第27話
現在俺が『戦乙女』のパーティーハウスにやってくるのは、主に二つの理由がある。
一つはウィドウに身体強化の指導をしてもらうため。
そしてもう一つは、ルルに魔道具作りを教えるためだ。
俺としては今では古代のものとなっている魔法技術を見せびらかすことにあまり乗り気ではないのだが、そうとも言っていられない事態が発生してしまったのである。
『戦乙女』はドラゴンを討伐したということになっている。
だが少し考えると、おかしなところに気付くだろう。
一体なぜ、彼女達がドラゴンを倒したことは公然の事実として認められているのか。
答えは簡単だ。彼女達が――ドラゴンの素材を持ち込んだからである。
ドラゴンの血は古傷すら癒やすとも言われており、ドラゴンの鱗は魔法を減衰させる特殊な能力を持っている。
目の前で炎の勢いを弱める鱗やみるみるうちに治っていく傷を見れば、誰もが信じざるを得なかったのだ。
これはドラゴンの素材なのだ……と。
ただその運搬にあたって、とある問題が生じていた。
ドラゴンの鱗は一枚が同じ重さの金よりも高く、ドラゴン一匹分の革には庭とプールのついた豪邸を一等地に立てられるほどの値がつく。
けれどドラゴンは縦三メートル、横は尻尾まで含めれば十メートル近い巨体であり、素材を剥いでその全てを持ち運ぶことは難しい。
故にそんな貴重な素材を見逃す道理はないと、エルザが俺にこう頼んでくるのは当然の流れだった。
「あなたの『収納袋』にドラゴンの素材を入れてくれないかしら?」
提案自体は問題はなかった。
だがドラゴン素材全てが入るとなれば、俺が『収納袋』を持っているというのがバレてしまう。
そのために俺が出した折衷案が……
「『収納袋』はルルの作品だと嘘をつくことだったってわけだ!」
俺は自分の『収納袋』の中に入っていた、かつて自分で自作した『収納袋』をルルに貸し与えた。
そしてその中にドラゴン素材を詰め込ませ、それをルルが作成に成功していた『収納袋』だと周りに誤解させることにしたのだ。
え、嘘をつくのは良くないことだって?
バカを言うんじゃない。
たしかに嘘のままなら問題かもしれないが、それを事実に変えればいいだけだ。
だってこれからルルには本当に――『収納袋』を作ってもらうんだからな。
「うー……」
ルルは一心に、革袋に魔術回路を刻んでいる。
魔道具を作るために必要なものはたったの三つ。
魔法的な効果を発動させるための魔法陣。
それを道具全体に行き渡らせるための魔術回路。
そしてそれら二つに魔法を組み込むために必要な触媒だ。
『収納袋』の作り方は、魔道具の中ではわりとシンプルな方だ。
まず最初に革を用意する。
そこ魔法陣を刻んでいき、その周囲に魔術回路を彫り込んでいく。
最後に魔力を込めた触媒を魔法陣と魔術回路をなぞるようにかけていけば完成だ。
けど何事も単純なものほど奥が深い。
『収納袋』は作るのは簡単なんだが、その内容量は作り手の技量によって大きな差が出てしまう。
俺が作れば内容量は一軒家くらい、メルレイア師匠が作れば容量はほぼ無限。
ルルが作ると……なんだかいつもよりちょっと入るような気がするって感じかな?
「革袋自体の形をイメージして彫り込んだ方がいいぞ。そのためにわざわざ革袋を解体してるんだからな」
「は、はいっ!」
本当なら革を用意して好きなように回路を彫り込んでから背嚢なり袋なりに仕立てた方が自由度が高いんだが、素人にいきなりそれをやらせるのは難易度が高い。
なので俺はまず最初に革袋を買ってからその縫製をほどき、その範囲内で回路を彫り込ませるやり方を取ることにしていた。
これをするとどんな回路を刻めば、袋にした時に効果が発揮するかというのが想像しやすい。
魔法陣を描くなら底の部分にした方が魔法効果が出やすいし、口の付近の革の距離が近いところでは回路が喧嘩しないように密度を減らす必要がある……といった具合に。
回路の書き方にはいくらでも種類があるし、魔法陣の正確さも大切だ。
それに触媒を全ての部分に同量振りかけて魔法効果の偏りが出ないようにする必要もある。
シンプルであるが故にモロに腕の差が出てしまうため、『収納袋』を見せるというのは自分の力量を見せるのと同義になる。
なのでルルに貸し渡す時、実は結構恥ずかしかったのはここだけの秘密だ。
ルルは回路の始点と終点の部分にあらかじめ印をつけておき、それらをつなげるように回路を彫っていた。
既に魔法陣の書き方と回路の彫り方のレクチャーは終えている。
後は本人の努力次第だが、恐らくそう遠くないうちにドラゴン素材が入るくらいの『収納袋』は作れるようになるんじゃないだろうか。
「ほら、ここの空いたスペースなんか有効活用できそうだぞ」
「あっ、たしかに!」
「それと回路がちょっと煩雑になりすぎてるな。自分が今作ってる回路だけじゃなく、魔道具としての全体にもう少し目を向けた方がいい」
「は……はいっ!」
打てば響くというか、俺のアドバイスを素直に受け取って試すことでルルの魔道具作成の腕は着実に成長している。
その才能を見ると、やっぱり師匠のお孫さんだなぁと思わざるをえない。
(ひょっとしたら適当にやってる俺なんか、あっという間に抜かれちゃうかもな)
そんなことを考えつつ、俺は新たにできた魔道具作りの弟子の様子を見守るのだった――。
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