第29話 戻らない記憶


 いろいろな検査や調査があって、夜、私たちが再集合できたのはかなり遅い時間になってからだった。

 とはいえ、時差で眠いんだか眠くないんだかワケわからないことになっていたし、全員変な感じにハイになっていた。疲れすぎていたんだと思う。


「聖剣タップファーカイトが見えたんだって?」

 橙香の問いに、私、大きく頷いた。

「見えただけじゃなくて、スキルかなんかの設定も見えた。だけど、記憶が戻っていないので怖くてイジれない」

「そっかー。

 すごいね。これで阿梨の性格も治ったらいいのにね」

「……なんだって?」

 私、思わず声が低くなっちゃった。


「あのね橙香、戦士といえども言っていいことと悪いことがあるよ」

「うーん、その言葉、そっくりそのままお返ししたい」

 なによ。

 せっかく、私がいいこと言ってお説教してあげているのに。


 で、そんなこと言っていたら、ふと不安になった。私だけ取り残されたらどうしよう?

「橙香、アンタ、大活躍だったらしいけど、記憶戻ったの?」

「ううん。戻ってない。

 だけどね、武器を持つと使い方はわかるんだよね。これって、前世の記憶を身体が覚えているってことなのかな?」

「いや、聞かれても私も知らないけど」

 とかなんとか、不毛な会話になりつつあるところで、宇尾くんが口を開いた。


「瀕死の状態でも、反復修行したものは身体が動く。だが、さすがに首を落とされても同じように身体が動くとは思えない。つまり、身体が動くとは言いながら、脳が思い出しているんだ。だから、戦士の記憶が戻るのは近いだろうな」

 なるほど。

 言いたいことはわかる。そんでもって、宇尾くんて、まともにものを考えられたんだ。ただの脱ぎたがりだとばかり思っていたよ。


「まぁ戦士はいいが、問題は勇者がいっこうに記憶を取り戻す気配がないことだ」

 ……元魔王、なんでまた急にもっともらしいことを言い出すのよ?

 で、しょうがないじゃない。思い出すためのきっかけみたいなものすらも、私、ぜんぜんわからないんだから。


「本人が思い出したくないのか、思い出せないようになにかのロックが掛かっているのか、そろそろ真面目に考えねばなるまい」

 なによ、「なるまい」とか、偉そうな。


「だぶん、思い出したくない、ね」

 そう口を挟んできたのは、賢者の結城先生。

 なんかさ、高校に入ったばかりの私たちの中に先生が1人紛れ込んでいると、妙に大人感が演出されているよね。


「思い出したくないって、どうして?」

 私の問いに、結城先生は答えてくれた。

「思い出せないようになにかのロックが掛かっているのであれば、聖剣タップファーカイトが使えること自体がありえない」

 あ、そう。


「思い出したくないのに、聖剣タップファーカイトが使えるのはなぜ?」

 私の心が思い出したくないのなら、聖剣タップファーカイトのことだって拒絶するんじゃない?

 つまり、身体の外に出てくることはないよね。


「ただ単に、聖剣タップファーカイトを封じ込めることができなかったということじゃないの?」

 橙香の問いに、結城先生の答えは明快だった。

「いいえ、五月女さんの心の底では、前世の勇者の魂が息づいているからかもしれない」

 なるほど。

 それ、カッコいいから、結論はそれにして。

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