003 曲撃ち団がやってきた

「ん? あの音はなんだ?」

「宣伝屋さんだよぅ。見に行く?」


――ドンドンドン、ドンドンドン

  ピーピーピーピーピーピーピー


大通りで太鼓を鳴らして歩いてるのは三角帽をかぶったピエロのような男だ。

関西人の俺は、なんとなく大阪の「くいだおれ人形」を思い出した。


その後ろを、看板を前後に取り付けた男が笛を吹いて歩いている。

サンドイッチマンだ。


看板には次の宣伝文句がならんでいた。


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当代きっての曲撃ち団

『メキサコ・ヒーローズ』が帰ってきた!!

ヤァヤァヤァ!!


『ファストドロウ! ガンスピン!

 名手ボブスの超絶華麗なガンさばき!!』


『針の穴も通す⁉

 観客全員が腰をぬかすほどの自動照準オートエイム!!』


『セクシー美人曲芸師登場!!

 命がけのスリルあふれるナイフ投げ!!』


『最後に賞金付きの射的大会もあるよ!!

 優勝賞金なんと10万ボル!!』

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「これだ!!」俺は看板を見て色めきだった。

「なに?」エリナがキョトンとしている。


「これだよこれ! この大会に出るんだよ!」

「……?」

「10万あれば、ひと月は暮らせるだろう?」

「えーでもぅ、わたし射撃は上手じゃないよぅ……」

エリナが頬をふくらます。


「そこは俺に任せとけ!」

俺は、どこにあるかわからない胸を張った。


  ***


曲撃ち団の出し物は午後からだった。


午前中、俺たちは街の中を見て回った。

街の名前は〈ガラリア〉というらしい。


まずは市場をブラブラする。

さまざまな野菜や干し肉がズラッと並んでいた。


「けっこうにぎやかなところだな」

「うん。大通りには雑貨や服のお店もあるよ……」


「おっ! 冒険者ギルドもあるぞ!」

「〈銃〉さんの世界にもあるの?」

「うん、まあお話の中だけ、だけどな」

「ふぅーん……」


ギルドの壁の求人広告をながめる。

……えーと、なになに?


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至急求む!!

〈リング・ダンジョン〉攻略メンバー!!

※剣士、銃士、魔道士、僧侶

やる気重視!! 未経験者優遇!! 実力主義!!

成長できるアットホームな職場パーティです!!

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なんやこれ。

ブラック求人広告をごった煮したみたいな、ヤバいフレーズが並んどるがな。


未経験者優遇で実力主義なのが意味不明だ。


しかもこれ、募集要項がなんにも書かれてない。


他の求人には必要最低レベルや報酬がキッチリ書かれているので、さっきの広告はかなり浮いていた。


「おっ、銃士ガンマン専用の求人もあるな。『求む! 要人警護の用心棒』ってシャレかいな」

「そう言えばお父さんも、よくここで仕事の依頼を探してたっけ……」


父のことを思い出したのか、エリナの目が少しウルウルし始めた。


「わっ、わっ、まあ、ギルドでかせぐのはもう少し腕が上がってからにしよう。動くものに当てるのは難しいしなっ?」

「うん……」


「今はとにかく止まった的を撃ってお金をもうけよう。……ほら、そろそろ始まる時間じゃないか?」


――ゴオン、ゴオーン、ゴオーン――

ギルドを出ると、街の中心にある「時の鐘」が鳴り響いていた。


「ほんとだ。早く行かないと始まっちゃうぅ!」

エリナは俺をリュックに放り込み、街の中央に向かって駆けだした。


  ***


中央広場では、すでに曲撃ちの出し物が始まっていた。

広場には大勢の観客が集まっている。

500人以上はいるだろうか。


エリナが入口で入場料の千ボルを払う。

射的大会の参加費も千ボルなので、後でそっちを支払うと手元には1ボルも残らない計算だ。


会場に入ると、前方には大きなステージが設営されていた。


陽気な音楽と共に、ステージにひょろ長い男が姿を現した。

西部劇風の格好で、服のあちこちにスパンコールが光っている。

ヘラヘラ笑いながら手を振る姿が軽薄っぽい。


音楽が止まると男が一瞬で真剣な顔に変わった。


男は3枚の皿を頭上に放り投げると、銃を抜き放ち3連射する。


次の瞬間、全ての皿が空中で弾け飛んだ。


――ウォォーッ!


観客が驚きと興奮の入り混じった声をあげる。


男の曲撃ちはその後も続いた。


台のコインを一発で撃ち抜くところから始まって、薬の錠剤やマッチ棒などの小物にもガンガン当てる。


「しゅっごーい……!!」

エリナが急に元気になり、目を輝かせる。


「いやー、俺だってあのぐらいは簡単に……」

「本当にぃ?」彼女が疑わしげに俺を見た。

うーん、〈自動照準オートエイム〉とか使えばたぶん……。


最後にトランプを立て、その薄いふちを縦に撃ち抜いたところで男のステージは終わった。


鳴り止まぬ拍手の中、彼は一礼して退場した。


続いて現れたのは、中年のナイスガイだった。

アメコミのスーパーヒーローみたいな顔だ。

前の男と同じく西部劇風の服を着ている。


彼は銃を回転スピンさせながら抜き、人型の的マンターゲットに6連射した後、再びスピンさせ拳銃の鞘ホルスターに収めた。


その間わずか3秒。


ターゲットを見ると、10点の所に6発すべてが当たっている。


「しゅごい! しゅっごぉーい!!」

「お、俺もあれぐらいだったら……」

「うそぉぉん?」エリナがジト目になる。


ウソじゃない!

いつかレベルアップして念動力のスキルが手に入ったら……たぶん……

知らんけど。


男はその後もいくつかガンプレイを見せた。

その全てが見事なものだった。

俺たちはここに来た目的を一瞬忘れ、その技に見入っていた。


ナイスガイが舞台の左に移動する。

その舞台袖から一人の女性が現れた。


女は古代ギリシャ風の白いドレスを着ていた。

まるで神話の女神のように妖艶だ。


服のすき間から豊かな乳房がこぼれそうだ。

これが看板にあった美人曲芸師だろう。


女は男の頭にリンゴを一つ乗せた。

自分も右端に移動して頭上にリンゴを置く。


向かい合う二人に緊張の空気が流れる。


次の瞬間だった。

女が太ももからナイフを抜いて投げた。


男は上半身を全く動かさずに2連射した。


女の頭上のリンゴが弾け飛ぶ。

男のリンゴにはナイフが深々と刺さった。


一瞬の静寂の後、拍手と歓声が会場をつつむ。


「はあ、ステキぃ……」

エリナはうっとりしていた。


「二人ともすっごいテクだったな」

「よっぽどお互いを信頼しないとできないよ」

「そうかもな」

「あーあ、わたしにもいつか、あんな風に信頼できる人が現れるといいなぁ」


エリナの顔が少し赤いように見える。

「そ、そ、そうだな。いつか現れるさ、きっと」

俺もなぜか恥ずかしい気持ちになってしまった。


彼女から目をそらして舞台の二人をながめる。


その時とつぜん女の肩の留め具がプツンとはじけ、胸の布がはらりと落ちた。


二つの乳房がポロロンとこぼれ、観客の前にあらわになる。

大ぶりの形の良い乳房に、小振りの桜色の乳首。

まさに神の造形だった。

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