第43話 ロニアルの泉


 スライムの子、フランは私たちが知らないことを自慢そうに話した。まぁ、しかたないよね。小学生の真ん中くらいの歳の子が、大人に対して知ったかぶりできるとなれば、それはもう本当にうれしいだろうから。


「魔王様、勇者は知らないみたいですよっ。

 これから魔王様が行こうと考えていらっしゃるのは、湿地帯の真ん中の古代墳墓遺跡。となれば、ロニアルの泉ですよねっ。死んだ人の魂が溶けた水が湧き出すという泉。魔界では知らない者はいないという場所ですよね、えっへん」

「そのとおりだ」

 ……2つの意味で、えッぐ。


 フラン、アンタね、そんなにあからさまに私のことを落とすんじゃないわよっ。

 そんな落とさなくったって、元魔王は私のことをわかっているんだから、今さら驚きゃしないわよ。って、なんだ、この違和感は?

 私、元魔王に対して、なに考えているんだろ?


 ええい、なんかもやもやするから、次っ!

 もう1つのえっぐいのは、その死んだ人の魂が溶けた水ってヤツ。

 そんな水、絶対飲めないよ。身体を洗うのもヤだ。

 なんでこの世界、水に関わるとろくなことがないんだ?


「死んだ人の魂が溶けた水って、さっき水が話すなんてことも言ったけど、なんかの意思を表したりするの?」

 そう聞いたのは賢者だ。

 うん、そうだね。賢者の確認するとおりで、水が話すわけがない。そんなの、もしかしなくても迷信だし、そうならば怖がるだけアホらしいし、そういうので魔族があまり近寄らない泉なら水質はいいんじゃないかな?

 近現代人の私は、科学の申し子よ。幽霊なんか信じないんだからね。

 となれば、引き算の結果、きれいな泉が残ることになるわよね。


 森の奥、石の遺跡を背景に、泉で水浴びをする美しい乙女。

 くーーっ、たまらん。絵になって絵になって、誰もが大好きなシチュエーション。それをこの私が演じるのよ。いいえ、演じるというのは正しくないわ。だって、私はマジで美しい乙女なんだからっ。

 泉の水だって、その美しさを永遠に語り継ぐはずよ。話せるんだから。


「そうだな、文字どおり、それが信じられている。

 というのも、泉の周囲に暮らす魔族たちは、身内が死ぬとその泉に散骨し、自らの生きる道に迷ったときにはその泉に語りかけるという習慣をもっているからだ。

 実際、語りかけられた死者は泉の水の力で水面の上に立ち上がり、悩みに対するなんらかの答を見出してくれるものらしい」

 ……散骨!?

 やめてよっ。水浴びできないじゃないっ!

 迷信とか、そんなの超えてきたわねっ。


「確認したいんだけど、そういう話なの?

 実際に話すの?」

「だから、今話したとおりだ。返答を求められた死者は、『実際』に話す」

「それは、なんらかの魔族に騙されているのではなくて?

 あ、失礼っ」

 賢者は、元魔王に詫びを入れた。うん、魔族に対して、魔族に騙されているのでは? ってのは、だいぶ失礼だよね。ご先祖様を祀ること自体の否定にも聞こえるし。


「気にするな。信じられないのはわかるからな。

 おそらくは、泉の底に高密度で魔素を放出するなにかがあるのだ。その魔素が遺骨の残留思念に囚われ、生前の形を取ってなんらかのありそうなことを言う。

 まぁ、ありうる現象だ」

 そっか。

 でも、水浴びも、そこの水を飲むのも無理だなぁ。


 でも、旅は旅。

 私たちは前に進まなきゃだ。跳躍して……、行った先の墳墓の中で寝るのかぁ。そろそろ、まともなところで寝たいよ、私。




あとがき

次回から新章の予定です。

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