第44話
アンナに惨敗を喫した次の日。
特にすることもなかった俺は彼女にせがまれる形で、再び彼女とリバーシ対決をすることになった。
それは絶望的な戦いだった。
果敢に攻めても軽く受け流され、気付けば攻めと守りは入れ替わっており。
それなら相手にカウンターを食らわせてやろうとすれば、そのまま押し切られて負けてしまう。
爺ちゃんから教わった必勝法はクソほどの役にも立たず、アンナの開花した才能の前に俺は黒星を重ねることしかできなかった。
「ここで僕が投了ッ! (パアンッ)」
「こんなに潔いサレンダーは初めて見ました……」
盤上遊戯をやっていて真似たくなるランキングでも上位に入る名シーンを再現しながら、半ばやけくそになって敗北宣言をする俺。
一回り近く年下の女の子に完膚なきまでにたたきのめされ、俺のガラスのハートは砕け散っていた。
というか、アンナ強すぎだろ。
押しに負けて何度もやってるんだが、もうレベル差が開きすぎて何がなんだかわからないぞ……。
「そろそろ終わりな、疲れた」
「ふぅ……私も満足しました。付き合ってくれてありがとうございます、面白いですね、リバーシって」
屈託のない笑顔で見つめられ、俺は開こうとした口を閉じる。
まあ、アンナが楽しかったならそれでいいか。
ただ一つ、確実に言えるのは――俺は今度日本に戻ったら、リバーシのオンライン対戦アプリを入れるということだ!
俺は負けず嫌いだからな、次はきっちりアンナに勝つ!
俺は戦うのが好きなんじゃねぇ、勝つのが好きなんだよぉ!(ゲス顔)
「こんなものを発明できちゃうなんて、すごいですねタイラーさんは」
「別に俺が発明したわけじゃないよ。遠い島国にあるゲームを、俺がこっちに持って来たってだけさ」
「そうだったんですね……あれ、でもそれならもしかして……他のゲームとかもあったりするんですか?」
「……ふふふ、それはこれからのお楽しみということにしておこうかな」
「なんと……(ごくり)」
息を飲んでいる様子のアンナ。
第二陣のトランプができあがれば、遊ぶことのできるゲームは格段に増えるはずだ。
こうなりゃ多少太くなっても良いから、木製で作るべきだろうか……?
「でも魔術師さんって、本当にすごいですよね。なんでも知ってるっていうか……」
「別に、そんな大したもんじゃないぞ。俺がゼロから作ったものなんてほとんどなくて、基本的には蓄積された人類の叡智を借りてるだけだ」
アンナのキラキラと輝く目を真っ直ぐ見つめ返すことができず、プイッと視線を逸らす。
どうもアンナは魔術師という人間に夢を見すぎているようなきらいがある。
俺の場合過去のディスグラドの知識と現代日本の知識があるおかげで凄いように見えてるが、リバーシの戦歴を見てもわかる通りに俺の頭の作り自体は別に大したもんじゃないしな。
むしろアンナとかの方が、将来人のためになるような発明とかができたりするかもしれない。
魔法技師とか、錬金術師とか、発明家にだってなれるかも……なんて考えるのは、流石にひいきが入りすぎか?
「そういえばアンナは、魔法の勉強しないのか?」
「うちにそんな余裕があると思いますか?」
魔術師の絶対数が少ないイラの街では、魔法を教わるための授業の相場もかなり高い。
そこそこ人は入っているが、イラの街では決して繁盛店なわけではない『可能亭』の経済状況では、そんなことに金を使う理由はないということらしい。
「もしよければ、俺が教えようか?」
「――ええっ!? いいんですかっ!?」
「まあ暇な時に、片手間で教えるくらいなら」
「ちょ、ちょっと待っててください!」
それだけ言うと、アンナはものすごい勢いで二階に駆け上がっていった。
恐らくは両親が住んでいる部屋に向かったのだろう。
大きなノックの音と、アンナの声が聞こえてくる。
何を言っているかはわからないが、アンナの声はかなり必死なように感じられた。
再び階段の音。
動き回って汗ばんだアンナが、いい笑顔でこちらにグッとサムズアップしてくる。
よくわからないが、俺も親指を立てておくことにした。
「今後の宿代は要らないよう、お父さんに交渉してきました!」
「え、そんな……悪いよ」
「そのくらいで魔法が教われるなら安いものだって、お父さんからのオッケーも出てます!」
「む、そうか……」
宿でゴロゴロしていても暇することがなかったから、なんとなくでしてみた提案だったんだが……なんだか大事になってしまった。
まあ正直、宿代が浮くのは正直ありがたい。
そして向こうからしても、魔法がその程度の対価で教われるのはありがたい。
つまりこれは誰も損をしない、ウィンウィンな取引というやつだ。
ただ、せっかく教えるのならきちんとものにしてやりたい。
以前アンナも言ってたが、魔術師がいると生活水準そのものがグッと上がる。
高級宿なんかだと、お抱えの水魔術師がいたりするって聞くしな。
彼女が魔術師になり宿のサービスが向上すれば、もしかしたら『可能亭』を街一番の繁盛店にしたりすることもできるかもしれない。
この宿もアンナも好きだから、彼女達のためになるなら一肌脱がせてもらいますかね。
それならさっそくということで、俺は『収納袋』に手を入れ、一つの球を取り出した。
「じゃあアンナ、これに手をかざしてみてくれ。こいつは星見球(ステラボール)って言ってな……簡単に言えばアンナの得意な属性を教えてくれる魔道具だ」
アンナがごくりと唾を飲み込む。
そして恐る恐る、星見球に触れた。
すると星見球が輝きだし――。
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