【不定期更新・連載版】無自覚に飯テロと性癖破壊テロを繰り返す聖女様の処女が勃起(♂)したら私が死ぬ
🔰ドロミーズ☆魚住
序章 ~ プロローグ ~
明日死ぬと思って食べなさい 。永遠に生きると思って食べなさい(1/3)
「……寝てた……」
独り言はしない主義ではあった筈の僕がそんな独り言を口にした。
当然、誰からの返事はやってこない。
「……13時……」
1人暮らしを始めると、ついつい独り言を言ってしまいがちになると聞くけれども、それはありうる話なのかもしれない。
自分の部屋を真っ暗にして昼まで寝ていた僕はそんな事を思いながらも、ベッドの上でもぞもぞと蠢いた僕は寝る前に投げ捨てていたスマホを手にとり、その画面に映し出される時刻を口にする。
当然ながらそんな僕の独り言に応えてくれるような人間はいない……いたとしたら、その人はまごう事無き不審者なのだろうけれど。
「……学校に連絡……面倒くさ……しなくていいや……」
今日も今日とて無断欠席を決め込んだ僕はまたもや無意味でしかない独り言を口にした僕はここ最近で何度目になるか分からない溜め息を吐き出す。
実際問題、1人しかいない空間というものはとんでもない程に気が滅入るもので、僕は他にもやらないといけない事がまだまだたくさんあるというのに、現実逃避をしたいが為に朝を寝過ごして、学校をサボって、昼まで寝ていた。
まさにダメ人間の生活。
僕の事を知っている人間であるならば、誰もが想像できないような堕落っぷり。
「……片付け、もうちょっとだけ頑張ってみるかな」
もう何日も食事をしていない所為で空腹を覚えた気怠げな身体を叩き起こして、僕は部屋の電気をつけないまま、スマホの光を頼りに自室の机の上に散らばっている紙の資料をクリアファイルに入れるだけという作業をする事にした。
――相続税申告書。
――死体埋火葬許可証交付申請書。
――死亡診断書。
――死体検案書。
――確定申告書。
僕の唯一無二の肉親である姉である
――僕、
そう、死んだ。
あっけなく死んだ。
彼女の誕生日の当日に、姉は死んでしまった。
もう二度と僕は大好きな姉に出会う事はできない。
「……本当に、これからどうしようかなぁ」
それでも、僕には姉を失った哀しみに身を浸している余裕なんてなかった。
だって、何かを悔やんだりしていても、誰かを恨んだりしても、何をしたとしても、姉は絶対に生き返らない。
不幸中の幸いと言うべきか、姉の葬儀だとか色々な手続きのおかげで将来どうすればいいのかを考える事さえが出来ないぐらいに忙しくて、文字通りに忙殺された僕は自分の未来の事について深く考える必要性がなかった。
だから、そういった諸々が一段落してしまって、自分の頭で考え事が出来るようになってしまうと、今度は自分が迷子になってしまったかのようなどうしようもない不安が襲ってくるのである。
「念願の
両親は僕が3歳の時……12年も前に事故で亡くなっているし、頼れる親戚なんて、出会った事がない。
だから、僕は姉に育てられてきた。
だけど、もう姉はこの世界にいない。
この3月を過ごし終えれば僕は晴れて高校2年生であり、その気になれば1人で生きていくことだって出来なくはない年齢ではある。
だがしかし、今通っている男子校を辞めてどこかで働いて生きていけるとはとても思えなくて、このマンションから出てどこかの施設にお世話になるべきなのだろうか。
「……お腹、空いた……」
お先真っ暗な人生の身の振り方で頭を悩ませると、僕の腹の虫が盛大にお腹が空いたと自己主張してきたので、自分の部屋から出て、食事を作って食べる為だけのキッチンにへと向かった、が。
「……くさい……」
視線の先には、まな板の上には切りかけの食材と包丁があった。
それらは姉が交通事故に遭ってしまったという連絡を受けた時の状況のままに散らばっていて、まな板の上にある食材に至っては死体に群がるような虫たちで溢れかえっていて、食欲を物の見事にかき消してしまうほどの汚臭を放っていたのであった。
「……食欲、失せた……」
あの日の事を、忘れられる訳がない。
僕がたった1人の家族である姉の誕生日を祝う為だけに料理を作っていた矢先に、姉は交通事故に遭ってしまって死んでしまったという連絡を受けた僕は調理の途中だっていうのに、鍵をかける事さえも忘れて姉が搬送されたという病院に一直線に飛んでいった。
もしも、あの時に火を使っていたら……と思うとぞっとする。
僕は火元の確認すらも忘れて家から飛び出た訳なのだから、このマンションを火災事故に遭わせて多大な損害賠償を請求されていたと思うと実に肝が冷える話だけど、それだけ僕は姉の事が心配だった。
結論から言えば、それは無駄でしかない心配だったのだけど。
「……即死なんだから、急いだところで変わる訳もないんだけど」
思えば、姉が死んだ日からまともな食事を採った記憶がない。
冷蔵庫には確かまだまだ食料はあるのだろうけれど、それらを使って料理をしようだなんて気になれる筈もなく、誰にでも簡単に作れるカップラーメンを作ろうという気概さえ湧いてこない。
だけど、何かを食べないといけないと自分の身体が必死になって空腹という形で訴えている。
どうして明日を生きる為の食事をしないといけないのだろう。
今の僕には明日を生きる気力が微塵もないっていうのに。
だけど、何かを食べないといけない。
本当は食べたくないのだけど、食べないと死んでしまうから食べないといけない。
そう思って、僕は渋々この数日間使っていなかった冷蔵庫の戸を開けて……すっかり忘れていた爆弾を発見した。
賞味期限が1日程度のケーキ。
姉が大好きだった生クリームをふんだんに使用した苺のショートケーキ。
サプライズという名目で勝手に僕が作って、誰も食べなかった誕生日ケーキが、誰にも食べられなかった状態のままでそこにあって、どうしようもない吐き気が襲ってくる。
「……さいあく……」
僕は姉がもうどこにもいないという現実を直視するのが
このまま放置していたら誰かがこのケーキを食べてくれるのではないのか、と淡い希望のようなものを抱いていたのだが、そんな事が起こる筈もない。
人間が死んでいくように、ケーキも当たり前のように腐っていく。
作った当初は綺麗であったはずの姉の好物たちも、腐敗が進んだ所為で見る影もない。
「……」
自分が食べるという発想は湧いて出たけれども、姉が死んでから食欲は湧かなかった。
ついでに、明日も生きていこうという気概が湧いて出てこなかった。
姉に食べてもらう為だけに用意した料理が無駄になってしまって、このままじゃ姉に食べ物は大切にしなさいと怒られてしまいそうで。
「……怒られるよなぁ、怒られたいなぁ、もう怒られないんだなぁ……」
だけど、厳しくも優しかった姉に怒られる事は二度とない。
そんな当たり前の事を思うと、目元がどうしようもないほどに熱くなっていく。
口から勝手に乾いた笑みが溢れ出て、次第にその笑みが嗚咽にへと変わっていく。
あぁ、なんて情けない。
いくら僕がこうしても姉が生きて帰ってくる筈がないって厭になるほどに自覚しているのに、僕は心のどこかで大好きな姉が帰ってくると信じているんだ。
死んだ人間が蘇る筈がないという事を、僕は両親を通じて知っている癖にだ。
「……もしも、あの日」
姉が交通事故に遭っていなくて。
僕は姉が帰ってくる瞬間を玄関先で今か今かと待って、姉が家の扉を開けた瞬間に大量に買っておいたクラッカーを鳴らせていたら。
唯一無二の家族と一緒に食事できていたら。
姉の誕生日を祝えていたら。
――そんな、絶対に起こりもしないであろう『もしも』を夢見た瞬間だった。
がちゃり、と。
鍵を持っていない人間でしか開けない筈であろう音が、玄関先から聞こえてきた。
「……和奏姉さん……⁉」
反射的に姉の名前を口にして、僕は自分を殴ってやりたい衝動に駆られた。
普通に考えて、死んだ人が蘇る筈がない。
蘇る筈がないからこそ、僕は失意のどん底に陥ってしまう程に落ち込んでいた。
だけど、だとしたら先ほどの物音の正体は一体何だと言うのか?
「……不審者……?」
そんな可能性を口にした瞬間、とんでもないほどの寒気に襲われた。
もしかしたら、これは死んだ人間の名前を葬儀場で確認して、死んだ人間の情報を集めるだけ集めて、死んだ人間の住居に忍び込むという一種の火事場泥棒というヤツなのではないのか……?
そんな起こって欲しくない『もしも』を想像した瞬間、扉が開かれる音が響きまわる。
「ひっ……⁉」
当たり前の話になるけれど、この現代社会において扉が勝手に開かれるだなんていう怪奇現象は起こらないし、僕が利用しているマンションの扉は自動で開け閉めされるようにも出来ていない。
だから、誰かがこのマンションの一室に無断で侵入してきたことは今の一連の動作で明らかになってしまったのだ。
「ど、どうすれば……⁉」
そんな恐怖の感情を一方的に叩きつけられてきた僕は頭の中が真っ白になっていたのだが、玄関の扉が閉められる音を聞いた事で皮肉にも我を取り戻した。
僕は若干戸惑いながらも、腐った食材が乗っているまな板の近くで放り捨てられていた包丁をお守りのように胸の中で抱えて、自分の存在を不審者に感知されないように息を殺して、部屋の隅に隠れる。
いくら人を傷つけられる包丁を持っていたとしても、それを人に向けるのは当然怖いし、人を傷つけようとして人に傷つけられるのも当然嫌だ。
だから、僕は何も起こってほしくないと願うしかなかった。
だけど、僕の願いに反して、リビングの扉が開かれた。
「――胃が、痛い」
僕がいるリビングの扉が開け放たれるのと同時に、そんな言葉が聞こえてきた。
聞いていても分かるぐらい本当に胃が痛そうな声で、聞いているこちら側も胃が痛くなってしまいそうな声色だった。
だけど、僕には聞いたことがない人の声だったものだから、その声の所為で却って緊張感が増していく。
「何だこの有り様は。ゴミ屋敷か? ゴミ屋敷なのか? いや、あの口うるさい
何だかとても偉そうな、尊厳と気品を感じさせるような声だった。
だけど、本当に胃が痛そうな声を出すものだったから、聞いている僕までもが胃がキリキリと痛みだしそうになってくるな……と、気配と息を殺して包丁を握りしめている僕はそんな感想を浮かべてさえいた。
「――うぉえ」
「……?」
先ほどまで物凄い饒舌であった筈の声からいきなりそんな言葉にもならないような声……一種の悲鳴のようなものが聞こえてきて、僕の背筋が勝手に引き締まる。
何故だろうと考えるまでもなく、答えは勝手にやってきた。
「ぉうえええええええっ!」
「吐いたァ――⁉」
僕は反射的に包丁を投げ捨てて、近くにあったテイッシュペーパーを大量に取り出して、滝のように流れ出るゲロを放出しているのであろう人間の傍にまでやってきた。
男らしい口調で喋っていて、低い声だったから今まで断言できなかったけれど、僕の目の前でゲロを吐いているのは僕と同年代ぐらいの少女であった。
しかも、とんでもないレベルの美少女で、とんでもないレベルのゲロを吐き出していた。
女性の経験が疎い自分でも分かるぐらいに引き締まった体型はモデル顔負けという言葉が本当に相応しくて、そんな神々しいまでに均整の取れた美しい体から物凄く汚いゲロが飛び出ていた。
そして彼女は純粋な日本人でないからか、ついつい見惚れてしまう程の美しい金髪の持ち主で、一目見ただけでも彼女のロングストレートの髪はちゃんと毎日手入れをしているのが分かるレベルで輝いていたのだが、その美しい金髪に黄色いゲロが付着していた。
黒い喪服のようなコートと、色白な肌に、金色の髪の光に、冷たく輝く蒼い瞳。
それらが相まって、まるで異国の姫のような雰囲気を醸し出している彼女からゲロ特有の酸っぱい臭いをぷんぷんさせてきて、見ている僕に貰いゲロの誘惑をしてくる。
――端的に言えば。
彼女はゲロを吐いてさえいなければ、迷わずに一目惚れしてしまっていたのではないかと思うレベルの美人で。
彼女は、そんな汚い吐瀉物にまみれながらも、輝かしいほどに生きていた。
「あぁ君が、おおろろろろおろろ……失敬。あの
「汚いから無理して話さないでくださいっ! 吐瀉物が喉に詰まって窒息して死にますよ⁉」
「……おぇ……おぅ……おぇ……息……できな……死……死んじゃう……た……たす……けて……あ……和奏……わかな、が……さんずのかわで……てを……ふってる……」
「本当に喉に詰まって死にかけてるじゃありませんかこの人――ッ⁉」
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