第37話 塩湖の真ん中で


 私たちは、車で塩湖の上を移動する。

 白い大地が朝日を浴びて輝く。こう言うときれいな風景みたいだけど、実際は白と遠くの山脈の灰色と、空の青しかない単調な世界だ。

 コントラスト比が高いのがきれいって人ならいいだろうけど、私には少しどぎついな。きっと、こんなとこに長居したら、日に焼けて真っ赤になっちゃう。ちょっとは緑の潤いが欲しいよ。


 塩湖の真ん中の磁場発生装置の脇で、私たちは車から降りた。

 磁場発生機の横のなんかの機械は軽い唸りを上げていて、電源が入っていることがわかった。

 さあ、いよいよなんだな。


 魔王の辺見くんは、ここへ来て初めて首に巻いていた黒い布を取った。その首筋の両側には、うっすらとした傷跡が見える。たぶん、左側は橙香が、右側は私が斬りつけた跡だ。

 私たち女の子が重装備、宇尾くんはいくらか装備が軽く、そして辺見くんに至っては妙に薄着、というより単にTシャツ1枚で、片手にツヴァイヘンダーをぶら下げているだけだ。だから、黒い布を取れば傷跡はむき出しなんだ。

 で、ケイディが重装備を勧めるのに対して、「余の魔界ぞ。里帰りに装備は不要!」って、そう言い放ったらしい。

 まぁ、言われてみれば確かにそのとおりなんだけど。


 ただ、魔王城に二代目魔王とかがいて、戦いになる可能性もあると私は思うんだよね。ケイディも同じ考えだから、魔王城にダイレクトには入りこまないんだし。

 でも、辺見くんは全然不安じゃないみたい。もしかしたら、魔族の忠誠心って、すごく強いのかもしれないね。

 ……辺見くんの甘い考えが外れて、慌てる姿も見てみたいけどね。


 魔王と賢者は、魔界に行けばそこにある豊富な魔素を得て、その実力を発揮できるはずだ。きっと、戦いだけでなく、旅の道中に使う防御魔法みたいなものもあるんだろうな。

 1日歩いても足が痛くならない魔法なら、私にもかけて欲しいぞ。

 それどころか、魔王なんか空飛んで、魔界城に帰れちゃうのかもしれない。そうなら、その背中に乗せて欲しいよね。


 で、そんなことを考えていたら、数分でもしゃもしゃで長髪、白衣の博士って感じの人が手を挙げた。「Full charge!」そう叫ぶ声の意味くらい、私にだってわかる。

 磁場発生装置の隣の機器は充電装置ってことで、その充電が終わって一気にパワーを開放する準備が整ったってことだ。


 犬型のロボットやケイディの銃器、橙香と宇尾くんの武器、魔王のツヴァイヘンダーとか、みんな防磁の箱に収められた。鉄製のものが、強力な磁場で磁化されちゃうと困るからだ。

 よくはわからないけどそう説明されて、さらに賢者に「なんでもかんでも砂鉄がついたら面倒くさいでしょ」って言われて、私は完全に理解した。ケイディの銃がいくら荒使いに耐えると言ったって、中も外も砂鉄でもしゃもしゃになったら使えないだろう。

 犬型ロボットだって、砂鉄が付かなくったって、動作がおかしくなっちゃうだろう。


 私が聖剣タップファーカイトで空間を斬ったら、すかさずみんなでこの防磁ケースを運ばねばならない。重さがあるから大変だけど、ここだけはどうにもならないんだよね。


「竹の物差しにしておいて良かっただろう?

 竹は磁化されないからな」

 いまさらなによ、ケイディ。アンタが私に竹の物差しを押し付けたのは、このためじゃなかったはずよね。

 恩着せがましくしないで欲しいもんだわ。

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