斯くて陽は昇る
かささぎかづる
序 夜明け前の少年少女は
1
雨になるのは珍しい。
一ヶ月に二日も降れば良いほうだ。それだって朝から晩まで降り続くわけではなく、数時間だけ、さぁっと地面を濡らした程度で去っていく。
どうせ晴れると決まっているのに、わざわざ
その日一日の天気を予想する業務〈
薄っぺらな身体を
学院寮の、狭い一室が広がっている。机と
隅にある水瓶は、昨晩の内になみなみと満たしてあった。
顔を洗うべく近付けば、仄暗い水面に見慣れた姿が映り込む。
今年十三になったばかりの、痩せぎすの少年。深窓の姫君より生白いと
──
身支度を手早く済ませて、果朶はそそくさと部屋を出た。静まり返った廊下を抜けて、外階段へと繋がる扉を開ける。
爽やかな風が頬を撫でた。
若草の香りがした。今は四月だ。まだ幼くてやわい芽が、寮の隣にある耕作地にふつふつと顔を覗かせ、控えめに息をしている。いずれ来たる盛夏に向けて、期待で胸を膨らませている命たち。
「急がないと」
呟いて、果朶は外階段を駆け上がる。夜明けが近い。太陽が天涯山から姿を現し、その輝きを大地へと投げかければ、
屋上に辿り着く頃には息が上がって、膝ががくがく笑っていた。
授業のための果樹林や薬草畑が設置された屋上は、さながら小さな森だった。最も端には、転落防止の鉄柵がぐるりと巡らされている。
鉄柵に歩み寄り、果朶はすっと目を細めた。
見つめる世界を〈
けれどもそれは失敗に終わってしまう。
「あにさま!」
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