第14話*エピローグ
*優斗視点
春休み。
今日は高瀬と朝からひょう花に行って、お昼ご飯も食べて。いつもよりも長い時間一緒に過ごそうって話になった。
朝、顔を洗って化粧水を顔につけているタイミングで高瀬が迎えに来た。
想像よりも早く来た。玄関で待たせるのは悪いかなと思って、部屋で待っててもらうことに。
「ごめんね、急いでメイクするから」
「別に急がなくてもいいし」
そう言ってくれたけれど、待たせるのは落ちつかない。
最近はファンデーションとかチークとか、メイクを始めた頃には買っていなかったものも揃えた。アイシャドウとかも違う色を試したくなったりもして。メイク道具が増えてきたから、薄いピンク色の小さなテーブルとメイクボックスを買って、メイクコーナーを作った。
すぐにそこでメイクを始める。メイクしている姿をまじまじと見つめてくる高瀬。ドキドキしてアイラインが少しずれた。
「ちょっと、見られるの恥ずかしいんだけど……」
「あ、ごめん」
後ろを向く高瀬。
僕に背中を向けながら高瀬は言った。
「化粧してる時の赤井、楽しそうだな」
「楽しいよ。メイクしたら可愛くなれて、自信が持てるから」
「化粧してもしなくても、両方可愛いけどな……」
鏡から視線を外し、高瀬の背中をちらっと見た。
可愛いってたまに周りから言われるけれど、高瀬に言われるのがいちばん嬉しい。
――好きな人から言われた言葉は、特別な言葉になる。
「赤井にとっての化粧は、俺が足湯好きみたいな感じか……」
「僕は足湯も大好きだけどね」
着替えて肩まで伸びた髪の毛を整えると、家を出た。
今日は天気がよくて、春の匂いもした。
外を歩くと気持ちがいい。
歩いていると突然、高瀬が空に向かって左手を伸ばした。
僕の視線は高瀬の左手を追う。
僕たちは、はっとした。
高瀬の左手の指周りが……。
「今、何となく光を当ててみただけなのに……はっきり見えるんだけど」
「ね、見えるね。色の名前は詳しく分からないけど、緑系だね」
「赤井は……赤井の色はどうなの?」
高瀬は手を下ろし、ちょっと不安そうな表情をしながら僕を見つめてきた。
僕はもう自分の色を知っている。赤っぽいようなピンクっぽいような色が見えた。高瀬が運命の相手だったらいいなと願いながら、僕の色の補色になる可能性がある色をひっそり全部調べていた。
そして今、高瀬の色を知った。
気持ちが高ぶりすぎて――。
「高瀬、手、繋いでいい?」
「う、うん」
普段なら自分から手を繋ごうなんて、絶対に言えない。だけど今は――。
僕の右手と高瀬の左手。繋いだ手を空にある太陽の光に繋げようとした。
「いや、前に反応何もなかったのがトラウマで……」
ぐっと手に力を入れ、頑なに手を上げるのを拒否する高瀬。
僕は、答えを知っているから――。
無理やり僕たちの手を上げ、光に当てた。明るい光が僕たちの手を包んだ。
「僕たちの手の周りが……こんな風に輝くんだ……」
「すごいなこれ」
輝きながら繋がっている手をしばらくふたりで見つめていた。しばらくすると「そろそろ手が疲れてきた」と高瀬は言った。
手を下ろしても、ずっと高瀬と繋がっていたかった。
「僕、この手を離したくない」
「俺も。この手、一生離せないかも」
「いや、それは困るかも……」
手を繋ぎながらふたりで笑った。
光に照らされた温かい雪が降ってきて、僕たちを祝福してくれたみたいだった。
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