第12話 作戦会議①

 放課後。

 さっそく衣織いおりたちは、風見涼かざみりょうを除くグループメンバーのスタンスが確認できたということで、事件を解決するための策を考えるフェーズに移っていた。


 那智なちは委員会に参加しなくてはいけないためその会合には出られなかった。


 昨日のように四つの机をくっつけ、由香ゆか唯花ゆいかは同じようにして座る。那智なちが欠席したために空いた場所には、けいが座る。


 そして、衣織いおりはというと……。

 彼女は、座らせられていた。


 唯花ゆいかは幼子がお人形さんを抱きかかえるかのようにして、衣織いおりにくっついている。


 そんな唯花ゆいかを見て、けいは少し呆れたようにして言った。


「……唯花ゆいかは随分衣織いおりを気に入ってるんだね」

「昼休みの衣織いおりん見て、かなりグッときちゃったらしいよー。今はもうメロメロだねー」

「まあ、唯花ゆいかって、衣織いおり系統の女の子大好きだからね」

「……あの、柏木かしわぎさんも外浦そとうら君も面白がってないで助けて欲しいんですがあうあう……」


 救難信号を送るが、見事にスルーされる衣織いおり

 唯花ゆいか衣織いおりが自身のもとから逃げださないよう、しっかりホールドしている。ぐっと力を込めて彼女の手から離れようとするが、圧倒的な体格差と運動能力ゆえに、衣織いおりは彼女から逃れることはできない。


唯花ゆいかもずっとあのまんまだし、とりあえず始めようか、作戦会議」


 唯花ゆいかから衣織いおりを開放することを放棄し、流れるように司会役を買って出るけい

「ええ……」と衣織いおりは落ち込んでいるが、「ごめんなさい」のポーズとして手を合わせてけいはちゃっかりした笑顔を浮かべる。優先して話を進めたいようだ。


「グループメンバーのスタンスとしては、今のところりょうを除いて『関係を元に戻したい』って表明している。

 りょうに関していえば、距離の近い俺が那智なちの話題を出すたびに返答を濁すから、今回の件についてはスタンスが確認できていない。

 だから俺が考えるに、りょうのスタンスについては、実際の行動に移しながら少しずつ探っていくしかないと思う」


 けいは、文節で区切りながら一人一人と視線を合わせていく。


「それでここで話し合うのは、その『実際の行動』について。

 りょうにストレスを与えない程度に接触して彼のスタンスを確認する方法と、関係を取り戻すためにするべきこと。

 この二つの側面に準じた、合理的な解決策を考えたい」


 言い終わった途端、「はいっ!」と元気よく手を挙げたのは由香ゆか

「どうぞ」と許可を受けて、由香ゆかは元気いっぱいに声を張った。


「ユカは、両方の側面を考慮して動くのは難しいと思うのでー、まずは前者——『りょうにストレスを与えない程度に接触する』を第一に考えてー、『休日バッタリ街中遭遇作戦』がいいと思いまーす」


 休日バッタリ街中遭遇作戦……。

 由香ゆかのネーミングセンスを残念に思ったのは、この場に座する全員である。

 それでも話の腰を折らずに聞き手に回れるのは、けいの人間性ゆえ。


「具体的にどういうプランなの?」

「えっとー、まずは男子メンツがりょうに休日に『遊びに行こうぜー』的な感じで事前に誘っておくの。その日時場所に合わせて、女子メンツがそこに突撃して『わーお、偶然! せっかくだし一緒に遊ぼうよ!』って会話の流れに持っていく。そこで接触する機会を作るの」

「……かなりのパワープレーだね。男子と女子の間に内通者を用意しておいて、ようはりょうを騙して呼び出すってことだね」


 由香ゆかの案を聞いて、けいは慎重に頷きながら吟味する。


「そうだね、一旦保留にしておこう。一番最初に出た案だけあって、今後の作戦会議の参考資料になるかもしれないし。

 だけど、『休日に遊びに連れ出す』だけだと、りょうに逃げられる可能性がある。由香ゆかの路線で考えるのであれば、もうちょっと『のある場所』にりょうを連れ出すべきだ」

「拘束力があるー……?」


 いまいちピンときていない由香ゆかに説明したのは、唯花ゆいか衣織いおりを抱きかかえながら、器用なものである。


「『拘束力』っていうのは、『逃げ出した際に彼にまとわりつく社会的リスク』とも言い換えられるわね。

 具体的にいえば、『授業中』とか。『授業中』には、教師から与えられる内申点と、あとは同じ教室で座学を受けている複数の生徒からどうしても意識してしまう世間体がある。

 教室から無断に出てしまえば、教師からは内申点がマイナスされ、クラスメイトからは不審な目で見られる。

 人間は恥をかきたくない生き物だから、その二つの要素だけでも『室内から逃げ出さないようにする』には充分すぎる『拘束力』になる」


 そうだね、と頷くけい

 由香ゆかも「ほほうー」と顎を擦っている。

 衣織いおりはいえば、「これが拘束力かあ……」と依然唯花ゆいかの腕から逃れようとしてジタバタを繰り返している。


 と、衣織いおりが何か思いついたようで。


「……来週の、とかって何か良い使い方できないかな」

「マラソン大会……」


 けいは、のその単語を口をついて繰り返す。

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