009 カルメンさんと勇者のメダル

ベルカが仕方無さそうに腰を下ろす。

その顔はかなり不満そうだ。まあ無理もない。


席についたベルカがぼやいた。

「今日が初顔あわせって聞いて、どんなメンバーが来るのかと思ったら、みんな年端もいかない初心者の女の子ばっかりじゃないか」

「うんうん。そう言われても仕方ないわねぇ」

「僕はオトコです!」クレオが反論する。

「そうそう、そうだったわね~」

カルメンさんが適当なあいづちを打つ。この人もしかして……。


「お前はいちおう男かもしれないが、年端もいかないシロウトには変わりないだろうが!」

「な、なんだとー⁉」

ベルカの言葉にクレオが食ってかかる。


「しかも女みたいな顔しやがって。たぶん童貞だろ?」

「どどど童貞じゃないっ!都会に出るまでに故郷で3000人の女を抱いたぞ‼」ウソをつけ。

「あらすごいわね~。モテモテなのね~」

カルメンさんが軽いノリで手をたたく。


ひと呼吸おき、カルメンさんが黒板の前で三本の指を立てた。

「さて! 私があなたたちを選んだのには、実は三つの大きな理由があります!」

ほう。給料がショボくてもよく働きそう、とかかな。


「ひとぉつ! あなたたちは全員……かわいい!」

座っている全員の目が点になった。

何を言ってるんだこのヒト?


「かわいいは正義‼ 正義は勝つ‼ だからダンジョン制覇も可能‼ この三段論法です。どーお?完璧でしょ?」

かしこそうな顔してるから油断してたが、さすがはあの広告を書いたヒトだ。

頭のネジが2、3本外れている可能性がある。


「……」

今度はロゼッタが黙って帰り支度を始めている。

うん、そりゃ、帰りたくもなるよね。


かまわずカルメンさんが話を続ける。

「ふたつ目は将来性です! この私、カルメンさんが見極めて、応募者の中でも特に成長の伸びしろが大きそうな人を選びました!」

いや、なんでたんなる曲撃ち団の人が、そんな判断できんねん。


「いま、なんでただのナイフ投げのお姉さんがそんな判断できるの?と思った人は手をあげて」

4人全員が手をあげた。

俺も手があればあげてただろう。


ふふふ、と笑ったあと、カルメンさんはポケットに手を突っ込み、一枚のメダルを取り出した。

「じゃじゃーん‼」

メダルは金色で、まばゆいばかりの光に包まれていた。


「こ、これは〈勇者のメダル〉じゃねーか⁉」

「認定印入りの本物だ! 初めて見ました!」

ベルカとクレオが大声を上げた。

「……!」

黙ってはいるが、ロゼッタも大きく目を見開いていた。


「実はここだけの話ー、カルメンさんはー、昔は女勇者をやっておりましたー!」

「えええ――っ‼」

4人と1丁があっけにとられる。


カルメンさんが勇者? 似合わねーっ‼

おっぱいは大きいが、彼女はすらっとした長身の美人だ。大剣を振り回して戦う勇者のイメージとは大きくかけはなれている。


てか、本当に勇者なら自分でダンジョンに行けばよくね?


俺たちの困惑をよそに、カルメンさんがが話を続ける。

「……だったのですが。あるとき冥界王プルートゥの呪いを受けて、魔物の影響下にあるダンジョンには入れなくなっちゃいました。ちゃんちゃん」


「冥界王っていやあ、魔界四大魔王の一人じゃねーか……。あんたそんな大物と戦ってたのか。たまげたなあ」

ベルカが感心した後、帽子をぬいだ。

元勇者に対する、彼女なりの敬意なのだろう。


「引退したあと3年ぐらいは〈勇者学校〉の先生もしてたんで、人を見る目はあるつもりよ。訓練しだいであなたたち四人の潜在能力を大きく引き出すことも可能だと思うわ」

それは助かる。さすがに銃士の教育まではできないだろうが、エリナの体力や身のこなしが上がれば、今後の役に立つ。


「ふむ……それなら話は悪くないか」

ベルカがようやく話を聞く体勢に戻った。


「でも、それならなんで、若い男の戦士を集めなかったんだ? さっき『かわいい』がどうとか言ってたが、あんたの趣味か?」


ふふん、とカルメンさんが不敵に笑う。

「それこそが三つ目の理由です!」


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《作者コメント》

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