魔銃に異世界転生したのでレベルアップで機能を追加しながら少女の復讐に手を貸しつつ最強を目指します

五十嵐有琉

001 転生したら銃でした

〈俺〉の身体は冷たい光を放つ1丁の銃となり、少女の手に握られていた。

〈俺〉のまなざしが少女に向けられる。

彼女もまた決意の表情で〈俺〉を構えた。


目の前に立ちはだかるのは、巨大な竜。その体表は青白い氷の鱗で覆われていた。

ブリザード・ドラゴンだ。


その口がカッと開き、周囲の大気と水蒸気が吸い込まれる。


次の瞬間、そこから強烈なドラゴン・ブレスが吐き出された。

それは凍てつくような冷気の暴風となり、一瞬にして周囲の空間を凍りつかせていく。

まともに喰らえばひとたまりもないだろう。


「今だ‼ 撃て‼」

〈俺〉の声が怒号となり、少女は俺の引き金トリガーを引き絞った。


「ファイアー‼」


――バシュウウウ――――ンン‼


〈俺〉の銃口から、紅蓮の炎に包まれた火球が勢いよく放たれ、ドラゴン・ブレスを跳ね返しながら敵へと向かっていく。

火球はドラゴンの口中に突き刺さり、巨大な体が爆散した。


  ***


ベッドの中で目を覚ました俺は、自分の顔がニヤけていることに気づいた。


――あれ? なんだか今日は久々にいい夢を見た気がするな。内容は覚えていないけど……。


俺の名前はシバザキ・ゴウ。

住んでいるのは関西の、人口少なめの地方都市。


仕事はクラウド系のサーバエンジニアだ。

コンプラ改善の流れも俺にはあんまり関係なく、過剰な残業や土日出勤でヘトヘトだ。


息抜きのための唯一の趣味は、モデルガンやエアガンを集めること。

部屋の壁には、ハンドガンやライフルがズラッとならんでいる。


映画もドラマも、好きな物はガンアクション。

有料動画サービスも、昔の刑事物がたくさん見れるものに入っている。


だがコミュ症の俺にはサバゲーや対戦型FPSに参加する勇気はない。

家の中でお座敷シューティングを楽しむか、裏山でモデルガンをバンバン撃つぐらいがせいぜいだった。


コミュ症の上、趣味が趣味なので友達もいない。

「彼女いない歴イコール年齢」だし、休日も完全にぼっち生活だ。


そんな俺の心をなぐさめてくれるのは、二次元大国ニッポンが誇る数々のエンタメ。

中でも俺は「異世界転生ファンタジー」のアニメや小説が大好きで、それらを観たり読んだりすることで、つかの間の現実逃避を楽しんでいた。


  ***


ちなみに今日は、過酷な10日間の連続勤務から開放された、久しぶりの休日だ。

そして、個人的イチ押しのメーカーから新作のモデルガンが出る日でもあった。


俺は予約してあったモデルガンを受け取り、ウキウキしながら店を出た。

すでに本体は箱から出してトートバッグに入れ、歩きながら上から眺めてうっとりする。……我ながら変態だな。


家に帰っている途中、杖をついて横断歩道を渡っているおばあさんと出くわした。


ゆっくりゆっくり歩いてるせいで、信号が赤に変わろうとしている。


俺はあわてて近くにかけよった。

信号待ちの車に手を上げて、おばあさんが渡り終わるまで待ってもらう。

こう見えても、困っている人を放っておけないタチなのだ。


おばあさんが渡り終える直前、背後からサイレンの音が聞こえてきた。


振り向くと、パトカーが一台の暴走車を追いかけているところだった。


暴走車はごっつい大きさの黒のミニバンだ。

ガッツリ車高を下げた改造車で、なかなか凶悪な見た目だった。

中には、これまたガラの悪い兄ちゃんとおネエちゃんの二人組が乗っている。


車は歩道に近い走行車線を走って来る。このままだとおばあちゃんが……


俺の中で、正義の血が騒いだ。


「そこの車ッ‼ まりなさいー‼」

俺は車道の真ん中で、トートバッグから自動拳銃グロックを取り出した。


銃を構えた俺を見て、運転席の兄ちゃんが一瞬ギョッとした顔になる。

次の瞬間ハンドル操作を誤ったのか、暴走車の車体がぐらっと傾いた。


――キキ―――――ッ!!

スキール音と共に、体勢を崩したミニバンが俺に突っ込んでくる。


「え⁉ ええっ!!」


あせった俺は暴走車に向かって一発ブッ放す。


――パアァン!――


火薬の火花が散り、薬莢が空中に飛んだ。

しかし、暴走車は止まらなかった。


そりゃそうだ。

だって俺のグロックはモデルガンなのだから。


暴走車はスピードをゆるめず俺に突っ込んできた。


俺は逃げる間もなく跳ね飛ばされた。


  ***


「……アホですね。有史はじまって以来の、まれに見るアホですね」


気がつくと、俺は殺風景な事務所のソファに座らされていた。


目の前には古風な木製の事務机があり、その天板にメガネの女が腰を下ろしていた。


彼女は黒のスーツに身をつつんでいる。

下半身はお尻のラインがよくわかるタイトスカート。

ブラウスの下では、でっかい胸がはちきれそうになっている。

目の毒だ。


よく見ると、彼女はただの人間ではなさそうだった。

耳がエルフのようにピンととがっている。


「こ、ここはどこだ⁉ ……おばあさんはどうなった?」

「無事ですよ。あなたの功績です。ま、その代わりにあなたが今ここにいるわけですが」

女は俺を上から見おろしたまま答えた。


「ま、しかし、そのムダに高い正義感は、向こうで何かの役に立つかも知れませんね」

「えっ、えっ? これはもしかして、いわゆるひとつの、て、て……」

「転生ですよ。最近の〈死にたて〉は話が早くて助かる」


「うおおーっ‼ ついに俺にもこの日が―――ッ‼」

俺はメチャクチャに興奮した。


「ラッキーでしたね。あのおばあさんは、神様が現世にいたころの知り合いだったみたいです」

別に狙っていたわけじゃないんだが、日頃の善行が実を結んだ……感じ……?


「えーと、ただ、ちょーっと問題があって……」

彼女はそう言いながら数枚の資料を取り出した。


「いま人間の転生先に空きがないので、あなたが生まれ変わるのは人間じゃないんですよ……」


ええ? じゃあ牛とかブタとかになるの?

生まれてすぐ食べられちゃうのはイヤなんですけどー。


資料をめくりながら女がたずねる。

「えーと転生先はと。あー、剣、斧、刺股サスマタ、銃のうちどれがいいですか?」


いや、生物ですらないんかい!

ぜんぶ無機物やんけー!

俺は心の中で思いきりツッコんだ。


あとシレッと候補の中に刺股サスマタが混ざってるの、なんなん? っさいボケなん?


「なにかご不満でも? あー、ちなみにあと3秒で答えないと自動的に転生資格を失いますよ。3、2……」

「わわっ、銃、銃に決まってます!」


そう答えた瞬間、俺の身体はまばゆい光につつまれた。


だんだんと意識が遠のいていく。


「ハイ、行ってら~~~」

最後に見えたのは、ひらひらとハンカチを振る女エルフの姿だった。


  ***


目をさましたとき、俺は自分が一丁の〈銃〉になっていることに気がついた。


自分の身体がひんやりしていて重い。

軽くてぬくみのある樹脂製モデルガンとは明らかに違う。

身体の芯まで鋼の塊であることが肌で感じ取れた。


無機物にはなったものの、触感や視覚などは失われてないようだ。


周囲をぐるっと見わたしてみる。

今いる場所は質素なつくりの部屋の中だった。

部屋には古びた木の机と椅子、本棚などが置かれていた。

全体的にグリム童話にでも出てきそうな、ヨーロッパを感じさせる古風な作りだ。


時刻はどうやら真夜中のようだ。

月明かりが窓から差し込んでいる。


……ん?

なんだろう?

俺の身体が、規則的に上下に揺れている。


地震……?


などではなかった。


銃になった俺は、ベッドで眠る少女の胸の上に乗っかっていた。


揺れは、彼女の呼吸に合わせて小さな胸が上下に動いているせいだった。


少女はスヤスヤと寝息を立てている。


彼女はまだ幼く十二、三歳に見えた。


色白で顔の彫りが深い。西洋人の女の子のようだ。まつげの長さもきわ立っている。

寝ててもわかる、天使のような可愛さだ。


俺の持ち手グリップは、彼女の小さな手でしっかりと握られている。


銃を持って寝るなんて危ないじゃないか、と一瞬思ったが、弾倉シリンダーの一発目はきちんと抜かれていた。暴発防止の知恵だ。


少女はその幼さにもかかわらず、銃の扱い方を一通りわかっている感じだった。


まあでも、よく考えたら俺の身体はシングルアクションだものな。

撃鉄ハンマー起こさコックしない限りは撃てない仕組みだ。

そういう意味でも絶対安全だよな。


なにげなくそこまで考えたところで、俺はハタと気づいた。


自分の身体ぜんたいを、あらためて見回す。


そこには元の世界で見なれた、クラシックなフォルムがあった。


――コルトSAA45シングルアクションアーミー、通称ピースメーカー‼


西部劇とかに出てくる、思いきり旧式の回転式拳銃リボルバーだ。


こいつは1発1発、撃鉄ハンマー起こしコックしてからでないと撃てない。

また6発撃ちおわった後は、弾丸を一発ずつ交換するハメになる。

そこで敵に反撃の機会を与えてしまう。


今の目で見ると、なんともショボい昔の銃だ。


おいおいおい、よりにもよってコイツかよー!

どうせなら連射できて弾丸の交換も早い、自動拳銃オートマチックにしてくれよー!


俺は転生にかかわった女エルフと神様を呪った。


そのとき、俺は自分の身体がズルズル動いていることに気づいた。


少女が寝返りを打ち、身体が傾き出している。

それにより、俺の身体が胸の上からすべり落ちそうになっていた。


――わわっ、落ちる、落ち……


ゴトン、と音を立てて俺は床に落下した。


てっ!」と思わず声が出る。


「ん、んんぅ……」

俺の落ちた音で少女が目をさました。


寝顔が可愛い子は起きてもやっぱり可愛い。

彼女の瞳は黒目がちでパッチリと大きかった。


素肌は抜けるように色白で、栗色のウェーブがかった髪をショートカットにしている。可愛い。


白いネグリジェ姿の彼女は、絵本から抜け出した妖精のような透明感をまとっていた。超可愛い。


だが……なんだか不思議な気分だった。

初めて会ったはずなのに、俺はこの子の顔をどこかで見たような気がする。


少女は床に落ちた俺を拾い上げた。

眠そうな目をこすりながら、俺の全身をまじまじとながめる。


てえなおい、もう少し丁寧に扱ってくれよ」

思わず俺がボヤいた。


少女が目をまんまるく見ひらいた。


……あれ?

もしかして俺の声、とどいている?


少女が俺のことをぎゅっと抱きしめた。


「お父さん……」

そうつぶやくと、彼女は涙をポロポロと流し始めた。

お父……さん?

ええっ!?

そ、そ、そぉいう設定なのぉー!?


結婚はおろか、今まで恋人すらいなかった俺だ。


そんな俺がいきなりお父さんとか荷が重くない?

それにこの世界だと、銃でも子供を作れるの?


俺は混乱した。


しばらくすると、少女の涙はおさまってきた。

顔にはわずかに微笑みが浮かんでいる。


「お父さん、幽霊になってわたしを助けにきてくれたのね?」


……あ、そういうこと?

すると、この子の父親はすでに亡くなってるのか。


「いや、すまん。残念だけど俺は君のお父さんじゃない」

「ふえっ?」

彼女は急にしょんぼりした顔になった。

「お父さん、じゃ、ないのぅ……?」


このままだとまた泣き出しそうだ。

俺は子供の泣き顔にも弱かった。


「ちょ、ちょ、ちょっと待った。お父さんじゃないけど、困りごとがあれば相談に乗るから……」

「……ほんとー!?」

彼女の顔がパァッと明るくなった。可愛い。


少女は自分の身の上を話し始めた。


  ***


彼女の名前はエリナリア=パントライン。

愛称はエリナ。

母を早くに亡くして、父と二人暮らしの十二歳の少女だ。


父のハリス=パントラインは銃の名手で、用心棒や射撃のコーチをして生計を立てていたそうだ。


「これが、お父さんだよぅ」

彼女が机の上の写真立てを手にとって、写真を見せてくれた。

ジョン・ウィックとジョン・ウェインを足して2で割ったようなワイルドなイケオジだ。


「一週間前の夜、帰ってきたお父さんが私にこういったの」


――2階の物置部屋に中から鍵をかけてしばらく隠れていなさい。私が呼ぶまで絶対出てきてはいけないよ。


言われた通りにしていると、やがて父の知り合いらしき男がやってきた。

エリナが耳をそばだてていると、やがて男と父は口論となった。


――ダァアアン!

突然銃声がして、誰かが倒れる物音がした。


片足を引きずるような、聞き覚えのない足音が聞こえた。

その音がゆっくり2階に近づいてくる。

エリナがぎゅっと身を縮めていると、隠れている部屋のドアノブをガチャガチャと乱暴に回す音が聞こえてきた。

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