第17話 魔王降臨
やっぱり魔族って、魔素による共感作用とかあるのかな。
でろんとしていたスライムたちが、起き上がってぷるんぷるんに戻っている。やっぱり上司が来るともなると、得点を稼ぐ態勢になるんだろうな。なんか、これ、ハードに働いているサラリーマンみたいで健気ですらあるよ。
空に視線を向けて目を凝らしていたら、上将ワイバーン『謀略のアウレール』がゆっくりと羽ばたいているのが見える。だけと、飛んでいる姿はそれだけだ。魔王はどこにいるんだろう?
そう思って目を凝らしていたら、『謀略のアウレール』の首に跨っている小さな姿が見えた。ぐんぐん近づいてくるので、すぐに幼女と少女の真ん中くらいの女の子だとわかった。
で、この子が今の魔王なの?
それともこの姿は仮のもの?
だって、ぜんぜん怖くもなんともないじゃん。
「上将ワイバーン『謀略のアウレール』が、その背を預けるとは……。現の魔王とは、一体何者なのだ?」
元魔王の辺見くんがつぶやく。
そうは言うけど、元魔王は大きかったらしいから、ワイバーンに乗ったら離陸できないんじゃない?
上将ワイバーン『謀略のアウレール』は、その身体の大きさからは想像できないほど滑らかに着地した。私たちもほとんど風を感じないくらいだ。乗せてと言ったら怒られるだろうけど、乗り心地は最高なんだろうなぁ。
そして、首を伸ばして地に伏せ、その首に跨っていた女の子が降り立った。
戦士の橙香と賢者の結城先生から、声にならない悲鳴を上がった。武闘家の宇尾くんとケイディも呆然と立ち尽くしている。その姿を笑おうとして、魔王の姿がようやく私の脳に認識された。
私の身体が驚きでこわばり、悲鳴を上げようとするのを奥歯で噛み殺す。
……私じゃん。
小学生になった頃の私だ。
私、双子だったの?
いや、そんなわけないっ。高校生と小学生が双子ってありえないでしょ。一体全体、どういうこと?
「私が魔王、『恐怖のエルナ』である」
ふんぞりかえった幼女という感じで、魔王が名乗りを上げる。
「……どういうことなの?」
呆然と聞く私に、魔王『恐怖のエルナ』は笑った。
……私って、そんなふうに笑うんだ。すごく純粋で、すごく禍々しい。
「この場にいる者たちの一番恐れている姿を具現化する、それが私だ」
「じゃあ、私じゃないんだね?
仮の姿なんだね?」
「いいや、半分はお前だ」
「……どういうこと?」
「なぜわからぬ?」
「……お願いだから、質問に質問で返さないでよ」
そう懇願してしまう私を、周りのみんなが見ている。
違うからね。私も魔王だったりするわけじゃないからねっ!
「勇者。おまえが魔界を破壊したときに、魔族たちが憶えた恐怖の総量がわかるか?」
あ、そういうこと?
なんか、その先は聞かなくてもわかっちゃったぞ。
「私が魔王を討って、その結果の魔族の恐怖が凝固したのが魔王ってこと?」
「そうだ。魔素が恐怖に肉と人格を与えた。私が今、魔王に祭り上げられている理由もわかるだろう?」
「……うん、わかる」
頷かないという選択はない。
スライム軍団が起き上がってぷるんぷるんに戻っているのは、上司に対して得点を稼ぐためじゃない。恐怖からなんだ。
上将ワイバーン『謀略のアウレール』がその背を預けるのも、おそらくは恐怖から。なんか、シャレにならない事態になってきたぞ。
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