朝焼けと白いワンピース

わふにゃう。

第1話:新年

 澄んだ鐘の音が、新しい一年の始まりを告げている。ソニア・マクレールはある種の達観した表情を浮かべつつ、壁の上から街を見下ろしていた。朝日の鮮やかな橙色が街を美しく照らし出している。何人かのカメラマンが夢中でシャッターを切る音がソニアの耳元で反響した。

******

 「毎年毎年、ありがとうございます」

 「いえいえ、こちらこそ。ここまで登ってくるのも大変でしょう」

 「それが、初日の出をこうして壁の上から生で見られると思うと全然苦痛じゃなくて」

 ソニアと向かい合って話していた女性レポーターは、そう言って微笑を浮かべた。

 この街の西側はずっと壁が続いている。高さは400メートル程で、登る方法は階段を使うのみ。北と南には大きな川がそれぞれ1本ずつ流れており、東に向かって平坦な土地が続いている。

 となると、美しい日の出を見ようとするならば必然的に壁の上から見ることになるのだが。

 「いつも軍の特務官しか立ち入れない所を、年始まりだけマスコミのみ入場させていただけるんですからね。役得、っていうものです」

 「それほど嬉しいですか?」

 「実は私、この日の出を見たいがためにレポーターになったんですよ。あ、ここはオフレコでお願いしますね」

 「奇遇ですね。私も日の出が見たくて、軍に入ったんです」

 二人は示し合わせたかのようにクスクスと笑った。

 「じゃあ、あれですね」

 ひとしきり笑った後、レポーターは言った。

 「私達は『朝焼けの魔物』に魅せられたようなものですね」

 「……そうですね」

 『朝焼けの魔物』。この国に伝わるお伽噺だ。

 そう、ただのお伽噺。レポーターからしてみれば、だが。

 「……大丈夫ですか?気分が悪そうですけど」

 「最近、眠れてなくて」

 「睡眠薬とか飲むと楽ですよ」

 「……今度、支給してもらえるかどうか聞いてみます」

******

 それでは私達は記事を書かないといけないので、とレポーター達はしばらくの後帰っていった。

 一人『家』に残されたソニアは、準備を始める。

 あちこちを掃除した後、ソニアは自身が着ているものと同じオレンジ色の軍服を机の上に広げた。3日前に軍から、支給品と一緒にドローンで送られてきたものだ。

 今日来る後任のために仕立てられたそれは、シワ一つないきれいなものだった。

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