第9章 あたし説明書くらい読みますけど

01.母が色々教えて無くて


 収穫祭の最終日にゴッドフリーお爺ちゃんが王都を発つということで、みんなで見送ることにした。


 王都の南広場へ待ち合わせの時間にアルラ姉さんと向かうと、すでにイエナ姉さんやジェストン兄さん、そしてデイブとブリタニーにジャニスやニコラスまで揃っていた。


 お爺ちゃん以外ではあたしとアルラ姉さんが最後だったようだ。


 みんなにおはようと告げた後に、あたしはニコラスに声を掛けた。


「ニコラスさんも来てくれたんですね」


「うん。ジャニスが教えてくれたんだ」


 そう告げてニコラスはジャニスに視線を移す。


「あーしはデイブの兄いから聞いたから来たのさ。ニコラスは爺様と知り合いだったみたいだし、連絡しといたんだ」


「ほんとに助かったよジャニス。もし挨拶に来なかったりしたら、それがもし本家に伝わるとあとで多分大目玉だったと思う。ありがとう」


「気にすんなよニコラス」


 そうやって言葉を交わす二人はとても機嫌が良さそうだった。


「それでお爺ちゃんは?」


「わたしたちの集合時間を早めにしておいたから、そろそろ来ると思うわよ」


 イエナ姉さんがそう応えた。


 十五分ほど経ってから、その場に唐突にゴッドフリーお爺ちゃんが姿を現した。


「おはようみんな。――なんじゃ、こんなに集まってくれたのか。済まんのう」


『おはようお爺ちゃん』


『おはよう爺様』


「おはようございます、ゴッドフリーさま」


「まぁ、今生の別れでも無いじゃろうが、アロウグロース領に戻るとしばらくは動けんからのう。順番に話をしておくよ」


 そう言ってお爺ちゃんは先ずイエナ姉さんと話を始めた。


 その後、ジェストン兄さん、アルラ姉さんと来てあたしのところに来た。


「それでウィンよ、教えたことは気長にやってみておくれ」


 月転流ムーンフェイズの極伝である始原魔力の件と、時魔法の件だろう。


「ありがとうねお爺ちゃん。気長に練習してみるよ」


「うむ」


「そうそう、リーシャお婆ちゃんと母さんには手紙を書いておいたからね」


 あたしが努めて晴れやかな笑顔を作ってそう告げると、お爺ちゃんは数秒固まっていた。


「そ、そうか……。まぁ、……何とかなるじゃろう」


「王都でのことはともかく、家に戻っても元気でいてね」


「うむ。ありがとうウィン」


 お爺ちゃんは苦笑いでそう告げて、あたしをハグした。


 そのあとお爺ちゃんは順番に、デイブ、ブリタニー、ジャニス、ニコラスと話をしていった。


 やがて全員と挨拶を済ますと、お爺ちゃんは皆に告げた。


「それではそろそろ行くよ。また時間を作って来るが、皆も元気での」


『元気でね、お爺ちゃん』


『達者でなー爺様』


「どうぞお元気で」


 あたしたちの言葉に微笑んで、お爺ちゃんはみんなに手を振ってから王都の東の方に向けて歩き始めた。


「みんな、爺様をよく見ときな。隠形の技術のひとつの極致だよ」


 ブリタニーがそう言った次の瞬間、歩いていたお爺ちゃんの姿がその場から突然消えた。


 あたしは極伝と時魔法を教わった夜に見ているけれど、消える瞬間が察知できないんだよな。


「ただの気配遮断とはまた違う気がしますね」


 ニコラスがブリタニーにそう告げる。


「爺様の場合、厳密にいえば隠形とは別のスキルらしいんだけどな。ステータスの“役割”が『仙人』になってるってのは聞いたことがあるんだが」


 デイブが横からニコラスにそう言った。


「それはどういう“役割”なんですか?」


「おれも知らん。ニコラスさんに意地悪、、、してるわけでも無くて、爺様に訊いても教えてくれねえんだ。個人的に調べても情報が見つからねえ。もしかしたら爺様本人も知らんのかもな」


「そうなんですね」


 そうか、ゴッドフリーお爺ちゃんは仙人だったのか。


 何となくあたしの地球での記憶に照らせば、仙人のイメージはお爺ちゃんに合っていると思った。


 そこまで考えたところで、あたしはふと気になったことがあった。


「ねえデイブ、ちょっと教えて欲しいんだけど」


「どうしたお嬢?」


「ステータスの“役割”って、何? 『そういう職業に向いてますよ』みたいな案内の情報なの?」


 あたしがそう問うと、デイブとブリタニーとジャニスがその場で固まっていた。


「あれ? ……何か訊いちゃいけない話だったの?」


「お嬢、もしかしてジナの姐御からステータスの“役割”について聞いてねえのか?」


「聞いて無いわね。そもそも母さんはステータスの情報はあまり重視してなかったし」


「確かにそれはそれでアリなんだが、そこまで情報を遮断するか……」


「数値なんかは一般成人が百くらいが基準だけど、戦闘技法や魔法なんかで数字が上下するってのは知ってるわ。あと、加護なんかは一桁までは一般人でもあり得て、過去の聖人には二桁以上の加護を持ってることは聞いてるわ?」


「……他には?」


「ええと、スキルが統合されることがあるくらいかしら」


 どうしようコレ、という顔をしてデイブたちが固まっている。


「デイブさん済みません、うちの母が色々教えて無くて。ステータスのことについては私が説明できます。寮に戻ったら私からウィンに教えておきますね」


 そう言ったのはアルラ姉さんだった。


 アルラ姉さんはさっきお爺ちゃんを待つ間に、デイブたちと自己紹介を済ませていた。


「そうだな。さすがにステータスを重視してないって言っても、“役割”はスキル発生に関わるからそこは教えておいた方がいいだろう」


「はい」


 そう言ってその場は納まってしまった。


 デイブがスキル発生とか言っていたので、あたしは微妙に嫌な予感がしていた。


 ともあれ、あたしの事はさておき、お爺ちゃんの王都出発の見送りは無事に済んだのでその場で解散になった。




 寮に戻り、あたしはアルラ姉さんと二人で姉さんの部屋に居た。


 先ほどのステータスの話を聞く必要があったからだ。


「それで姉さん、最低限これだけはって情報をまず教えて欲しいんだけど」


「そうね。いわゆるステータス情報、厳密には【状態ステータス】の魔法で取得できる自分自身に関する情報ね」


「それは流石に分かるわ」


「この情報は各人の魂に関連付く情報で、地神様と水神様が管理しているらしいわ。あくまでも王立国教会の説に依ればだけれど」


「それって他の説があるの?」


「一応あるけれど、脳に格納されてる情報だとか、身体全体に分散してる情報だとかいろんな説があるみたい。ただ、加護の情報なんかが含まれる以上、神々が関わって管理してるって説が一番有力よ」


「そうなのね。……とりあえずいま現在のあたしのステータスを確認しておくわね」


 そうしてあたしは【状態ステータス】を使用した。


 その結果、以下の情報が分かった。


状態ステータス

名前: ウィン・ヒースアイル

種族: ハーフエンシェントドワーフ(先祖返り)

年齢: 10

役割: 追跡者チェイサー

耐久: 70

魔力: 160

力 : 80

知恵: 220

器用: 200

敏捷: 340

運 : 50

称号:

 八重睡蓮やえすいれん

加護:

 豊穣神の加護、薬神の加護、地神の加護、風神の加護、時神の加護、

 薬神の巫女

スキル:

 体術、短剣術、手斧術、弓術、罠術、二刀流、分析、身体強化、反射速度強化、思考加速、隠形、存在察知、毒耐性

戦闘技法:

 月転流ムーンフェイズ

固有スキル:

 計算、瞬間記憶、並列思考、予感

魔法:

 生活魔法(水生成、洗浄、照明、収納、状態、複写)

 創造魔法(魔力検知、鑑定)

 火魔法(熱感知)

 水魔法(解毒、治癒)

 地魔法(土操作、土感知、石つぶて、分離)

 風魔法(風操作、風感知、風の刃、風の盾、風のやまびこ、巻層の眼)

 時魔法(加速、減速)


 まず、数値に関しては以前確認したときよりも増加しているものがある。


 今回は変な称号が増えていなかったのでかなり安心する。


 というか、あれが微妙に恐怖感をあたしに植え付けて、ステータスを確認するのを避けていた気がする。


 称号なんて他人が付けるものだろうから、気にしたら負けなのかも知れないけれど。


 魔法に関しては、【回復ヒール】がまだ出てきていないから習得できていないということだろう。


 時魔法の【加速クイック】と【減速スロウ】は反映されているので、習得は出来ているということか。


 ここまでステータスの情報を確認して、気になったのは二か所ある。


 一つはいつの間にかスキル欄に『毒耐性』が増えていること。


 正直心当たりは無いが、一瞬考えて学院非公認サークルだった『微生物を魔改造する会』の拠点を見つけた時のことを思い出した。


 あの時は微かに激臭を味わったけれど、もしかしたら影響しているかも知れない。


 真相は謎のままだけれど。


 もう一つ気になったのはやっぱり“役割”欄で、『追跡者チェイサー』になっている。


 追跡といえば、『伝説のシナモン』の行商人を追いかけたことが何か関係しているのだろうか。


 たしか前回は『探索者トレイサー』だった気がする。

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