第22話 そもそもそもそも
「魔界からのゲートのあるザフロスの渓谷はここから西。その攻略のため、勇者パーティーと前魔王様におかれましては北回りで西に進んでいただきたい。
我々、魔王軍は南回りで西に進む。敵を二手に分けることで、互いに勝算を上げることができるだろう」
「わかった」
元魔王の辺見くんが答える。
「この世界の深奥の魔界からのゲートだが、ザフロスの渓谷以外にもあるのか?」
この質問はケイディだ。
「すでに、我々の世界にまで影響が出ている。それがそのザフロスの渓谷にあるという魔界からのゲートによるものなのか、我々にはわかりようがないのだ」
「それは我々にもわからぬ。そもそもそちらの世界への影響というものが、我々の世界経由なのか、ダイレクトにそちらの世界に影響を及ぼしているのか、知る
上将ワイバーン『謀略のアウレール』の返答に、ケイディは渋い顔になった。
「ここで我々が深奥の魔界からのゲートを叩くことで、我々の世界に逃げ出されては困るのだ」
「言いたいことはわかるが、我々には敵がどう出るか知る
そう言う『謀略のアウレール』に、ケイディは沈黙で答えた。納得はできないけど、これ以上問うこともできないのだろう。
うーん、知らない、知る方法もないってのは最強だね。
でも私、ケイディが言っていることが妙に遠回りに感じた。
「深奥の魔界に橋頭堡を築くんでしょ?
そこで暴れ回れば、深奥の魔界の敵はどこの世界にも攻め込めはできなくなるのでは?
……な、なによ?」
私は質問に、さらに言葉を重ねたのは、ケイディと賢者の両方が露骨に嫌な顔をしたからだ。ケイディなんか、露骨に「このバカが」って顔だもん。
「……あのな」
ケイディが思いっきり小声で私に言う。現魔王や『謀略のアウレール』に聞かれたくないのだろうね。
「その作戦を実行するのは、深奥の魔界の橋頭堡に置き去りにされて捨て駒にされる我々ということになるんだぞ。そもそもここの魔王に侵略の意志はない。魔王軍の編成は未だにあまりに貧弱で、実行は不可能だからだ。
となると、補給もままならないまま、四面楚歌の状況で永遠に戦うことになるのは我々しかない。
だから、あえて口には出さなかったのだ」
あ、なるほど。
でも、私、言っちゃったし。
でもでも……。
「大丈夫なんじゃない?
橋頭堡にこだわればそうなるけど、そこから深奥の魔界の魔王を倒しに進出すれば、敵もそれを防ぐので手一杯になるよ」
「2つの魔界を征服するって言うのか、勇者」
「できなくはないでしょ?」
私の返事に、今度は賢者が天を仰いだ。
「私たちは、魔王軍と正面から戦ったことは一度もないんだぞ。勇者のパーティーの人数で、軍隊に勝てるはずがないんだから。つまり、運に恵まれて魔王を討ったんだ。その運が2度も3度も続くとは思えない」
「そもそもさ、戦争の必要があるの?
ここではどうかわからないけど、私たちの世界では深奥の魔界の魔物は見えないんだったよね。それだけ違うと、戦争してまで守ろうってものと敵が欲するものが違わなくない?」
「今さらここに根本論を持ち込むなぁっ!」
なんで怒るの、賢者?
ため息交じりにケイディが私たちの間に入った。
「それも一当て戦わないと読めないだろう。深奥の魔界が我々の世界に攻めてくる動機なんか、そもそもわかりようがないのだ。見えない敵と交渉などできないからな。
この世界からなら見えるかもしれない。そこに期待するしかない」
ああ、そっか。敵を知るためにも戦わないとなのか……。
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