タイムマシンに誓って  ~IQ300の天才と超能力者の大恋愛~

ポテッ党

第一章 二人の出会い

第1話 天才と天才の出会い

 桜吹雪が舞い散り、アスファルトを桃色に彩る。

 そんな『歓迎』を自らの体を散らしながら伝える木々たちの傍を通りながら、俺は歩いていく。

 その道の先、校門の前に一つの黒があった。

 黒いセーラー服に、黒い髪。本来黒は、光を喰らう色だ。


 けれど俺にはその黒は、輝いて見えた。

 濡れ羽色の髪に陶磁器のように滑らかでまっさらな肌が際立つ。腰まで伸びた黒髪が風ではためき、少女の存在に心地よい揺らぎを与える。

 そんな少女がこちらを見た。

 整った目鼻立ち。小ぶりな桜色の唇が動く。


「君が、『宗片そかた真夜星まやほし』かい?」

「……………………そうだが。何か用か? ていうかどちら様?」


 一瞬だけ警戒してしまう。

 俺は良くも悪くも有名人だからだ。

 これまでも知らない親戚に金をたかられたことはよくあった。美人局もだ。

 その全てをのらりくらりとかわしてきた俺だが、そんな俺の直感が告げている。この子は手ごわい相手であると。


「どちら様とは、失礼だな。というか私のことを知らない人がまだいたんだね。私の名前は、『戸崎とさき真鈴ますず』。君がタイムマシンを理論的に証明した結果『時間の魔術師』と呼ばれるようになったのと同様に、私はワープ装置を実用化して『空間の奇術師』と呼ばれるようになった。要は天才少女ってわけさ」


 この子、自分で自分を天才とか言っちゃうんだ。

 ちょっと変わった子を見る目で見てしまう、と言いたいところだが彼女にその言葉は当てはまらないだろう。


 名前を言われて思い出した。

 彼女こそがIQ300の超天才。俺と違って発明家としての資質も持ち合わせており、彼女は齢十五でありながら、世界で最も影響力ある百人の一人に選ばれている。

 まさに天賦の才というべきだろう。そして彼女の美貌も合わせれば、完璧超人と言っても差し支えないはずだ。


「それで俺に何か用か? というか学校は? 俺は遅刻だけど、そっちは早退か?」

「いや、この学校に通う意味が見出せなくてね。自主退学をしようかと思っているんだ。そのために退学届けをしたために行くつもりなんだ」

「マジで?」


 ソレは……。


「もったいない」

「もったいない?」

「ああ」

「! そうだ。少し知恵比べをしようじゃないか。もったいないというのならば、学校に通うべき理由を私に説いて、納得させてみてくれよ。もちろん、勉強の場という文言は禁止だよ?」


 私の頭脳は既に全教科で大学に通用するレベルだからね、と少女は自慢げに薄い胸を張る。

 成るほど、確かにそうだろう。

 彼女の頭脳ならば納得だ。そもそもこの高校に通おうとした目的すら定かではない。単なる気まぐれだろうか。


 けれどそんな彼女に勉強をするだのなんだのを説いたところで意味はない。

 ならば彼女を説得するべき文言はこうだ。


「学校っていうのは、友達を作る場所だ」

「そんな当たり前の事――「って言えるのは、友達をすんなり作れた奴だけだ。うまくいくやつもいれば、当然うまくいかない奴だっている」


 頭の回転を徐々に速めていく。

 

「だからこう考えればいい。学校っていうのは社会生活における集団行動を学ぶ場所であると。嫌いなやつをいじめたり無視したりするんじゃなくて、『仕事』、学校の場合は『勉強』だな。それに支障が出ないように対応していった上で、日常生活を行う予行練習であると」

「……」

「悪いけどこれは君を説得するための言葉じゃない。俺の個人的な見解だ。学校とは基本的にそういう物であると俺は考えている。楽しい学校生活を送れるのなら、それは万々歳だけどさ。それは、結構難しいじゃん」

「そうだね。私やキミのような人間にとって、同世代の人間は率直に言って幼稚だ」

「俺はそこまで言わないけどさ、話がかみ合わないっていうのはあるよ」


 これは一つのたとえ話だが、IQは30違うと宇宙人と話しているのと同じことらしい。そこまでは流石に言わないが、話題に馴染めないというのは彼女にも経験があるのだろう。


「それらの事実を踏まえた上で、ここからは君を説得するための言葉だ。俺と友達にならないか?」

「……へ?」


 ポカンと口を開ける少女。

 そんな顔にしてやったりと、内心で口の端を歪めて俺は続ける。


「気心の知れた友人が一人でもいれば、学校生活も楽しいものになると思うんだよ。俺も君の考えや行動にはすごく興味があるし、こうやって俺に向かって忌憚なく話しかけてくれる人はすごく貴重だ。だから俺は君と友達になりたい。そして君と一緒に学校に通いたい」


 一拍。

 沈黙が二人の間に流れる。

 不安だ。この少女に俺の言葉はどれくらい響いたのだろうか。

 こんなふうに人と友達になろうなんて、真っ直ぐに言うのはいつぶりだろうか。というかほとんど初めてなんじゃないだろうか。


「口説いているのかい?」

「いいや、別に」


 そう言うと少女は口元に手をやって、そのまま笑い出した。

 鈴の音を鳴らすような、美しい笑い声だった。


「いいよ。友達になろう。そして一緒に青春を謳歌しようじゃないか」

「よろしく頼む」


 これが俺 宗片真夜星そかたまやほしと彼女 戸崎真鈴とさきますずの初めての出会いだった。





――――

本日は三話投稿する予定です。

二話目は十九時十五分

三話目は二十一時十五分頃の予定です。

それ以降は十七時十五分に毎日投稿していきます。


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