アブソリュート・ウィル
やばめさん
第1話 理想世界
その昔、世を
魔族の少女だ。
また、
彼女が自身の城にて
そうして今まで配下と自身で、障害となる存在をあまねく全て滅ぼしてきている。
魔術師の最強格にして、
魔族の頂点たる魔王さえ、その実力に
この世界らしく
魔族以外の全ての
彼女は、魔族の姫である。
◇
魔術師の中でも特に
他に
単純だが、これまで彼らは数々の人の危機を救い、英雄と呼ばれるまでに至った。
しかし、それも。
鹿路幽良がその全ての能力を
「同じティア1でも、
「く、バケモノめ……。いつか裁きが下るその時を待っていろ!」
彼らは、報復に来た。これまで傷付き、失った同族を弔うために。
けれど、もう食傷だった。同様の言葉を、何度も投げかけられているから。
「ありきたりだな。貴様らはそんなセリフしか
バケモノだ、無情だ、邪悪だ──そんな言葉だってもう、何度も聞いてきた。
幽良にだって、魔族としての誇りと主義がある。貶されたままなんて気分が悪い。
「いつまでも涼しい顔をしていられると思うなよ! 邪悪であるからには、代償も覚悟するんだぞ」
そう言って幽良を
当然のことになぜそのような感情をもよおすのか。いや、それはいい。一番
「わたしはバケモノでも邪悪でもない。鹿路幽良という、一人の魔族だ。少し強いだけで、全てを従えるわけでもない。そしてわたしが求めているのは、魔族の
「…………」
「戦い、殺し、奪う──。生存競争に加担している時点で、代償など、とうに覚悟している」
「ならそれ以前に、お前は人を
「つくづく呆れる。貴様は虫を殺めてなにを感じるというのか」
否、そこには
「なっ……」
「わたしが貴様ら人間を殺める時の感覚と変わらない。それに、貴様らもやっていることは同じようなことだ」
「それは……」
「争いをしなくていい世界があるのなら、そちらがいいとでも思っているのだろう。わたしも、
その言葉に、
冬真はその言葉を聞いくと、希望にすがるような目をする。
「お前も……なのか…………?」
窮地に立たされ、藁にもすがる思いでいるのが、目に見えるように伝わってくる。
「だが、そうだな。
幽良は腕を組み、指を
「わたしは──貴様らが大嫌いだ」
「どうした、その表情は。まさか、わたしが和解を提案するとでも思ったのか?
そう言われると、冬真は手に持っていた杖を強く握った。
「やはり、お前はここで倒さなくちゃいけないようだな……! ここにいる、俺たち兄妹で!」
ふっ、と幽良はその言葉を聞くと
そして空に
「面白い」
幽良は手を
「ならば、受けてみろ。貴様らの力を合わせてこの一撃を耐えてみせるといい」
その手の
「──【
しかし、そのとき。
蒼い空間が広がり、全てが、止まった。
(………………!?)
なにが起こった、そう口を開くことさえできない。
ただ、意識だけは正常で、ものを考えることならできるのだ。
幽良は顔を
(力が入らない、とは少し違うな……)
まるで、体だけの時そのものが止まっているかのような状態なのである。
「──そんなかわいい顔して怖いことしないの〜」
(…………?)
雲を裂いて、声の主が降りてきた。
現れたのは、魔族でも人間でも、その
「あなたとは、初めて会うよね。どうも、わたしはダナ。よろしくね」
それは、まだ幼い少女の見目をしていた。
優しげな双眸。あどけなさを感じる顔立ち。
(わたしの動きを止めるとは……。しかし、
「本当に、危なかったよ」
先程ダナと名乗ったそれは幽良に近付いてきた。
元々、人間とは違って魔族は実際に目にしたものしか存在を認めない主義なのだ。故に、最大の不覚だった。
神というのは、それが実在するかは曖昧なのである。
(なにをするつもりだ……?)
「はい」
トン、としなやかに伸びた指が肩に触れる。
同時に、幽良の
「なぜわたしの
「わたしに危害を加えられなくしたからね。暴れても
「詰み……なのか」
幽良は呟いた。
先刻から感じていた。ただ動けないだけではないその感覚は、幽良の形容した通り、体の時そのものが止められていたようだ。
しかし意識だけを対象外にするとは、
いや、本当にそんな神技が実在するのだろうか。ダナのハッタリの可能性だって考えられる。
「真偽を確かめてやろう。命乞いをするなら、今の内だが……」
「別にいいよ。本当にやっちゃったからね」
幽良は容赦なくダナに手の平を向ける。
と、幽良はその直後に目を見開いて自身の手の平を見下ろして、驚嘆の声を漏らした。
「驚いた。魔力が練れないというか、
恐らく無理に魔術を発動させようものなら、地面に落下するだろうし、浮遊できる程度の魔力で攻撃をしても、大した威力になりやしない。
遺憾にも、本当に詰みのようだ。
「ね。凄いでしょ」
「ふん」
眼下の人間たちは、今も変わらず"時間の外"、言い換えれば
本来ならばとっくに無に
いきなり来て、好き勝手やってくれるものだ。
「は〜もう〜、
「生存競争を軽視しているのか」
幽良はダナを冷たく見る。
喧嘩? まったくもって、そんなものではない。なにを勘違いしているのだろうか。
「え──あ、違う違う! 違うよ!? ごめんね、こういう態度だから勘違いさせちゃったかも?」
あんまり争い事とか好きじゃないから、とダナは自身の
「そうか、わたしの勘違いか。──それはそうと、せっかくわたしを無力化したのだから、
時そのものに
「ずっとこうしていられるわけではないだろう」
「気付かれちゃったか……あはは」
有り体に言えば、早く話してほしいところである。
ダナは表情を真剣にして告げた。
「プリンセス・ユラ。あなたには、別世界に転生して人間のことを理解してもらうよ」
「…………は」
予想外の用件に、幽良は色を失う。
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