令嬢は美しく微笑む


 この場には、他家のことに口を挟む権利をお持ちの方はおられません。

 そのような権利を持つ方など、この世にほとんどおられませんけれどね。


 本当にどうして同席していらっしゃるのかしら?

 今日はまだ、わたくしからご挨拶もしておりませんことよ?

 四人も貴族令嬢が揃っていて、誰一人気付いていらっしゃらないご様子なのはどうしてかしら?

 それにわたくし、一度とて皆様にお名前で呼んで欲しいとお願いしたこともございませんのよ?


 他にも言いたいことが山ほどございましたけれど。

 わたくしは心の中に湧き続けるこれらの想いを、ただ作ったこの笑みに乗せるだけ。


 そうすれば、たとえばいつもお茶会などでわたくしにご指導くださいます貴婦人の皆様ならば。

 すべて分かってくださいますのよ?


 そのような素晴らしき人生の先輩方は、今のような対応が必要となるお話をなさいません、というそもそものお話もございますけれどね。


 わたくしがこれほどの作り笑顔でお礼を伝えるなんて異例のこと。

 それはわたくしではない貴婦人の皆様とて同じです。


 ご指導くださるといっても、皆様からはただただ和やかな優しい時間を頂戴しているばかりなのですから。



 けれども目のまえの彼女たちには一切通用しなかったよう。


 まだ若いから。

 学生だから。


 この方々の家の皆様は、このように寛大に許してきたということかしら?


 わたくしとしましては、自身の言動を振り返るきっかけを得られたことに加えて、今後のお付き合いを考える機会も頂きましたものですから?


 大変有難く思いますし、先ほどお伝えしたお礼の言葉にも、嘘偽りの気持ちはありませんことよ。


 でもね、ふふ。

 淑女の笑みはそれだけに収まらないわ。




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