第20話 連合軍として


 まぁ、いいわ。

 今の魔王を敵に回したとしても、パーティーとしては戦えなくても私一人は戦えるわけね。でもって、今の魔王は魔界を完全に掌握している。たぶん、元魔王の出る幕じゃない。

 つまり、今の魔王を敵に回すことは、絶対に避けるべきことなんだね。


「わかったわよ。今の魔王が魔界で最強の王様なのね。

 じゃあ、さっさと手を組んで深奥の魔界の敵と戦いましょ」

 私がそう呼びかけると、私の幼いときの姿の魔王が上将ワイバーン『謀略のアウレール』を抑えて自ら答えてくれた。

「そうしたいとは思っている。今は小さなことに目くじらを立てず、大義に沿うべきであろう。

 だが、それでも決めておかねばならぬことがある」

「なんだろ?」

 私の問いに、『謀略のアウレール』はまた目を怒らせ、魔王は無邪気に笑った。もちろん、無邪気なのは表情だけだとは思うけれど。で、なんでまたアウレールは怒ったのかな?


 魔王は笑顔のままで言う。

「まず、勇者と魔族での混成部隊は作れない」

「なんで?」

「簡単なことだ。指揮権はどうするつもりだ?

 勇者が我々魔族の誰かの下で命令に従うとは思えぬ。逆に、勇者の命令で魔族が死ねば、再び魔界は勇者との戦いに踏み切らざるを得まい」

「……あ、そういうこと」

 私、頷くしかない。


 私、戦いのことなんかわからないんだけど、近頃ちょっとだけだけど、頭の中にいろいろが浮かぶんだよね。もしかしたら記憶が戻ってきているのかもしれない。

 で、そのいろいろの中に、戦いの指示はシンプルでないと負けるってのがあるんだ。魔王と私のそれぞれが並列で指示を出したら、魔族は右往左往してしまって負ける。当たり前のことだ。


「じゃあ、どうするつもり?」

 私の問いに、魔王は真面目な顔になった。

「連合軍として、敵を2方向から攻めよう。

 私が指揮する魔王軍と、勇者パーティーの2つだ。聖剣タップファーカイトの威力は一軍に匹敵する。できるはずだ」

「補給は協力してくれるんでしょうね?」

 横からそう聞いたのは賢者だ。


「水と食料は無条件に提供しよう。

 だが、勇者パーティーの武器はわからないから、こちらとしてはどうしようもない」

 そう答えたのは『謀略のアウレール』だ。実務的なことも取り仕切っているんだね、アウレール。でもって、賢者もいい質問だったと思うよ。


「複製魔法の使用も許して欲しい」

 さらに賢者が要望し、『謀略のアウレール』は首を横に振った。

「……勇者パーティーの武器を複製するつもりか。だが、それがこちらに向かない保証はあるのか?」

 ああ、それは当然の心配だね。


「回数制限すればいいでしょ」

 あっさりと賢者がそう返して、魔王は腕組みをした。さすがに笑顔は消えている。やはり、いろいろと考えているんだろうな。


「正直に言おう。現魔王としては、魔界を再び勇者に闊歩されたくない。勇者からすればたかがスライム1匹かもしれぬが、私にとっては大切な民。そのような犠牲が生じたら、それは再び次の諍いの火種となろう」

「魔王軍からオブザーバーを出せ。それで、複製魔法とかもそいつに使わせろ」

 と、これはケイディの発言。

 で、オブザーバーってなに?


「なるほど。それはいい案だ」

 魔王は大きく頷いて再び笑顔になった。うん、アンタ、顔だけ見ていたら無邪気で可愛い私そのものだわ。

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