第2話 3日目の朝1
高校生活3日目、当然のように安穏な日なんか来なかった。
朝、いきなりよ。
「武闘家と賢者はどうしたんだ?」
元魔王にそう聞かれて、私が返事をすると思う?
まさかするとは思わないわよね?
当然、無視したわ。
それはもう、きっぱりと。
私が一番美少女に見える遠い眼差しになって、黙殺。これで察しなさいってこと。
アンタと私は、決して交わることのない別の世界の住人なの。だから、もう話し掛けないで。
なのに、こいつったら、まったく空気を読まない。
「……おい」
私は、「なによ?」と聞きたい自分を抑え込む。
「装備はどうしたんだ?」
「ぬののふくなら着ているわよっ!」
つい答えて、私は後悔した。
「聖剣タップファーカイトはどうしたかと聞いているんだ」
ほら来た。
「知るわけないでしょう?」
このあたりで私、諦めがついたと言うか、覚悟を決めた。
きちんと話して、それを密かに録音して、担任に言いつけてやる。「おかしな人につきまとわれている」と。こうなれば担任だって無視できまい。そもそもまだ高校生活3日目なのにこの密度なんだから。
「ねぇ、辺見くん。
聞くけどさ、なんで私なのよ?
話したいことがあるなら、昼休みに屋上あたりで聞くから、それでいい?」
アルカイックスマイルで繰り出される私の声は、猫なで声ではあっても液体ヘリウムより冷たかったに違いない。
でも、こいつってば、ぜんぜん堪えてない!
なんという、うざさか。
あー、退治したい!
「ようやく勇者としての自覚を持ったか。
だが、詳細を思い出せないならば、昼休み、語って聞かせようではないか。
お前は気がついていないのかもしれないが、その目の色を見れば正体は明らかなのだ」
「私の目がなにか?」
そりゃ、私も聞き返すわ。
私ゃ、両目ともありがちな茶色。悲しいけど、アニメなんかだったらモブに一律に塗られるような変哲もない色だ。
「勇者の左目は、虹彩に一筋金色が入るのだ」
えっ、私の目ってそんなんだったっけ?
そりゃあね、これでも私も女の子だから、鏡は毎日見るよ。でも、眼球だけをしげしげ見つめるなんてことはない。だって、目の玉にお化粧するわけじゃないし。見るとしたら鼻ね。
朝起きて、顔洗って、寝癖がぴんぴん立っていないかチェックして、どうしても寝てくれない一筋に絶望して、それでもにっこり笑ったときのえくぼをチェックして、それで終わりよ。
なんて考えていたら、不意に私の顔、横から冷たい両手に挟まれてぐいと回された。
そして、至近距離に橙香の顔。
「おはようございます」も抜きに、いきなりそれか。
でも、自分でも予想外だったけど、ちょっとどきどきした。昔流行った壁ドンとは明らかに違うけど。
「あ、本当だ。
ちょっと見では気が付かないけど、左目の虹彩にスジが入っているよっ。まぁ、金というより、ちょっと薄く色抜けしているだけに見えるけどね……。
オッドアイだ」
えっ……。
「右と左で瞳の色が違うとかじゃないよ、私」
「いや、ただ単に、1つの眼球で虹彩の色が複数あってもオッドアイ。
左右で色違いとか、そういうのだけじゃないよ」
「じ、地味だ……」
思わず、そう呟いてしまう私。
なんていうんだろ、ほら、アニメやゲームなんかで、ある意味最強の個性じゃん、オッドアイ。
なのに、私のときたら、近距離でしげしげと見つめられてやっとわかるレベル。なにより、本人が気づいていないってなんなのよ。情けないったらありゃしない。
そしてなにより、気がついても嬉しいと感じるほどのもんじゃないってのが、これがまた……(困惑)。
あとがき
たいていのオッドアイは、地味ぃーーなのですw
イメージ4コマは、花月夜れん@kagetuya_ren さまから頂きました。
感謝なのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます