第13話*あの時からの恋
*蒼視点
全力で走って赤井の家に向かった。
赤井はずっと辺りを見渡しながら走っている。
電話を切った直後の赤井はすごく震えていた。
今も息切れしながら、ずっと泣きそうな表情で――。
ゆきちゃんって誰かは知らないけれど、きっと赤井にとって、すごく大切な人なのだろうというのは伝わってくる。
赤井のために、赤井が悲しみの涙を流さないように、俺は全力でゆきちゃんを探す!
「赤井、ゆきちゃんってどんな人……」
質問の途中、急に赤井は立ち止まった。
うっすら雪が積もっている木の下辺りをじっと見ている。
赤井の視線の先には小さな白い犬が――。
この犬、見たことがある。
赤井の家の玄関で、足元に来た犬だ。
もしかして、この犬がゆきちゃん……犬だったのか!
「ゆ、ゆきちゃん!」
赤井が名前を呼ぶと、雪を真剣に掘っていた犬の動きが止まる。そしてこっちを見ると「わんっ!」と高い声で吠えた。
赤井がゆきちゃんの元へ走り、勢いよく抱き上げる。
「ゆきちゃん、大丈夫? 寒かった?」
赤井はしゃがみ、膝にゆきちゃんを乗せると、自分の首元に手をやる。
「あ、マフラー巻いてあげたかったけど、ひょう花に置いてきちゃった……」
赤井は「早くお家に帰ろうね」と言いながら立ち上がり、優しくゆきちゃんを抱きしめた。
「ゆきちゃん、元気でいてくれて、本当によかったよ……」
赤井は優しい表情をしながら涙を流した。
目の前の光景を見て、ふと、あの時を思い出した。
高校受験の日、立ち止まってしまう程に、見入ってしまったあの光景を。
「赤井、もしかして、受験の日にゆきちゃん抱っこして、泣きそうになってた?」
話しかけると赤井と目が合う。
泣きすぎて目が腫れ、疲れた表情をしていた。
「うん、ゆきちゃんがひとりぼっちでいたから……」
あの日に見たのは、赤井だったのか。
あの時に見た赤井は髪の毛が長かったし、輝きすぎていたから赤井だって気がつかなかった。
「だってね、この子、寒い中ひとりで捨てられてたんだよ。こんなに小さくてか弱そうなのに……ひとりで寒い中いたんだよ?」
再び赤井は静かに泣き出した。
ゆきちゃんがもしも見つからなかったら、赤井の心はどうなっていたんだろうか。ゆきちゃんが見つかって、本当によかった。赤井の心が無事で、壊れなくて……本当によかった。
赤井をゆきちゃんごと優しく抱きしめた。赤井の全部を抱きしめると、赤井はイメージよりも細くて小さいことを知る。そして心は、繊細。
赤井を、人生全てかけてでも守りたい。
赤井と離れたくない――。
誰かに対して強くそう思えたのは初めてだった。
「赤井、学校では冷たくしてごめんな」
「ううん、僕こそ、騙してごめん。騙していたけれど、一緒に足湯にいる時は本当に楽しくて……」
「うん」
「僕、友達とそんなふうに過ごすことがなかったから、高瀬と一緒にいる時は本当に新鮮で」
「うん」
「高瀬が新しい世界を教えてくれて、一緒に足湯にいる時は本当に楽しくて、僕、友達とそんなふうに過ごす……」
「赤井、同じ言葉繰り返してる」
取り乱した赤井を愛おしく感じる。
「赤井……」
「何?」
「学校での不器用な赤井も、優しくて可愛い赤井も、女装している赤井も……。どれも本当の赤井で、どの赤井も魅力があって良くて……どの赤井も俺にとっては大切な存在で……」
ひとつひとつ丁寧に、言葉を確認しながら赤井に気持ちを伝えた。
赤井は声を出して、もっと泣き出した。
ぎゅっと力を込めて赤井を抱きしめ、勇気をだして赤井に気持ちを伝えた。
「俺、全部の赤井が、好きだから――」
俺の気持ちを伝えると、赤井は頭を俺の胸元に寄せてきた。そして、いちばん欲しかった言葉をくれた。
「……僕も、高瀬のことが好きだよ」。
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