第8話 百合で責任が始まる
女の子と女の子の肌は、しっとりと馴染んで溶け込み、そうしているだけで心が落ち着いてきた。
自身の妹から「女」の匂いを感じ取ること。それは
けれど、スキンシップはそれ本来の意義を達成していて、心のうちで切ない思いを秘めている
結果。
「いい、
「……おねえちゃんに……かれしなんかいない……」
「そもそも男の子との接点がなんかないし」
「……そもそも……おとこのことの……せってんなんかない……」
「うん。でもね、その代わりにお姉ちゃん友達できたの」
「……おねえちゃん……ともだち……できた……」
ぽわぽわとなにか夢うつつな顔を赤くして、
「ちゃんと写真もあるよ。ほらこれ。見てみて、三人とも美人さんなの」
取り出したスマホでアルバムを開く。母親にも見えるよう堂々とダイニングテーブルの上に置く。
画面移されていたのは、夕陽差す昇降口で四人が並んでいる姿。放課後に
帰り道の途中でふと気づくと、メッセージアプリを開くと四人のグループチャットのトップ画像がその写真に変更されていた。
「あら、本当ね。四人とも可愛いわぁ」
「そうなの。みんなホント綺麗で……って、四人とも?」
柔らかく微笑む母親と、ちょっと驚いたような表情の
「……そんなことないよ、私なんて」と自虐が始まろうとしたが、それを優しく制したのはやはり母親だった。
「
「……目に映るところって?」
「可愛い顔とか、いつも自信なさそうにしてる表情とか、根暗そうな態度とか」
遺伝の仕方、色々と失敗してませんか。
けれど母親は。
「別に悪いところだとは思ってないのよ、ママは。パパは確かに、学生時代から超超超根暗だったし、話しかけてもぼそぼそ返してくるから全然声聞こえないし……。
でも、相手がなかなか見えないならこっちから近づいて目を凝らせばいいし、声が聞こえないなら耳を澄ませればいいの。それだけよ。
……だけど、パパに近づくのに苦労したママにも不満がないわけじゃないの」
「不満……?」
「パパに、あなたに近づきたい人間だっているのよ。
だから、誰かと関わることに慣れてないからって、誰から近づかれることに慣れてないからって、その人から隠れようとしたり逃げようとしたりはしないで。絶対に。
「喋れない」と言われた瞬間、なにかがグサッと刺さる
「ぎゅぷォッ……」と人間言語とは思えない音を発して、テーブルに突っ伏す。
母親は、最後ちょっと下がり眉毛でこんなことを言った。
「……だから、
本気で近づきたい人間っていうのは、ママみたいにどこかには絶対いて、だからその人の好意にはきちんと向き合ってあげてほしいの。それは、友達においてもね。
……それが、ママが昔パパに抱いてた不満かな」
今はもうラブラブよぉ、と本当に嬉しそうに微笑む母親。
それはいつも通りの無敵すぎる笑顔だった。
……一方、そんな話をしていた間もずっと
ずっとずっと、姉の横顔を呆けたように涎を垂らしながら見つめていた。
「……おねえちゃんに……かれしなんかいない……かれしなんか……いない……いない……いらない……要らない……チユリがいる……チユリが要る……」
* * * * *
それから
残しておいたタスクから、画面を開くと「新しい友達」欄に三人の名前。
「新しいグループ」の欄には、一つのコミュニティ。
そこに入ってるのは、
名前の並びに、違和感しかない。陽キャ三人組と、地味で目立たない生徒A。
けれど不思議な縁もあるものだ。きっかけさえあえば、人はこんなにも変わることができるのだなと、眠気でぼんやりとしだした思考のなかでよぎる。
学内から注目を浴びる正統派美少女——
女子からの人気も高いクール系美女——
学年のマスコットとして支持を受ける小動物——
あんなにも遠くて住む世界が違うと思っていた人間が、今となっては、こんなに近い場所にいる。
友達。
友達。
頭のなかで、その言葉を繰り返してみる。……急に気恥ずかしくなって、笑ってしまう。友達。
「友達」と呼べる人間ができたのは、何年ぶりだろうか。
――ピロリン。
ふと、枕元に投げ出したスマホが鳴った。
なんの通知だろう?
電源をつけると、液晶が放つ光が思いのほか眩しくて目を閉じかける。
メッセージアプリのポップアップには「新しいグループに招待されました」とある。
タップして進むと、そこには――
「(グループ名):ゆのどーりむ14」とあり、思わず
「……なにこのグループ」
流れるように、メンバーを確認して――
「
何度を目を擦ってみても、それは現実の出来事だった。
「えええええええええええ――――っ!?」
誘われたのは、陽キャグループ(男子メンバーも含む)だった。
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