第4話 悲劇
次の朝、小鳥がさえずる頃二人は無事に夜を超えた。追加の資源を得る為次の目的地を探していた。
「さぁて、次は昨日のスーパーの真向かいにある所を散策するぞ。調査地図にも印は付いていない、未探索のはずだ」調査地図を広げて探索済みの印を確認した。
「今日は必ず帰らないといけない、少し先を急ごう」
「まぁそう焦るな、慎重に生きて帰るのが一番だぜ」そう言いながらおもむろに歩き出す。
「それはわかってる、それはそうと昨日の傷は大丈夫なのか?」彼の右腕に視線を下げて言う。
「問題なし! 一応昨日、包帯を巻いておいたんだ」乱雑に巻かれた右腕は少し不恰好に見えた。
「そう、よかった」
二人は昨夜通った道を再び進んだ。暫く歩いた所で目的地が見えてくると大きな看板に目が止まった。
「薬……?薬屋か! 丁度良かった、何か腕に塗るやつがあったら貰って行こう」かつてはドラッグストアと呼ばれていた。
二人はまた、しんとして動く気配のない自動のドアを手動で開いて中に入る。昨日のスーパーと違い、こちらはさほど荒れていなかった。辺りにスーパーや食料品店が多かった為か、この中には壊人が入った様子があまり無い。
「やったぜ! こっちはまだ綺麗だ、まずは俺の薬を先に頂くぜ……」
傷に塗る塗り薬のようなものを見つけて手に取った時、外から聞き覚えのあるような人間の声が聞こえた。
「……おーい……タケル! ケンジ! どこだ!」大きな音が出る事を考慮せず、男は叫んでいる。
「ん? この声……ミヤビさんじゃない?」
その男は調査・補給班の別動隊でケンジとは長い付き合いで、昔はケンジと共に調査に出ていた。
店の外に出て呼ぶ声に応えるとその男は調査地図のルートを辿って来たのだろう、右手に紙切れを持って彼等の方を向くと紙をばたつかせながら駆け寄った。
「はぁ、はぁ……」酷く息を切らしている。
「どうした? 何かあったのかミヤビ、こんな所まで一人で走って来たのか?」
「はぁ……大変だ、拠点のみんなが……!」彼は錯乱状態になっていた。
「落ち着け! らしくないぞ」
「やつらが、壊人が集団で拠点に攻めて来やがった! 死傷者多数! 女子供は生きているが連れ去られちまった……!」
「なんだって? 奴等が集団で? そんなことあり得るのか……?」事実をすぐには受け入れきれずに狼狽えた。
壊人の発生は昔の世界大戦、生物兵器として脳が破壊、身体が強化された人間が作られたとされている。身体能力の向上や高い戦闘力の代わりに知能を失っていると言われていたが、これらは全て言い伝えによるものでどこからどこまでが本当の話かはもう知る者は一人もいない。
「いや、今までで一度も例は無いはず……」
二人の心拍数は同時に跳ねるように上がっていく。約束を持つ者も妹を持つ者も同じように。
「マイ……」
このままでは混乱を止められないと悟った男は混乱を吹き飛ばすように威勢よく声を張り上げて二人に言う。
「状況を整理する! 死傷者の医療物資は足りていたか! 奴等が向かった先は!」
「医療物資は充分には無かったはずだ……俺は気絶していて向かった先は見ていない。万全で動ける奴はお前達しか残っていない、ただ一時的な治療で動けるようになる奴もいるだろう……」
「都合良くここで医療物資は取って行ける……!医療物資を取ったら一旦拠点に帰るぞ!どっちにしろあれが集団となるとこっちも人数が居る、拠点で治療と何か知っているやつが居ないか聞き込みをする!」
「……すぐに戻ろう!」
三人は勢い良く医療物資を掻き集めると拠点への道を走った。誰もが不安に駆られ、恐怖に煽られている。充分とは言えない物資に拠点の実質的な全滅、壊人が突如見出した集団行動。道中、一言も交わす事なく走り続けた。希望の灯火が消えないように祈りながら。
帰路の半分に差し掛かった所で行く手を阻まれる。
「くそっ! ここでも集団行動かよ! 五人か……何がどうなってる!」
「今までにこんな事は無かった、何かが変わっている。嫌な予感だ。とにかくここを突破しよう! 火炎瓶を使う!」リュックサックから火炎瓶を取り出す。
「おい、ちょっと待てそれだけ投げたって火はどうすんだよ」
「僕が火炎瓶を投げた後そこに銃弾を打ち込んでくれ、運が良ければ引火するはず」咄嗟に作戦を立てた。
「初めての銃が当たればな……」
覚悟を決めて引き金に指を掛ける。目配せをして火炎瓶を集団に投げ入れようとした時、何かが壊人の頭部に刺さる。痛みか驚きか、壊人がすぐさま反応して振り返った所に心臓を一突き。呆気なく一人は倒れ込んだ。頭部と胸部に矢。
それが飛んで来た方向を見ると五階建のビルの屋上に人影が三つ。逆光によって姿は見えなかった。
「隠れろ! 敵か味方かわからん!」呆然としていた二人に指示を出す。
三人が街路樹の陰に隠れた頃、次の矢が勢い良く飛ぶ。同じように頭部から心臓、頭部から心臓――一つも外す事が無いまま眼前の五人は地面に伏せていた。
息絶えた事を高層の一人が確認した後手で合図を出すと、その三人はすぐさま姿を消した。
「なんだったんだ……?」木陰から身を乗り出すとビルの方を確認した。
「わからない、この辺りに僕たち以外にも人間がいたのか……? とりあえず助かった、先へ進もう」
五つの死体を避けて進む。道中、集団で固まっていたのはここだけだった。後は見かけても一人で歩いているだけだった為三人で上手く戦闘を避け、拠点へと辿り着いた。
「はぁ……はぁ、ついた、早く中へ!」乱雑に扉を開ける。
拠点の中は凄惨な状態だった。一人で二人から三人程度の身体能力や戦闘力を持つ壊人が集団で襲ったとなるとこの拠点に悲劇を避ける術は無かった。また、その集団行動が知恵をつけた事による結果だとすると、それはほとんど人類の滅亡を意味する出来事だった。
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