これも一種の姫プレイ

「姫、次はこちらです」


「足元気を付けてね、姫様!」


「姫、お手をどうぞ」


「っ~~~~!」



 口々に『姫』と呼ばれて真っ赤になってるミツキを見て、私……セーラは思わず頬を緩ませる。


 何でこんなことになっているのかというと……昆虫が苦手なミツキがセンコウの陰に隠れたままやり過ごし、トドメだけ行う流れを、センコウが『姫プレイみたいだな』と言ったことだ。


 『姫って何?』とよく分かってなさそうなミツキだったけど、センコウに説明されて、確かに今の彼女の状況だと納得したようだ。



 そんなとき、ルリアがミツキのことを『姫』と呼んだのが始まりだった。


 さすがにそう呼ばれるのは恥ずかしかったのか、『やめてよ~~』とはにかむ彼女だったけど、センコウに『姫』と呼ばれた瞬間、フリーズ。


 みるみる顔が真っ赤になり、目も合わせられないほど挙動不審になってたのが印象的だったなぁ……というか、バレバレだった。



 いつも通りに呼んで欲しいと言うミツキだったけど、センコウに『なら、早く自分で戦えるようにならないとな?』と言われ、反論できず。


 そのままなし崩し的にミツキを『姫』として接待しながら攻略する流れができたのだった。



 ……まぁセンコウに『姫』扱いされるのはミツキも満更でもなさそうだったから、楽しく攻略できたようだ。



 それにしても……ミツキはこれでまだセンコウと付き合っていないつもりなのだろうか。学校にいるときに聞いても否定するけど……。


 まだ自分の気持ちをはっきり言葉にできないのだろうか。

 それなら、色々と協力してあげないとね!



        ♢♢♢♢



「キュルルルルルッ!」


「【タクティカル・パリィ】!」



 キィンッ! と澄んだ音を立て、ブルーム・マンティスの鎌が弾かれる。以前戦った『メアディス』と比べれば、何も怖くない。



「ナイスお兄ちゃん! 【シークエンス・エッジ】!」



 俺が攻撃を弾いた隙を突き、間合いを詰めたルリアがダガーによる連撃を叩き込む。連続するヒット音とダメージエフェクトが弾け、ブルーム・マンティスはみるみるHPを減らしていく。



「キュルルルッ!」


「っと」


「ルリアちゃん! 【パワー・レイド】!」


「おおっ、ミツキちゃんもナイス!」



 ダガーの連撃を受けながらも動き出したブルーム・マンティスだったが、ミツキのスキルを受けてよろけ、攻撃は不発に終わる。その間にルリアは脱出できたようだ。



「ミツキちゃん、もう一回隙を作るから最後一撃お願い!」


「分かった! 【武具解放】! そして……」



 身体の横に佩いたミツキの剣に、エフェクトが纏わりつく。範囲攻撃スキルをチャージしているようで、少しずつその光が強くなっているようだ。



「【エンチャント・ストレングス】! そんで……【フィアーズロア】ァッ!」



 セーラの遠吠えが【迷いの深緑】を駆け抜ける。

 狼人族の種族スキル【フィアーズロア】は、遠吠えによって相手を威圧するスキルだ。


 自分よりも強い相手には効きにくいが、弱い相手には効果抜群。

 セーラの遠吠えを受けたブルーム・マンティスは、本能的な恐怖で身体を硬直させ、動けなくなっていた。


 そして———



「【ウェーブスラッシュ】!」



 ミツキが横薙ぎに振り抜いた剣から衝撃波が放たれ、硬直しているブルーム・マンティスを飲み込む。激しいダメージエフェクトを溢れさせ、次第にポリゴンとなって消えていった。



 攻略を開始してから2時間ほど攻略を続けた俺達は、計10体の『ブルーム・マンティス』の討伐に成功していた。


 ミツキの訓練のためでもあったから時間がかかった方だけど、セーラとルリアはさすがだ。


 多少の疲れはあっただろうけど、2時間たってもパフォーマンスは落ちずに余裕の強さだった。


 お陰でミツキもそれなりに慣れてきたようで、今のように十分に戦えるぐらいにまでなっていた。



「ふぅ……これで10体か、キリも良いしこの辺で終わるか?」


「そだね……ちょっと疲れちゃった」


「ミツキちゃんも少しずつだけど動けるようになってきたしね?」


「……苦手だけどやるしかないもん……」


「じゃないとずっと『姫』って呼ばれるもんね?」


本当ホントに恥ずかしいからやめて……」



 顔を赤くして目を伏せるミツキの様子を見ると、さすがに恥ずかしかったようだ。まぁ2時間もそう呼ばれてたらそうなるか。



「……センコウにお姫様扱いされる時間が終わっちゃって残念だね」


「───そっ、そそそそんなこと思ってないからっ!」


「なんだ、ミツキも何だかんだ言いながら楽しかったのか?」


「そんなことないもん! センコウも変なこと言わないで!」


「俺は結構楽しかったけどな? あっ、ミツキをからかうのがじゃなくて、ミツキに世話を焼くのがね」


「と言うと?」


「……からかってる自覚あったんだ……」


「現実だと車イスだし、普段はミツキに世話になりっぱなしだからな。立場が逆になると、意外と楽しいもんだなって」



 現実では、燈瑠あかるの手を借りないとベッドに登るのも大変なぐらいなのだ。


 ゲームの中ぐらいじゃないと、それを返せないからな。



「あ、そうそうセンコウ、私たちの装備を作ってくれるって言ってたけど、その分の素材足りそう?」


「うーん……欲を言うのであればもう少し欲しいかもしれないけど……まぁメインの方で余ってる素材も足すつもりだし、十分だと思うな」


「そっか、それならいいけど、足りなかったらいつでも呼んでくれていいわよ?」


「私も手伝うよ! 私たちの装備を作ってもらうのに、素材集めもしないなんてわけにはいかないしね!」


「なら、また必要になったら声を掛けるよ」


「うん、待ってるね!」



 とりあえず、今日のところはセーラとルリアは解散。

 俺とミツキは……ミツキも気疲れしてそうだから、一旦終わることにするかな。

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