#34
城下町になだれ込んでくる武装商団アルコム。
剣や槍を握り、頭にはターバン、口元にはベールを付けた集団が、我先にと王宮へと向かってきていた。
その最後尾には、先ほど城壁の上から飛び降りたリマーザが、ゆっくりと歩いている。
彼女はゆらゆらと街を眺めながら進み、まるで一人だけ別の世界にいるかのような雰囲気を
「なるほど。相手もなかなか考えているようですね」
リマーザは街の様子を見て、王宮への道以外がすべて通れなくなっていることに気が付いた。
それでも彼女は不適な笑みを浮かべ、ベナトナシュ側の誘いに乗るよう歩を進めていく。
「でも、この程度で止められると思われているとは……。私たちも舐められたものです」
その様子は、この一本道が罠だとわかっていても意に
――リマーザたち武装商団アルコムが王宮に近づいていたとき、マルジャーナは兵や民たちと共に防柵を立てて待ち構えていた。
仲間たちに檄を飛ばす彼女の隣には、先ほどからずっとぶつぶつ独り言を口にしているアシュレの姿があった。
「こんな簡単に中に入れるってことは……。でも、そんなはず……」
アシュレは、敵が城壁内に侵入してきた理由を考えていた。
それは、ただ見ていることしかできない己の無力さと、おさまらない胸騒ぎを
そして考えた末に、アシュレはある結論に達していた。
その結論とは、ベナトナシュ国の中に、敵に手を貸している者がいるということだった。
しかし、ここにいる者たちが裏切っているとは考えにくかった。
なぜならばこの場で武器を持つ者たちは皆、自分の意思で国に残った人間しかいなかったからだ。
さらにいえば先代である
そのような者たちが敵と手を組むのだろうか?
組むはずがない。
しかしそうなると。どう考えても理屈に合わない。
だが内通者がいなければ、あのように敵が簡単に中へ入って来るはずもない。
「あり得ない……けど、答えが出てもあり得ない……。うぅ、ダメ……難しすぎるぅ……」
アシュレがそんな矛盾する考えに押し潰されそうになっていたとき、ついに武装商団アルコムの面々が王宮に突撃してきていた。
頭にターバンを巻き、口元にはベールを付けた集団が、剣や槍を振り回して防柵を越えようとしてくる。
民たちはベナトナシュ国の兵士らと共にこれを迎撃。
柵に群がってくる敵に向かって、握っていたピッチフォークを突き出していた。
だが武装商団の面々はまったく怯むことなく、いくら刺されようが止まらなかった。
敵は仲間の
これには戦場の経験がない民はもちろんのこと、兵士たちさえも恐怖で身が固まっていた。
その結果、訓練のときのような動きができず、徐々に柵が破壊され始めている。
戦況が不利になれば、落ちていた士気がさらに落ちるのが世の常だ。
ベナトナシュ国の住民たちは、死を恐れない敵の軍団に完全に戦意を失いつつあった。
「皆、私の話を聞けぇぇぇッ!」
そのときだった。
柵を越えようとしていた数人の敵を斬り倒し、そのまま防柵に上がったマルジャーナが味方に向かって声を張り上げたのは。
彼女は仲間に背中を向けながら、柵を越えようと向かってくる敵を倒しながら叫ぶ。
「死をも恐れぬこいつらは確かに脅威かもしれない! そこまでの想いで戦えないと怯んでしまうかもしれない! だが、人は生きたいと望むからこそ人だ!」
マルジャーナの声を聞いた民、兵士の一人ひとりの顔に、次第に覇気が戻っていく。
「そして、ここにいる誰もが生きたいと望み! 国の不安定さや数の不利があるとわかっていても逃げ出さずに武器を持った!」
表情が引き締められ、武器を持つ手に力が宿っていく。
「恐れることは悪くない! 勇者とは、恐怖を感じつつもそれに立ち向かう者のことだ! 私はこの場にいるすべての仲間たちのことを、全員……勇者だと思っているぞッ!」
その場にいたベナトナシュ国の人間で、マルジャーナの激励に奮い立たない者はいなかった。
だが、震えながらも戦うのが勇気ある者の行動だと、誰もが理解した。
自分たちは勇者だ。
国を――。
家族を――。
恋人を――。
友を――。
守るためにここにいるのだと、ベナトナシュ国側の士気が再び戻っていく。
「凄い、マルジャーナ……。これが人の上に立つ人の力なんだ……」
アシュレは自ら先頭に立ち、敵を斬り倒しながら味方に勇気を与えた女王マルジャーナの姿に、人としての器の大きさを見た。
あれは彼女が持って生まれた資質なのか?
それとも努力すれば手に入れることができるのか?
いや、マルジャーナのようになれなくても、
白い髪の少女は、自分もマルジャーナのように他人に勇気を与える人間になりたいと考え、身の震えが止まらずにいた。
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