12.街にもあたし個人にも変化があった
神域の一部で大型ビジョンを用意して惑星ライラのディンラント王立国教会で行われている会議を見ていたのだが、いちおう手は打ってある。
「どうするんだいソフィエンタ? 何やら破壊神じゃないかとか言われてるけど?」
アタリシオスは興味津々という感じであたしに告げた。
「もちろんキミが五千年くらい居眠りして破壊神になったとしても、ボクはキミを大切に扱うよ?」
どういう意味だそれはおい。
思わずこめかみに手を当てる。
「まあ、この展開は想定の範囲内だし手は打ってあるのよ。そろそろお客さんが登場するはずよ」
「お客さんだって?」
気が付けば目の前には大き目のグラスに入ったメロンソーダが、皆の手前の空中に浮かんでいる。
ハクティニウスの方を見るとこちらに頷いているので、彼が用意してくれたのだろう。
ありがとうと告げてからひと口飲んで、画面を見る。
「もう少しだけ観察しましょう」
高位聖職者たちがどういう反応をするか楽しみだ。
沈黙が満ちた円卓の会議室の窓から何やら音がする。
その場にいる高位聖職者たちが神気を感じて窓の方を見やる。
窓の外にはバルコニーがあるのだが、そこには鳥が舞い降り、くちばしで窓をつついている。
「誰か窓を開けてあげなさい」
「それではわたくしが」
教皇に促されてイグレシアス枢機卿が自ら席を立ち、窓まで歩いて開いてみせた。
そこにいる鳥は純白のハトだったが、直ぐに羽ばたいて円卓の中央に舞い降りた。
ハトはそのくちばしに何かの葉を咥えつつ、周囲を観察していた。
やがてハトは教皇の方を向くとテクテクと円卓の上を歩き、教皇の手元に咥えていた葉を置いてからノドを鳴らした。
「これを持ってきてくれたのかね」
教皇は春の新緑を感じさせるその葉を手に取って観察してみるが、シソに似ているような気がする。
だが匂いをかいでみると爽やかな香りが感じられた。
「これは……ミントか」
そう呟きながら何気なく【
そして頭に入ってくる鑑定結果を認識した瞬間に思わず叫んでいた。
「薬神様が祝福したスペアミントじゃとぉッ?!!」
教皇の声に会議の参加者がざわめきはじめる。
「祝福されたハーブですか。スペアミントならたしか挿し芽で増やせますな」
「おおい誰かそのハトにパンくずかクッキーでも上げなさい。その子は神の使いだよ」
「スペアミントはデザートやお茶などに使われますね」
「食用以外にも虫除けなどにも使えるな」
「静粛に!」
ざわめきがぴたりと止まる。
声を上げたのはイグレシアス枢機卿だった。
「教皇様、いま気付いた方も居られたようですが、スペアミントは虫よけに使える薬草です。これは“ミスティモントの奇跡”の解釈のヒントとなるのでは?」
「なるほどのぉ。薬の中には癒すのみでなく、害虫を避けるものは確かにあるのお」
枢機卿と教皇のやり取りを聞き、参加者の多くが息を呑んだり、胸の前で指を組んで祈りを捧げ始めた。
「諸君、答えは示されたと思わんかね。しかもこのタイミングで、この場所にて、我らにお示し下さったのじゃ。薬神様は我らの苦痛や災禍を除いて下さる。これは破壊ではなく、護りであり救いじゃ」
そう告げて教皇は参加者を見渡す。
「もしかすれば、いまも、見守ってくださっておるかも知れんのう……!」
教皇はそう告げてニヤリと微笑む。
みな一様に喜色を浮かべており、興奮して涙を浮かべている者も居た。
ミントについて教皇など教会内部の者による仕込みの可能性を疑うものは居ない。
この場にいる高位聖職者たちは【
その技能が、ミントから発するヒトのワザを超えた神聖な気配を確かに感じ取っていた。
「では諸君、改めて会議を進めよう。ミスティモントの聖地認定に関してじゃが、細かい条件の点検を進めるが宜しいだろうか」
「その前にいいでしょうか。まずはスペアミントの葉を運んでくれたハトくんに感謝の意味で何か餌を。またその子が逃げないのなら本部で飼う許可を頂きたい」
総務部の責任者の者が挙手して提案した。
「確かに神の使いじゃのう。吾輩の名においてハトちゃんの厚遇を保証すると誓おう。他には無いだろうか?」
「それでは二点。一つはそのスペアミントを教皇様以外の者にも念のため仔細に鑑定させて頂きたいこと。もう一つは挿し芽とか言いましたか? その葉を増やす許可を頂きたいこと」
観測部の責任者が発言したので、教皇は許可する旨を伝えてひとつ頷いた。
そして祝福された葉をイグレシアス枢機卿経由で手渡しした。
その後、会議は大きく逸れることなく進み、最終的にはミスティモントは聖地と認定された。
ちなみにこの会議で持ち込まれたスペアミントは挿し芽で増やすことに成功し、王都でミントティーが末永く愛飲されるきっかけになった。
またこの時のハトは国教会本部に根付き、その子孫まで含めて大切に飼われた。
ミスティモントが聖地認定される辺りまでを大型ビジョンで確認してから、あたしたちは神々の街へと引き上げることにした。
「今回のハトを使った介入は、タジーリャに許可を貰ってあるのかい?」
「もちろんよ、きちんと相談したわ。いま観察した会議の前の段階で、あたしを破壊神扱いするかで悩んでる連中が居たのは把握してたもの」
「まあ、神格の役目を大きく外れる認識の可能性は、修正しておくのが妥当だよね。人類が妙な発展を望んで選ぶきっかけにしないためにも」
「そうなのよね。ホントにめんどくさいわ」
「メンドクサイヨネー」
「ちょっとハクティニウス、あんたはもう少し話したりしなさいよ!」
あたしが突っ込むと、ハクティニウスは首をフルフルと横に振っていた。
こいつはこんなのでいいのだろうか。
地竜の来襲から一年経ち、あたしは六歳になった。
街にもあたし個人にも変化があったが、かなり慌ただしい一年だった。
街の変化としては、王立国教会の奇跡の認定を待たずに新しく設立された騎士団の本拠地が置かれたことがある。
騎士団の名は“聖塩騎士団”で、街のみんなの感想としてはそのまんますぎるだろうという反応がほとんどだった。
いちおうみんな好意的ではあったけれど。
団長はティルグレース伯爵の嫡子であるウォーレン・グラハム・カドガン様に決まり、ウォーレン様は嬉々としてミスティモントに奥様とお子様を連れ家族ごと引っ越してきた。
引っ越しに先立ってお忍びでウォーレン様が我が家を訪ねてきた。
ウォーレン様と父さんは剣の同門でマブダチだったらしく、母さんとも顔見知りだったようだ。
初めて見たウォーレン様はザ・貴公子という体で父さんと同年代とは思えない若い印象を漂わせていた。
だが挨拶もそこそこにウォーレン様は模擬戦をしようと駄々をこねはじめた。
結局やることになり、開始の合図直後に豹変して「死にさらせー!!」とか叫んで父さんに突進していた。
あたしは脱力し、姉さんたちは顔を青くし、兄さんは喜色を浮かべ、母さんは変わらないわねぇと呟きながらニコニコしていた。
ちなみにお供の人たちは揃って頭を抱えていた。
団長があんなに突進型で大丈夫なんだろうか。
ともあれ、聖塩騎士団が来たことで街は拡張され、行政的には町から市に変わった。
地竜の塩の像は魔法で経年劣化を防ぐ処理が施され、保管や研究をする建物を中心にして新市街の整備が行われた。
王都からも整備の応援が派遣され、魔法を駆使して恐ろしい早さで新市街が出来上がっていった。
ミスティモントには騎士団の物資補給を支えるために鍛冶屋や木工所、商家や農家などが増え、近隣の山には鉱山が開かれた。
新市街には冒険者ギルドの支部が設置され、父さんは狩人と冒険者ギルドの相談役を兼務することになった。
住民も増え、市長になったビリーさんは仕事をサボってうちで父さんや母さんに愚痴をこぼしながら呑み、奥さんや子供さんに連れ帰られることが何度かあった。
人も増え街も広がっているが、治安も保たれ街は活気付いている。
あたし個人の変化としては、母さんからトレーニングが始まったことが大きいだろう。
ソフィエンタの言葉を受けて、母さんは父さんと相談した。
その結果、魔法や戦闘術を中心に母さんの実家の傭兵団で伝わる技術と知識を叩き込むことにしたようだ。
料理や裁縫などは「毎日私を見てるし、ウィン自身好きでしょうから後回しね」と優先度を下げられた。解せぬ。
比較的早期に習った魔法、【
ソフィエンタからの情報通り、教会は聖人や聖女の類いの捜索を始めた。
具体的には日付を指定されて教会で【
結局あたしは母さんや父さんと何度も相談して名乗り出ないことを決め、巫女であることを隠した。
それを過ぎてからも母さんからの鍛錬は続き、いまの状態はこんな感じになっている。
【
名前: ウィン・ヒースアイル
種族: ハーフエンシェントドワーフ(先祖返り)
年齢: 6
役割:
耐久: 60
魔力: 100
力 : 60
知恵: 160
器用: 110
敏捷: 200
運 : 40
称号:
なし
加護:
豊穣神の加護、薬神の加護、地神の加護、風神の加護、時神の加護、
薬神の巫女
スキル:
体術、短剣術、手斧術、弓術、気配察知、二刀流、暗視、方向感覚
戦闘技法:
固有スキル:
計算、瞬間記憶
魔法:
生活魔法(水生成、洗浄、照明、収納、状態)
火魔法(熱感知)
地魔法(土操作、土感知)
風魔法(風操作、風感知、風の刃、風のやまびこ)
数値に関しては一般成人が百程度らしいが、いろいろとツッコミどころがあるステータスである。
加護はやや多いものの珍しくは無いそうで、歴史上に名を馳せた聖人には精霊などからの加護を含めて二桁の加護を持つ者も居たそうだ。
母さんに習いながら【
幸い父さん自身の身の潔白は母さんも把握しているので、先祖のどこかにドワーフの血が入っていることが考えられた。
母さんは実家が純血のヒューマンの家系というのは、宗家となっている武術である
後日心当たりがあった父さんが、王都のお爺ちゃんに手紙を書いて確認したところ、お爺ちゃんの母親がドワーフの血を引いていたらしい。
要するに父方のひい婆ちゃんがドワーフだったわけだが、ドワーフの女性は成人すると外見上の老化が鈍化するそうだ。
その辺りのことを夕食の席で知った母さんがボソッと「ブラッドの家系ってロリコンかしらねえ」と表情無く呟いたときは軽くホラーだった。
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