終章 二人の再会
第31話 死ぬと分かっていても愛していると言った少女 と たった一言のために全てを超えた少年
「貴様は、宗片真夜星を愛しているか? 世界を敵に回せるほどに」
「もちろんだ。心の底から愛している。これは嘘でも偽りでもない」
死ぬと分かっていた。
死ぬと分かっていて、それでも嘘はつけなかった。つきたくなかった。
テロリストのリーダ格の男は溜息をつく。
「やはり貴様らは危険だ。貴様ら二人が共謀すれば世界を滅ぼせるだろう。ここで死ぬべきなのだ」
「それは君の国の意向かな?」
「そうだ。そして俺個人の意思でもある。ではここで死ね」
引き金が引かれる。
弾丸が解き放たれる。
少女は思う。
ごめん、真夜星。と。届かぬ思いを抱えたまま少女は死んでいく。
「そこまでだ」
弾丸が中空で止まった。
彼女には当たらなかった。
死の運命は覆った。
「どうやって、弾丸を……」
「『インビジブル・ガーディアン』その名の通り見えないナノマシンで構成された要人警護用兵器だ。この時代の核爆弾程度なら百万発喰らおうが対象を守り切る。まして弾丸如きで貫ける防御じゃない」
「貴様は……!」
「お前たちに用はない。寝てろ」
どさりと倒れ伏すテロリストの男。
いかなる技術が使われたのか、真鈴でも分からない。
一つだけ分かるのは、現代の技術力など到底及ばないものであることだけだ。
「真鈴」
彼は、一言だけ少女の名前を呼んだ。
「真夜星……?」
「少し待ってくれ。もう一人の俺が来るまで」
そう言いながら少年は、少年の姿をした一万歳以上の救世主は、愛しい彼女から目を離さなかった。
ほどなくして、もう一人の彼が来る。
「真鈴!」
「真夜星!!」
「真鈴! 無事だったか! いきなりテロリストが全員気を失って、研究員の人も一人だけ気を失ったから、何事か、と、思って……」
声が途切れる。
視線がたった一点へと向かう。
もう一人の自分へと。鏡の前に立っているわけでもないのに、自分の前に立っている自分に。
「お前は……、俺か。つまり」
「そうだ。飛んできた。彼女の死を覆すために一万年未来から」
「ありがとう! 本当にありがとう!!」
少年は涙を流す。そのまま未来の真夜星の手を握ろうとして。
その手は空を切った。
未来の真夜星が両手を上げたからだ。
「話は最後まで聞いてくれ。俺とお前は場合によっては、殺し合わなくてはならないんだから」
「……どういうことだ」
今を生きる真夜星は、身構える。
「宇宙というのは案外狭量でな。同じ時代に二人の人間がいることを許容できないみたいなんだ。このまま二人存在してたら、何が起きるか分からないんだ。俺でも分からない。はっきり言って宇宙が崩壊する可能性すら存在しているんだ」
「……それは、どうにかならないのか?」
「二つ方法がある。一つは俺が死ぬ「それ以外でだ!!」
未来の真夜星は微笑んだ。
ああ、俺ってこういう奴だったな、と。
「もう一つは俺とお前が融合する方法だ。ただしこれは、今しかできない。時間転移後数十分間、俺の肉体は物質と高次元情報の狭間にある。今の状態なら俺の記憶でお前を上書きできる。そうすれば問題は解決する」
「それなら……「待って、それじゃあ今の真夜星の記憶はどうなるの?」
「そうだな。墨汁を一滴海に流したようなものだ。希釈されてしまうだろう」
「そんなの!! 認められな「真鈴、俺をあまり舐めるなよ」
そう言ったのは今を生きる真夜星だった。
「今からたった一つの質問だけで、真鈴を納得させてみせるよ。よーく聞いてくれ。そして未来の俺は素直に答えてくれ」
「何だ? この事態をたった一つの質問で解決できることなんて、そんな都合のいいものがあるのか」
「私もあると思えないね。絶対に納得しない自信がある」
「そうか。でもまあ、聞いてくれ」
「なあ未来の俺、お前は真鈴に操を立てているか?」
端的に言って童貞か? と真夜星は聞いた。
「当たり前のこと聞くなよ。そんな質問が何を解決するんだ?」
至極当然のように答えた。
「ふぇ……、一万年も……?」
真鈴の顔は真っ赤になった。
「な? 自分で言うのもなんだけど俺ってこういう奴なんだよ」
「わかった、分かったから。もうやめてくれ……」
「今ので解決したのか? ぶっちゃけ俺は真鈴と今の俺の了承が取れない場合はとっと自殺しようと思っていたんだけど」
「ほら、こういう奴なんだよ」
「とことん、君は『アレ』だねぇ!!」
空気が一気に弛緩した。
「何か締まらないな」
「良いじゃないか。多分今までカッコつけ続けたんだろ? 人類のために、何より彼女のために」
「まあ、そうだな」
「じゃあ彼女と自分の前でぐらい、素でいようぜ。そんでさっさと融合しよう」
「ああ。長かった」
「お前ほどじゃないけど俺も長かったよ」
手を握る。
声が重なる。
『やっと言える』
そして未来の彼は光の粒子となって、吸い込まれていく。
記憶が上書きされていく。
一万年間の彼女の居ない時間を追体験していく。
永い、あまりに永い時間を超えて。
再び彼の意識は今へと舞い戻る。
「真鈴」
「なぁに?」
「真鈴!」
「ここにいるよ」
「真鈴がちゃんと、生きている……!!」
抱きしめる。まるでガラス細工を抱きしめるようにやさしく。
「真鈴、聞いてくれ。俺は一万年未来から来た。いくつかの発明品を持って」
「君も発明家になったんだね」
「そのうちの一つがさっき見せた『インビジブル・ガーディアン』だ。そしてもう一つが『亜空間コテージ』だ。内部環境は北海道ほどの広さがあり、半永久的に食糧生産ができる施設を備えている」
「凄い発明品だね。がんばったんだね」
「ああ。凄く頑張った。この二つがあれば、俺たちは無敵だ。世界中の人間が敵に回ったとしても二人で生きていける」
だから、と彼は続ける。
「今度こそ、言わせてくれ」
「何でも聞くよ」
真夜星の胸の中にありとあらゆる思いが去来する。
そしてその全てがたった一言へと注ぎ込まれていく。
(きっと俺はこの一言を言うために生まれてきたんだ)
そしてこの物語はこの一言のために紡がれてきたのだ。
「君を永遠に愛している」
ついに、言葉が届いた。
返答は決まっていた。
「私もだよ。真夜星。世界で一番愛しているよ」
思いは通じ合った。
もう二人の仲を阻む者は誰一人として、阻む物は何一つとして、ありはしない。
二人の大恋愛は成就した。
ソレがこの物語の結末だった。
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