第4話 陽キャ集団って案外ヤバい奴ら?
「こっち」
そう言って
窓際の最後尾が彼女の席であることを、
加えて、その前方の席が
机の上には六時限目の授業を受ける準備がすでにされていた。
古典の教科書、ノート、資料集、参考書——それら全てに「
「それじゃあ、単刀直入に聞くね。……
だが、このときばかりは緊張感を抱いていなかった。
それは、
……やっぱり、あのことを、
このときの彼女は、
聞き出したあのこととは、
……全て話してしまおう。
それは、冷静な判断といえた。
だが、ここで新たな問題が発生してしまう。
自分がどれくらいの情報を掴んでしまっていて、しかし外部に漏らすつもりは全くないことを綺麗に説明する。
これは、会話ベタな
人間、感情に任せればいくらでも言葉は口から出るものだが、相手に理解させようと文章を組み立てることはなかなかに難しいことだ。
階段の踊り場でのやりとりは、感情に言葉を紡がせた結果偶然成功したコミュニケーションだと
もちろん、
だが、それ以上に、
たらーっ、と首筋を伝う汗。脇の下がじっとりと濡れ、そのまま二の腕を伝って流れていく。……気持ち悪い汗だな、と
会話のなかに下りる沈黙。このとき、
その沈黙に、
……頷くだけじゃ、ダメだったかな。
……会話のうちで相手を困らせるのは、これで何度だろう。
……気まずい空気をつくっているのは、私のせい。
自虐が連なる。頭のなかで、意識のうちで。
自身を痛めつける言葉がいくも浮かんでは留まり、何度も何度も身を突き刺す。
痛くて、辛くて、そして、こんなにも脆い自分が嫌いだ。
会話ひとつが、こんなにも困難で。
すごく息苦しくて。
だからこの場から逃げ出したいと思ってしまう。
けれど逃げ出す勇気なんてなかった。
授業合間の休み時間がこんなにも長く感じたのは、初めてだ。
ちらりと時計に視線を向けると、時刻はとっくに授業時間に突入していた。
教科担当の教師は来ていない。流した視線の先に、黒板に貼られた一枚の紙あった。「急用により、授業時間前半を自習とする」との旨が綴られた紙。
授業が始まればこんな気まずい空間に長居することはなかった。
運命すら
……
……
……
と、
「——もう、
ぎゅううう……と後ろから抱きついてきた少女がいた。
色素の薄いショートヘアに、人形みたいな綺麗な顔立ち。身長は
背中に押しつけられる柔らかな感触。身体は小さいが発育はかなり良いことに気づかされる。彼女は後方から羽交い締めにするような体勢で右肩に口元を埋めていた。
「——っ!?」
無理やり自虐の世界から解き放たれた
ばっと振り返ると、いたずらっぽい笑顔がそこにはあって、けれど
名前は知っている。彼女も
「えっと……」
とりあえず抱きつきを解こうするが、
背中側からくっつかれると、抱きつかれた側は色々と動きづらい。ぐぐぐっ……とどうにか顔同士が向き合う姿勢に矯正し、引き剥がすために
すると。
「えへへ……」
頭を撫でられると勘違いしたのだろう。
……なにこの子。めっちゃかわいい。欲しい。
魅せられた
たっぷり三十秒ほど撫で続けてから、ようやく理性を取り戻す。……取り戻した、とはいっても完全にとけきった理性ではあるが。
「かかか
「嫌。だって、
「いい
「そう。あれ、もしかして
——ゆざきん。
……ああ、懐かしいな。小学校の頃はよく男子から「やーい、ゆざ菌ー」とかいわれてたっけな。はははっ……。
またしても、仄暗い過去の引き金をひいてしまう
「ハン」に引き続き「ゆざ菌」を思い出してしまって、また自虐世界へバットトリップ。今ならどこへでも飛んで行けそう(悪い意味で)な
「あれ、
「あ、いえ、小学時代の黒歴史を思い出してしまいまして……」
「黒歴史? 未来が明るければそれでいいじゃん?」
え、なにこの子。すっごいプラス思考。好き。
付き合ってください。そしてそのまま私の仄暗い未来を照らし続けてくださいお願いしますほんとに。
目にハートマークを浮かべて呆ける
そこでふと、背中側から凍てつくような冷たい視線を感じた。
なんだろう、と
びくりっ、と身体が勝手に震える。本能的恐怖だと、
そんな彼女に、
「
マジもんの目である。
対して、
「ぶー。
違いますくっつきたいんじゃなくて付き合ってほしいですマジで。
「
スッ——……と気まずい息を吸って再度振り返れば、般若の形相。……あの、その「
が、今だ
「みんな席着いてー。古典の
教室前方の出入口から入ってきたのは、担任教師である
と、偶然かはたまた必然か、二人の目が合った。
それはきっと、生徒と教師の間でのじゃれつきみたいな行為だと推定されるが、このときの
あっ。
好き。
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