第27話 木の実の毒?


「ちょーっとばかり、薄めな温泉はないの?」

 私、諦めきれなくて元魔王に聞く。

「希硫酸ってことか?」

 嫌な言い方するわね、元魔王。


「薄めでも強いぞ。湯あたりしたら旅が続けられなくなる」

 くっ。

 そうやって、正しいことを言っていればいいって態度が気に入らないのよ。

「みんなさ、頑張って歩いているのにお風呂入れてないし……」

「ロボット犬が錆びるぞ」

 ……ケイディ、とたんに私を睨むのは止めて。


「わかったわよっ。

 じゃあ、がまんするけど、明日こそはお風呂に入らせて」

「なんとか考えよう。だが、その実にあたれば風呂も不要になるぞ」

 ……嫌なこと言わないでよ、元魔王。


 結局、みんなを黙らせるためには実験して証明してみせるしかない。

 山道だから、湧き水もある。私は水筒をいっぱいにして、手首の内側に木の実の汁を塗った。痒くなったらすぐに洗って、木の実も捨てて、なかったことにするんだ。


 そのまま歩き続けること15分。

 人が掘ったとは思えない自然な洞窟が現れた。どうやら、ここに魔方陣があるらしい。

「魔界って、洞窟が多いんだね」

「雨が多いからな」

 ふーん、なるほど。

 私はうなずきながら、手首に目を走らせる。


 うん、問題ない。

 次は……、すり潰して唇に塗るのよね、3分間。

 ちょうどいい。賢者が照明の魔法を使っても、暗い洞窟なら私が木の実の汁を唇に塗ってもバレないだろう。


 あっ、いい香り。甘くてすかーんとした清涼感のある香りがたまらない。

 唇に塗ると、本当によくわかる。我慢しきれなくて、舌の先を唇に触らせる。

 甘ーいっ。これ、たまんない。フランが口の周りを真っ赤にしてたくさん食べるわけだ。


 でも、さすがに飲み込むのは怖かったので……、これは15分間のテストだったわよね。

 洞窟の中で魔法陣を見つけ、元魔王の指示で私たちはまたブレーメンの音楽隊のように組み上がった。

 元魔王の足が肩に乗っている。いつもは腹立たしいけど、今日は許してあげる。なぜなら、この木の実が美味しいからよ。


 次の魔法陣に、私たちは跳んだ。

 またまた暗い洞窟の中だ。

 いつだったかの、滝の裏みたいな面白いところはもうないのかな?

 暗い洞窟から暗い洞窟への移動って、芸がなさすぎるわ。

 なんて考えていたら、いきなり賢者が爆笑した。なによ、なにがそんなに面白いのか教えて。と聞こうとしたら、橙香と宇尾くんも笑いだした。ケイディに至っては、お腹痛いの? って聞きたくなるほどうずくまって背中を丸めて笑っている。


「どうしたのよっ!?」

「落ち着け、勇者。不思議には思わないか?」

 比較的マシな宇尾くんが聞いてくる。

「なにが?」

 質問に質問で返す私。


「賢者は、ここを明るくするための魔法を使っていない。火も燃えていない。なのに、なんで見えている?」

 どこからか、光が入ってきているからでしょ。それがどうしたってのよ?


「光っているの、阿梨の唇!」

 ついに、橙香が白状した。

 で、なに?

 なんで私の唇が光っているの?


「手首も光ってる。阿梨、木の実の試験したのね。でも、お行儀悪すぎよっ!」

「……フラン、思いっきり食べていたけど光ってないじゃんっ」

「フランはあのあと、目の間まで舌出して舐めていたからね。きれいに舐め尽くしちゃったから光らないんでしょ」

「そっちの方がお行儀悪いでしょっ!」

 もういいっ。

 光るくらいの副作用だったら、私、みんな食べちゃうっ!

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