14.本当に鍛錬なのか
制圧に関わった生徒たちにカールが代表して礼を述べた後、
サラやジューンやニナもそれぞれの部活に向かった。
プリシラとホリーも縫いぐるみ騎士団をマジックバッグに収納し、彼女たちと部活棟に移動していった。
あたし達風紀委員会のみんなが残っている場所には、生徒会長のキャシーと副会長のローリーが残っている。
「それでローリー、お前はまずキャシーに詫びを入れるべきだな」
ややくたびれた表情を浮かべて立っていたローリーは、カールに諭されて頷く。
「――そうだな。キャシー、こんな騒ぎにしてしまって済まなかった」
そう言ってローリーは頭を下げるが、彼が頭を上げるとキャシーが近づき、ものすごく晴れやかな笑顔を浮かべたまま彼の頬にビンタを叩き込んだ。
中々スナップの効いた一撃で大きな音がして、撤収の途中だった筋肉競争部や武術研究会のみんなが一瞬視線を向けた。
すぐに何事も無かったかのように視線を逸らしていたけど。
「少しスッキリしたわ。ねえローリー、わたし達はチームよ。お願いだから何かを始めるときは必ず相談して」
「分かったよ、済まなかった」
キレイな赤い手形がついた頬を隠そうともせず、ローリーはキャシーに頷いた。
「さて、他のみんなはローリーに言っておきたいことはあるか?」
何事も無かったかのようにカールはあたし達に問うが、特に物申したい人は居ないようだった。
だがそんな中、アイリスが何か思いついたような悪そうな笑顔を浮かべる。
「ローリー先輩には特にありませんが、ワタシ頑張って魔法を使ったせいか甘いものが食べたくなってきました!」
「……そういうことなら私も何かお菓子を食べたい気がするわね」
「そうだにゃー、お菓子食べたいにゃー」
アイリスの言葉に被せるようにニッキーとエリーがそう言って、ローリーにじーっと視線を向けた。
その言葉を受けてカールがローリーを肘でつつくと、ローリーは苦笑いを浮かべながら告げる。
「そういうことなら、今回の騒動のお侘びの意味で、今回の関係者みんなにお菓子を配りに行くよ」
「ローリー先輩、お菓子が大量に必要なら料理研究会に相談して欲しいにゃー。材料費だけでなんとかするにゃ!」
「そ、それは助かるよ!」
ローリーはエリーの言葉で我に返ったような表情を浮かべた。
必要なお菓子の量について不安になったのかも知れない。
「まあ、お前の財布だけだと干からびるだろうから、『地上の女神を拝する会』の連中で相談するんだな」
嘆息しつつ、カールはローリーにそう言った。
カールの言葉にローリーは少々青ざめつつ頷いていた。
その後ようやくあたし達も解散になったが、カールとローリーとキャシーはリー先生に今回の騒動の報告に行くそうだ。
あたしも裁縫部に協力を取り付けた報告があったので同行し、突如始まった騒動はようやく収束を見たのだった。
リー先生に報告を終えたあたしはその足で歴史研究会に向かい、キャリルや姉さん達と今回の騒動のことでお喋りをして過ごした。
寮に戻ったあたしは姉さん達と夕食を取り、自室に戻って宿題を片付けた。
日課のトレーニングを始めようとしたのだけれど、その段階でふと思いついて自身のステータスを確認する。
【
名前: ウィン・ヒースアイル
種族: ハーフエンシェントドワーフ(先祖返り)
年齢: 10
役割:
耐久: 80
魔力: 180
力 : 80
知恵: 220
器用: 240
敏捷: 350
運 : 50
称号:
加護:
豊穣神の加護、薬神の加護、地神の加護、風神の加護、時神の加護、
薬神の巫女
スキル:
体術、短剣術、手斧術、弓術、罠術、二刀流、分析、身体強化、反射速度強化、思考加速、隠形、環境把握、魔力追駆、偽装、毒耐性、環境魔力制御、周天、無我、練神、風水流転
戦闘技法:
固有スキル:
計算、瞬間記憶、並列思考、予感
魔法:
生活魔法(水生成、洗浄、照明、収納、状態、複写)
創造魔法(魔力検知、鑑定)
火魔法(熱感知)
水魔法(解毒、治癒)
地魔法(土操作、土感知、石つぶて、分離、回復)
風魔法(風操作、風感知、風の刃、風の盾、風のやまびこ、巻層の眼)
時魔法(加速、減速、減衰、符号演算)
耐久の数値が微妙に上がっているが、基礎体力が向上したのだったら嬉しいな。
他には器用の値も上がっている。
それよりも“役割”が『
スキルに意識を向けてみる。
魔力追駆:感知した魔力を追駆しやすくなる。
追駆っていうのは追跡の類語だと思うのだけれど、単純に“追跡する”以外でも効果があるんだろうか。
あと、たぶん暗部の人たちはこのスキルか、似たようなスキルを磨いているのかも知れないな。
そこまで調べてからあたしは日課をこなそうとしたのだけれど、何か忘れているような気がしてそのまま勉強机の椅子に座る。
寮に戻る前は歴史研でお喋りして過ごしていたな。
今日の制圧作戦は果てしなく面倒だったけれど、その前は部活棟に行こうとしたはずだ。
その前は普通に授業を受けて、その前はみんなとお昼を食べて、その前は午前の授業を受けた。
朝は普通に過ごしたかなというところまで考えて、あたしはホリーに週末の予定を訊いたことを思いだした。
「あ、そうか……。お礼がてらホリーの稽古代わりに、
あたしもしばらく同門での稽古はしてないんだよな。
時計の魔道具を確認すれば、幸いまだ消灯時間では無い。
そこまで考えてからあたしは自室を出て、ホリーの部屋に向かった。
ホリーの部屋の扉をノックすると、彼女は直ぐに顔を出した。
「あらウィンじゃない、どうしたの?」
「“お礼”の話をしようかと思ったのよ」
「そう。――何も無い部屋だけど入って?」
「おじゃまします」
寮の部屋はそれぞれの個性が出ると思うのだけど、ホリーの部屋は何も無いのが個性だった。
諜報活動に関わっている貴族家の令嬢というのは伊達では無さそうだ。
「わたしの実家は王都にあるし、私物なんかは家に置いてあるの。必要なものはマジックバッグに入ってるけどね」
そう言って彼女は壁際のマジックバッグを指す。
「
「それも多少はあるけれどね」
ホリーはそう言って笑う。
「それで話って?」
「その前に、防音壁を作っていいかしら」
「いいわよ?」
ホリーからオーケーが出たのであたしは【
「ええと、“お礼”の話なんだけど、うちの流派の王都の取りまとめ役があなたの家のことを知ってたの」
「まあ、それはそうでしょうね」
「いつでも連れてこいって言われたから、もし良かったら今度の週末に行ってみない?」
「え、いいの? ウィンの流派の取りまとめ役ってことは、要するに月輪旅団の王都の取りまとめ役よね?」
「そうね、本人から聞いた話だし、ホリーが嫌じゃ無かったら案内するわよ?」
「それは……、そういう伝手は歓迎よ! ふふふ……、これで父さんに勝つる!」
父さんに勝つって仲悪いとかじゃ無いだろうな。
というか語尾がおかしくなってるし。
「……ホリー? 一応訊くけど、父さんってどういう意味よ。親子ゲンカなら関わらないわよあたし達」
「単純に父さんに自慢できるって意味よ。ウィンの友達って時点で自慢できるけどね。それに加えて、月輪旅団の取りまとめ役に仕事じゃないのに遊びに行ったとか、父さん羨ましがると思うから」
そこまで説明してからホリーはグフグフと笑った。
男爵家とはいえ貴族令嬢が、そんな笑い方をしていいのだろうか。
「ま、まあいいわ。そういうことなら明後日の休みは朝から開けておいてね」
「了解よ!」
「それであなた、試合がどうこう言ってたじゃない?」
「そうね。実家を離れたら稽古をする機会が減ったのよね」
「そういうことなら、明後日の休みは
「鬼ごっこ?」
あたしは取りまとめ役に許可は取るけれど、と前置きしたうえで以前デイブと行った鬼ごっこの話をしてみせた。
「やる! 絶対やる! 雨が降ろうが雪が降ろうがやるわ!」
「そ、そこまで食いつくようなものかな?」
「これで父さんに勝つる! グフグフグフ……」
「…………本当に親子関係は大丈夫なのよね?」
ともあれ、ホリーは次の休みにデイブに紹介することが決まった。
自室に戻ってデイブに【
「もともとあれはうちの流派の稽古法じゃねえからな。確か
「そうなんだ?」
「ああ。なんでも獣人の本能を刺激するらしくて、一日中鬼ごっこをして鍛錬になるらしいぞ」
それは本当に鍛錬なのか。
「そもそも
「あ、それは面白いかも知れないわね」
「決まりだな、明後日は予定を開けておく」
「ありがとう」
デイブとの連絡を終えて、あたしは日課のトレーニングを始めた。
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