第26話 魔界の農薬
フランの教えてくれたベリーみたいな木の実、私、取れるだけ取っていくことにした。柔らかくて崩れちゃいそうだから、慎重に運ばないとなんだけど、でもすごく美味しそうなんだよねぇ。
でもって、フラン、口の周り真っ赤。子供みたいって、子供なんだけどね。ぱくぱくと、その木の実を食べられるだけ食べていたんだ。
今までフラン、MREから実験するみたいに少しずつ食べていたから、安心してお腹いっぱい食べられるものがあるってうれしかったんだろうね。だけどさ、フラン、アンタ重くなったよ。よっぽど食べたんだね。
で、フランを見ていると、とても楽しみ。
美味しくて毒がなかったとしても、みんなには分けてやらないんだからね。いいや、1つだけあげようかな。美味しいのがわからないと、羨ましくないもんね。
1度でいいから、イチゴでお腹いっぱいにしたかった。その夢が叶いそうだよ。
「村の周りだと、みんなで食べるものだし、食べ尽くしちゃうわけにもいかないのです。でも、この辺りには村はなさそうですし、勇者さまと2人でお腹いっぱい食べてもなくなりませんから」
そうなんだよね。まだまだ未熟果も多くて、そういうのには手を出さなかったらなくなっちゃう心配はしなくていい。
だけど不思議だよね。
私たちの世界に比べると魔界は植物の種類は多くないし、野生の動物もあんまり見ない。これだけ木の実があっても、鳥も見なかった。でも、豊かな時と所はあるんだよね。
喉を通らないと思っていたMREも、イチゴ食べ放題が待っていると思えば食べられる。すたすた歩いて、ずんずん歩いて、川を越え、丘を越えて40km。昨日は水を浴びたけど、今日はお湯を浴びたいな。
「次の魔法陣の辺りに、温泉はないの、温泉は?」
って、元魔王に聞いたら、あるって。
お風呂に入れるって大喜びしたけど……。
「近寄るだけで生き物は死に絶え、湧き出す熱湯に触ればどのような金属も溶け落ちる。入りたければ、好きにするがいい」
「……それって、火山性亜硫酸ガスでしょ?
知っているわよ。昔遊びに行った温泉で、すっごい臭いしていたもん」
で、そんな温泉、入れないよ。死ぬじゃん。きっとお湯だって硫酸かなにかだ。
「臭いなどせんぞ。一息で嗅覚が死ぬからな」
「……ちょっと、ソレ、怖すぎて近寄れないんですけど」
「諦めろ。それより、どこかで真水を汲むのを忘れるな。その摘んできた木の実が毒だったら、なにより水が必要になる」
「……これは無毒で美味しい予定ですっ」
私がそう力説しているのに、元魔王は失礼なことに「ふふん」って鼻先で笑いがった。まぁ、毒とかとは関係なく水は汲むけどね。
毎度毎度、魔方陣があるのは山の中だよね。
私たち、最後の死力を振り絞って坂を登る。そして微かに硫黄の臭い。まぁ、いいんだけどね。毒ガスがそこそこ濃くても、魔法陣で跳んでしまえば行った先は安全なはず。
「元魔王。なんで、こんな危険なところに来る必要があったんだ?
こんなところには、畑どころか村すらないぞ」
ケイディ、それ、昨日も聞いたよね。
「硫黄を採るためだ。食料の増産は、硫黄と石灰の効き目によるものでもあったのだ」
「……なるほど、石灰硫黄合剤か」
賢者がつぶやいた。
農薬?
すごいね、そういうのもあるん?
魔界でも、化学というジャンルはあるってこと?
あとがき
本日挿絵入り。花月夜れん@kagetuya_ren さまからいただきました。
感謝なのです。
ここに貼りました。
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