシンプルな部屋にいる。

警察署けいさつしょ?だれかの家?

「おめざめですか」

声がして振り向くと、いつのまにかベッドの脇に、そっくりの顔の子供がふたり、同じパジャマの上下を着て立っていた。

この家の子だろうか?

それぞれ、洗面器とタオルを小さな手にささげ持っている。


はい、と答えたら、ふたりで「こちらをどうぞ」と、持っていたものをテーブルに置いて勧めてきた。


洗顔を終えて、僕は、ここに来る前に自分が何をしていたか思い出した。

そばに立ってこちらを見ている二人に聞いてみた。

「ここは、どこなんでしょうか。ぼくは、…近所の神社の周りで、夜のランニングをしていただけなのですが。」

少し、うそをついた。


双子は答えた。

「ここは、かくりよです」


「かくりよって、なんですか」


「すきまです」

「すき間って、何と何の隙間ですか?」

双子が答えた。

うつし世と次の世の」

僕は、この二人には、僕がうそをついているのがばれていると思った。

僕があの時、生きるのをやめたいと思っていたことも。


「僕は、いつまでここにいていいのですか」

「いたいならいつまででも」

そう言い残して、双子はその部屋を出ていってしまった。


                       2話目に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る