010 リング・ダンジョンの秘密

「……みっつ目の理由って、なに……?」

いままで黙っていたロゼッタが口を開いた。


「それはね、このダンジョンの特性によるものなの」

「特性……」

「そう、このダンジョンの奥の奥には温泉が湧いていてね」

「温泉⁉」エリナが勢いよく反応する。

「まあ、温泉と言っても人間が入ると大ヤケドするくらいの超高温よ」

「ふぇぇ……」エリナががっくり肩を落とす。


「湧いているのは温泉だけでなく、ある有毒なガスも吹き出していてね、それを人間が長期間浴びつづけると……」

カルメンさんはそこで言葉を切って、全員の顔を見回した。

「男の人はみんな、女の子になっちゃうの」

な、なんだってー‼


「……なるほどそれで……男の冒険者がダンジョンに寄りつかない……わけ……」

ロゼッタが納得した様子でうなずいた。


「だったらこいつはどうなんだよ⁉」

ベルカがクレオを指さした。

「わた……僕は大丈夫です。実はこう見えて男のヒトがスキなので、女体化ウェルカムです‼」

「あらあら~、そうなのね~」

おい。さっきの3000人を食った設定と矛盾してるぞー。


カルメンさんが話を続ける。

「その上、中のモンスターもそのガスの影響で、みーんな〈メス化〉しているの」

「メス化?」

「そう。スライムもコボルトもオークも、どれも可愛い女の子の姿で出てくるそうよ」

な、なんだってー‼


「その上、倒されると服が破れて全身が裸になるみたい」

「ぬおお――――――――っ‼」

しまった。思わず声が出てしまった。


「いまどっかで男の叫び声がしなかったか?」

「わ……ぼ、僕です。げふんげふん。ぬおー」

クレオちゃんナイス。恩に着るぜ。


「それを目当てにえっちな冒険者がときどきダンジョンに行くんだけど、みんな返り討ちにあって、精を抜かれてカラカラの状態で帰ってくるの。女ばかりの世界なんで、繁殖のために男の精がいるのかもね」

う、うらやまけしからーん‼


せやけど、なんでそんなエロゲみたいなダンジョンが近くにあんねん?

神のイタズラか?

それともいきはからいなのか?


「だいたいわかった。オレはこの話に乗るぜ」

ベルカが契約書にサインを始めた。

「……あたしも」「僕も」


「エリナちゃんは、どうする?」

カルメンさんがエリナの顔をのぞき込む。


「わたしは……でも……」

エリナが俺を見つめながら迷っている。

あ、まさか⁉ 俺がダンジョンでふらふらと浮気なことをするのを心配している?

大丈夫だよ~。俺はエリナちゃん一筋だよ~。


「じゃあ成功報酬として、スフィラさんのお店で1ヶ月ケーキ食べ放題の券もつけましょう」

「……じゅる……。やる‼ やりますー‼」

エリナの中で、食い意地のほうが勝ったようだ。


  ***


「さあ、今日は歓迎会よ‼ いっぱい食べて、いっぱい飲んでいってね‼」


あの後、訓練や攻略日程などの細かい打ち合わせを行って、いったん解散した俺たち4人と1丁は、カルメンさんに呼ばれて宴会場にやってきた。


宴会場と言ってももちろん和室などではなく、大きなテーブルと椅子がたくさん並んだ部屋だ。


宴会場には、曲撃ち団のメンバーたちがすでに座って待っていた。

人数は10人ほどで、アメコミヒーローや、ひょろ長い男もいる。


「おう、待ってたぜ、お嬢ちゃん!」

「よっ!さすらいのアヴェンジャー!」

「あの6連発ショットにゃシビレたねぇ」

彼らが口々に俺たちの活躍をほめたたえる。


「え?さすらいの……ってことは、お前があの射撃大会の優勝者なのかぁ⁉」

ベルカがすっとんきょうな声をあげて驚く。


「……オレもあれは会場で見てたよ。そっかそっか、あの子がお前だったとはなあ。だいぶ見直したぜ!」

ベルカがエリナの頭をナデナデする。

「……あなた……意外とスゴいのね……」

「そんな凄腕だったとは!僕も心強いです!」

「でへ……でへへへ……」

エリナがまた照れ照れのだらしない顔になった。


歓迎会は夜遅くまで続いた。

歓迎会が終わると、ベルカたち三人はそれぞれの宿に帰っていった。

彼らも明日以降には、こちらのホテルに移ってくる予定らしい。


エリナにはホテルの個室が割り当てられた。


「明日から特訓だから、今日はじゅうぶん身体を休めてね。おやすみなさい」

カルメンさんはそう言い残すと、自分の部屋へ去っていった。


エリナがベッドにばふんと倒れ込む。

彼女はあお向けに寝転がると、俺を枕元に置いた。


「……ふう……」

「おつかれさん」

「ほんとに今日は疲れたぁ……。一日のうちにいろんなことがあり過ぎだよぅ……」

「確かにそうだなあ」

「でもわたし、ゴウちゃんと出会えて、ほんとによかったよ」

「そうかい」

「うん‼ これからも……ずっと…いっしょに……むにゅ……」

そのままエリナは眠りに落ちた。


俺もキミと出会えてよかったよ。

これからも、よろしくな。

俺は彼女の寝顔に、そう語りかけた。


――――――――――――――――――――

《作者コメント》

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