【7万PV感謝!】世界崩壊から始まるあたしの転生譚~たたかう風紀委員はラクをしたい~
熊野八太
第0章 プロローグ
01.プロローグ
時間とか寿命とかの制限はあるけれど、あなたの世界は大抵のことは実現できる。
そう本体から説明されたのはスキルの話を相談したときだったと思う。
まさかそれが、こんな訳の分からない空間に魔道具を経由して入り込めることまで指しているとは、あの時思わなかったけれど。
そもそもこのメンバー――クラスメイトの実習班の仲間や友人たちと、姉とその友人で、機能が解明されていない魔道具を使っている。
本当はみんなの安全のため、慎重かつ念入りに魔道具の調査を行うべきなんだろう。
でも物質の取り出しや意識の切り替えなど、イメージしたことをこの空間の中では現実化させられて、経験した記憶を現実に持ち帰られるというのは破格だ。
現実の限りある学生生活での魔法のトレーニングの時間をこの空間補えるなら、せっかくの貴重な道具を使わない理由にはならないと思う。
そんなことを考えながらトレーニングを進める。
最初に違和感を感じたのはあたしとニナが同時だったと思う。
いつものようにあたしは、基本であり奥義につながる【
胸騒ぎと言ってもいいかも知れないけれど、かなり確信に近いものだ。
酷く不穏なものが迫っているような感覚を覚えて周囲に視線を走らせる。
そして異常を感じた時には身体が動いていた。
この空間での得物の取り出し方はいい加減身についているので、反射的に自身の武器である短剣と手斧を虚空から取り出す。
得物を順手で握り、そのままの勢いであたしは
左右の手でそれぞれ四撃一斬を叩き込んだ相手はすでにキャリルに迫り、その身を現わしている。
純然たる濃密な闇属性魔力の塊だが、初めて見る種類の奴だ。
この空間に来ていつも相手にする『悪夢の元』に比べてひどく昏い闇属性魔力を感じる。
それが本能的な部分で誰かのこころの奥底にある煮詰まった感情のような、不穏当なものを感じさせる。
あたしが斬撃を放った直後にニナが漆黒の大鎌を繰り、闇属性魔力を込めた
何となく闇属性魔力の塊に同じ属性を込めた一撃が効くのかは気になったけれど、彼女が初手でミスをするとも思えない。
そしてあたしとニナの初撃に関わらず、その濃密な魔力の塊は
認識できるのはその闇属性魔力の塊が巨大な人型であることで、キャリルへの一撃は拳による打撃だった。
だがキャリルも武門の娘であるからか、と言うよりいつもの常在戦場な感じのバトル脳が働いているからか、虚空から自身の得物を取り出して対処する。
彼女の手の中にあるのは白い
威力は物騒極まりないけれども。
キャリルは即座にヤバい相手と判断したのか、
そして自身に迫る巨大な拳打に対し、刺突技に近い打撃技である
だが闇属性魔力の人型にダメージが通っている様子が無く、キャリルは流派に伝わる歩法で位置取りを変えながら攻撃を避ける。
「一体何なのよ?!」
「わたくしが知りたいですわ!」
「精神生命体のたぐいと判断するには、動き自体は単調じゃの」
あたしが思わず叫ぶとキャリルとニナが応じる。
確かにあたしやニナが自分の得物を振るってさっきから斬りまくっているけれど、動きが単調だから攻撃自体はとてもしやすい相手だ。
でも全く堪えた様子が見られないのは、非常にヤな感じだけれども。
「少しは手伝うわよー」
「わたしも攻撃します」
あたし達が応戦しているのに続きホリーやディアーナも自分の武器を使い、闇属性魔力の人型へと攻撃を加え始める。
二人が加わりこの場にいるメンバーでいえば、実戦に耐える力量の仲間が攻撃に参加したことになる。
けれどもやっぱりダメージが通ってる感じがしないな。
「ねえニナどう思うこの相手?」
「まあ、ウィンが気にしているのは攻撃が効果が無いことじゃろう? 妾の見立てでは対象へのダメージは出ていると思うのじゃ」
そのニナの説明の時点で、あたしはイヤな予感が増す。
「ゆえにこ奴の耐久性が高すぎるために、中々斬り飛ばせないだけと思うのじゃ」
ちょっと前にあったなあそういう状況。
あの時は天使とか出てきて色々大変だったけれども。
あたしは攻撃のために手足を動かしつつ、割とうんざりした声を上げる。
けっこう普通に会話が成立しているけれど、この間にもあたし達は普通の魔獣なら挽肉以下になる程度には斬撃を飛ばしている。
でも効いている感じがしない。
「このデカブツを相手にするよりは、この場所を出ちゃった方がラクかしら?!」
「待つのじゃウィン! 妾の闇魔法の【
「それって、ここで対処して倒すのが一番いいってこと?」
「恐らくそれがベストなのじゃ」
ああ、めんどくさい。
戦いなんて無ければ無いでその方がいいに決まっている。
でもさっき、期せずしてキャリルを守ろうと考えながら体が動いてしまった。
マブダチを護ろうとするのは理屈じゃ無いんだけどさ。
可能ならここでムリに戦わなくても現実に戻ればラクが出来るんじゃないのか。
その思い付きは早々にニナから待ったを出されてしまった。
やっぱりめんどくさい。
あたしは死んだような目で作業をする感じで、移動しながら淡々と斬撃を繰り出し続ける。
その様子に気づいているのかいないのか、キャリルはすごく楽しそうだ。
初めて見かけたよく分からないものに狙われている本人が楽しいなら、それはそれでいいんだけれども。
「あのっ、ウィンさん! まえに天使を斬ったときのように斬れませんかっ?!」
ディアーナにはあの時の一撃を見られているんだよな。
確かにあの斬撃の性能なら、斬って捨てるのは苦にならないとは思う。
絶技・
いちおう過去に失伝している技だし、あたしが本体と相談しながら詰めている技だからあまりポイポイ披露するものでは無いんですよ。
それに秘密の保持という面では心配はしないけれど、キャリルやニナの反応が怖かったりする。
いや、ニナは大丈夫か。
「ちょっと試してみるわ……」
そう応えつつあたしは手の中の
こいつを倒すのはどうにかするとして、この空間の謎を解くことを考えるとあたしは頭が痛くなってきたのだった。
それまで目の前で繰り広げられていた少女たちの攻防を、自身のイメージの働きで停止した。
闇属性魔力の塊を含めて、その場の全員が戦いの途中で不可視の樹脂で空間に縫い付けられたかのように止まっている。
その合間を縫って歩き、あたしは観察する。
「どういう状況よこれ。……見た感じ、この闇属性魔力の塊は何かの防衛機構かしら?」
そう告げてあたしはその場の少女たちを観察する。
同年代の子供たちが集まっているし、この場所は石造りの建築物の屋上だ。
周囲の景色を確認しても、樹々が多い敷地の中に広がる学校の施設の一つと言うところだろうか。
「学生寮かしら。でもなんでこんな魔力が妙なことになってる空間にいるんだろう」
この場を示す情報を見つけるまで、
自身が管轄する惑星で文明が一つ滅びてしまった。
幸いこちらが手を打ったこともあるし、生命そのものの力強さで生き延びた者が多くいる。
人類を含めて、今回の文明の滅びを切っ掛けに絶える種は無いはずだ。
それはいいのだけれど情報の整理の途上で妙なものを見付けたので、神域の無限にある空いたスペースを使ってガワだけ実際の状況を再現してみた。
魂は籠っていないけれど、思考の過程まではある程度魔力を読んで把握できる。
あたしはじっとウィンという少女を見やるが、魔力の感じから他人と言う感じがしない。
それでも会ったことが無いのは間違いないから、これから起こる未来であたしの巫女か何かになる少女なのだろうか。
そう考えると、この場面の情報を見つけてしまったこと自体に、何らかの意味を考えてしまう。
「未来の
思考を口にして少女たちを観察する。
魔力といえば、このウィンという娘が掛けているペンダントから妙な流れを感じるんだよな。
そう思ってあたしはペンダントに手を伸ばす。
だがすぐに横やりが入った。
「……げん時点での、けんげんが不足しています……。……さんしょうへの警告を、おつたえします……」
先輩の
幼女の姿をしているけれど、これであたしの先輩だったりする。
「ちょっと……! これどういう状況なんですか?! あからさまに何かあたしと関係がありそうな存在が出てくる記録ですけど?!」
あたしは再生を停止している、実体ある三次元情報を示して問う。
だが彼女はあたしに取り合うつもりは無いようだ。
「……警告のれんらくは、かんりょうしています……。……これより、強制的にさんしょうの遮断をじっしします……」
「これ位いいじゃないですか?! 少しは見逃して下さいよ!」
「……三、……二、……一、……」
「えーーー?!」
あたしが再現していた三次元情報は、最初から無かったかのように虚空に消えた。
周囲には神域らしい真っ白い空間がどこまでも広がっている。
そして偶然見つけた情報も、時神に概念的に参照を禁じられていることに気づく。
文句を告げようと視線を向けると、彼女は手を振りながら虚空に消えて行った。
あたしは白い空間の中で立ち尽くしつつ、思考を整理していた。
「ウィン……、Wynn……、ええと、地球ではアングロサクソン・ルーンで『喜び』を意味したかしら。管轄の星には持ち込まれた形跡が無いのよね。その時点でやっぱり未来の情報かなあ……」
あたしの現在の記憶にない以上、矢張り確定していない未来のどこかに発生する事象だろう。
これ以上の詮索はやめて、時神の彼女の警告に従っておくのが無難なんだけれど。
「それにしてもなんなのよ、あのウィンとかいう娘は。とんでもなくやる気が無さそうだったな。戦闘だっていうのに覇気が感じられなかったし」
少々あたしとしては呆れてしまう。
戦いが権能では無いとはいえ、これでも神ではあるし批評くらいは出来る。
戦っていた相手に脅威を感じたのは最初の一撃を加えるまでで、それ以降は頑丈なだけで単調な動きしかしないと判断してイヤイヤ対処した感じだろうか。
そういう理屈が通るなら、あたしとしては非常に共感が出来る。
というかあたしでもそうするだろう、うん。
よくよく考えれば誰よりも先に身体が動き、仲間とみられる別の子を護るために攻撃を加えた。
正体不明な敵に対してビビらずに冷静に対処でき、戦闘以外の解決策の模索を瞬時に検討し始めた。
「うん……、悪くはないかしら」
意識の中であの時の光景を再生しながら思わずそう呟く。
そもそもあのペンダントは何だったんだろうか。
魔力の流れから、神々――少なくとも一柱以上の神があのペンダントに関わったことは判断できた。
時神からは警告されたけれど、神々が現実にテコ入れするために用意したと考えるのは妥当な線だ。
「別に『探すな』とは言われていないし、情報の出どころを探るのはいいわよね。というか、業務の妨げになる余計な情報の出どころは押さえておいた方がいいはずよ!」
自身の思考を整理するように、独りでそう告げる。
実際問題、神々が関わる時点で不穏な要素だ。
あたしとしては知ってしまった以上、できるだけ情報を集めることにした。
まずはウィンがどういう少女なのか、その辺りからだろうか。
頭の片隅では先輩や上役の神々に見つかった場合の言い訳を考えつつ、あたしは神域から職場がある宇宙へと移動した。
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