第95話


 メルレイア師匠に拾われてからの俺の日々は……今思い出すと、なかなかにイカれていた。正直、良い思い出がほとんどない気がする。


 正直に言えば、あのままスラムで野垂れ死んだ方がマシだったと考えたことは、両手両足の指の数じゃ利かないくらい何度も何度も何度も何度もあった。


 師匠は徹底した合理主義の人だ。

 そして合理と合法というのは、似ているようでまったくの別物である。


 たとえば管理をミスれば冷害が起こる、ご禁制品の天候操作の魔道具があるとしよう。

 その魔道具に使われている魔法自体に、違法なところはない。

 けれどその魔道具の作成と所持は違法だ。


 なぜそんなことになるかと言うと、合法非合法のラインというのはあくまで管理する為政者側からの視点であることが多いからである。


 そして魔導の最奥を求めようとするメルレイア師匠にとっては、そのラインはうっとうしいと思うことこそあれ、必要なら踏み越えることをためらうようなものではなかった。


 その魔道具に記されている魔法陣が必要なら気にせず魔道具を作ったし、なんなら違法魔道具の魔方陣を見るために博物館の中に忍び込んだりもした。

 具体的な話からもわかるように、これは全て実話である。


 倫理的には完全にアウトだと思うが、それくらいマッドサイエンティストじゃなければ魔法の最奥にたどり着くことなどできない。

 それにそこまで徹底していたからこそ、誰も成し遂げることができなかった『賢者の石』の作成にも成功したんだと思う。


 俺は何人かいるメルレイア師匠の弟子兼助手として、彼女と一緒に世界中を飛び回ることになった。

 非合法な素材を集めたり、違法薬物を栽培したり、絶滅危惧種の魔物を捕らえたりすることくらいはまだまだ序の口で……言葉にできないようなことも色々とやってきた。


 そんな激動の日々を過ごしていれば、自然と魔法に関する造詣は深くなる。

 気付けば俺は師匠の一番弟子のようなポジションになっており……そして長い寿命を持つ師匠より先に死んだ。


 俺の研究論文の内容が魂と肉体の量的な移動についてだったのは、正直言えば俺が年を取って年々ついていくのがきつくなっていく中。若々しさを保っているメルレイア師匠についていきたかったからだったりする。


 おかげで転移魔法であるテレポートは使えるようになったけど、正味俺以外の人間だとまともに使えない代物だったし、結局魂を保持したまま肉体を入れ替えることはほぼ不可能だった。


 リッチなどのアンデッド系の魔物と同様に魂を再構築する方法やクローンを作ってそこに脳を移植する方法等できることは試してみたんだが……努力ができる秀才止まりの俺には、不老不死を実現させることはできなかったわけだ。


 それなら俺がやってきたことにはまったく意味がなかったかと言われれば……そんなことはない。

 テレポートが使えるおかげで、俺はこうしてディスグラドへ戻ってこれたし。

 それに……一度死んで転生したから、こんなに素敵な子達と出会うことができたんだから。

 だから俺の人生もそれほど捨てたもんじゃない。

 な、三人ともそう思わないか?






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