アーティスティック・ディストーション

桜木 トモ

プロローグ

 昔々、あろところにトンチで評判の小僧がいました。あるとき、小僧の評判を聞いて、時の殿様がお城に小僧を呼びました。

 殿様は小僧に虎の描かれた屏風を見せます。殿様は言います。

「この屏風に描かれた虎は、夜ごと屏風から抜け出し悪さをするので困っている。だから、屏風の虎を縛りあげてほしい」

 小僧は殿様に快諾します。

「わかりました」

 そして、続けます。

「それでは、虎を屏風から追い出してください。すぐに縛ってご覧にいれます」

 小僧の言葉を聞いた殿様は怒ります。

「屏風に描かれた虎を追い出せる訳がないだろう!」

 小僧は澄ました顔で答えます。

「では、屏風から虎は出てこないのですね。いくら私でも、屏風から出てこない虎を縛ることができません」

 それを聞いて殿様は小僧の頭の良さに感心しました。

「なんとあっぱれなトンチだ! 褒美をやろう!」

 こうして小僧はたくさんの褒美をもらって帰りました。

めでたしめでたし



 数日後、お城全体が悲しみに包まれていました。殿様を始め、お城で多くの人が亡くなったからです。

 恐ろしい事件があったようです。殿様の身体は無惨にも食い破られていました。その有様は凄まじく、殿様の寝ていた布団の近くに置いてあった虎の描かれた屏風までもが血塗れになるほどでした。また、亡くなった他の人々にも大きな爪に引っ掻かれた傷や、噛み跡が多数見つかりました。

 残された人々は必死に犯人を探しました。ですが、手掛かりは見つかりません。わかったのは、全員が噛まれたり爪で引っ掻かれたりしていたということ。人間ではなく、何らかの動物が関係しているのだろうということだけ。

 城では大きな犬を飼っていましたが、この犬も同様に死んでいます。では、他の動物が侵入したのか。

 けれど、城の周りには立派な堀があります。城に唯一繋がる橋には、見張りが立ちます。この見張りは、その夜誰も、何も橋を渡っていないと証言しています。そもそも、橋からやってきたのならば、この見張りだって殺されていることでしょう。

 調べれば調べるほど謎は深まります。

 結局、いったい何が起こったのか誰にもわからないまま、事件は風化していきました。

おしまい

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