この身、滅べども
一枝 唯
01
古今東西、女というのは男を振り回すものだ。
あれが欲しいわ、それが見たいわ、何気なく発せられる気紛れな一言に、男は翻弄される。
そう、女は言うのだ。
もしも私が欲しいなら、私の望みを叶えなさい。
あなたが私に提供できるものを見せて。
私は決して安くはないわよ――と。
それは本能に基づいた、男と女の遊戯。男は女に応と言わせるそのために、くだらない望みを叶える。たとえそれに苦労をしても、全く大したことではないふりをする。そうして、男を手玉に取っているつもりの女をいつしか逆に、支配しようと。
支配できれば男の勝利。手玉に取られ続けるだけなら、敗北だ。
言うは易し。女の罠というのは巧妙である。
かつて二度だけあったとされる黒い歴史――継承によらぬラインの交替というのも、その内の一度は、当時の〈ライン〉が街よりも女を選んだためと言われている。
遠い昔のこと故、真偽のほどは判らない。
だが、ひとつだけ確かなことがある。
〈魔術都市〉と呼ばれ、ビナレス中から怖れられるこのレンで、最高峰の魔力を持つように生み出され育まれた〈ライン〉という存在ですら、女に惑わされることはあると、少なくともそう考えられていること。
もっとも、彼はラインではない。彼は、レンの王位を継ぐ資格を持たない。
いまのレンには、忌まわしく怖ろしいとされる〈魔術都市〉の第一王子に相応しい、氷のような美貌と知性を持つ完璧なラインがいる。
いずれこのラインが王位に就けば、レンは変わらぬ、それともいま以上の繁栄をし、そしていま以上に忌まれ、怖れられるだろう。
それは望ましいことだった。現在の女王はあまり目立つことを好まず、現状の評判で満足をしている節がある。上昇よりも安定という訳だ。
だが若い彼らには、安定など退屈を助長するだけだった。
刺激的な波乱があればこそ、世の中は面白い。
そう、刺激的な――。
たとえばそれは、身を滅ぼすほどの、恋の駆け引き。
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