ひれ伏せ、これが『最強』たる由縁だ

「アニキ! し、侵入者です!」


「あ? こんな場所にまで来るのはどうせプレイヤーだろ、んなもんさっさとPKして身ぐるみ剥がしちまえ」


「そ、それが……」


「んだようぜぇな。ちゃんと喋りやがれ」


「別にいいわよ、喋らなくて」


「ひぃっ!」



不意に自身の背後から聞こえた声に、下っ端の男は肩を跳ねさせる。

現れたのは、ここがPKer達が拠点としている場所と考えると、あまりにも場違いな麗人。


純白の狐耳と九本の尻尾を揺らし、艶やかな着物を纒うその姿は———



「イザ……ヨイ……?」



当然、だ。

これでもプレイヤーとしては最古参だし、PKerクランの本拠地ぐらいなら知ってる。


のプレイに支障が無い限りは無視するつもりだったけど……こいつらは一線を越えてしまった。

それも、最悪な形でな。


だから潰す。

二度と立ち上がれないように、完膚なきまでに。



「本物か……?」


「…………」


「無視かよ。で、噂の裏ボス様が何の用だ? PKerが許せないってか? いつから正義に目覚めたんだ?」


「……自分の胸に聞いてみたら?」


「はっ! 報復が怖くてPK稼業やってられっかよ! 良心の呵責なんて何もねぇよ!」


「そう……ならもう諦めなさい」


「状況が分かってるのか? ここは俺らの本拠地で、お前は一人だ」



リーダーと思われる男が指を鳴らすと、ぞろぞろと現れるPKer達。


合計10人ほどになった彼らは、私から5mほどの距離を取り、を囲むように弓や杖を構えてこちらに向けている。



「あんたがどれ程強いかは知らんが、この人数に囲まれて何ができるんだ?」


「……あなた達こそ、状況が分かってるのかしら」


「何……?」


「そこ、私の間合い・・・・・よ」



刹那───の渾身の居合いが彼らを横一文字に斬り裂いた。


のメイン武器である大太刀『艷桜白長濤あでばなしらうねり』は、刀身255cm、柄84cmという特大の太刀だ。の膂力なら自在に扱えるが、普通なら持ち上がらないほどの重量である。



しかし、そのリーチは凄まじい。

が一歩大きく踏み出せば、太刀のリーチと合わせて5mの距離なんて無いようなものだ。


そんな太刀を、インベントリから取り出すと同時に振り抜く、『インベントリ抜刀術』で繰り出した。


初撃で残ったのはたった1人、リーダーの男のみ。

それ以外のプレイヤーは全て、太刀が纏う『即死効果』により、首に着けられていたタグや装備などを残して消えていった。


は表情を変えるでもなく、『艷桜白長濤』を鞘に納める。



「……は?」


「初見で避けるなんて、なかなかやるじゃない」


「一発で9人かよ、割に合わねぇぜくそったれ……」



には『裏ボス』という他のプレイヤーにつけられた渾名の他に、ゲームから称号として与えられた二つ名がある。


それは、『とこしえの魔王』。


獣人ワービースト系種族の極致、『稲荷空狐いなりくうこ』。

悠久を生きる神獣こそ、今の『イザヨイ』の種族だ。


ただ、この称号の所以はそれだけではない。

巫女みこ系隠し最上位ユニークジョブ、『伊弉弥いざなみ』。



『死』と向かい合ったかの女神は、ただそこに居るだけで死を祈る。


ニ柱の神の名を継いだは、今やNPCにも祀られるほどの存在となったのだ。

万が一にも、お前らに勝ち目などあるものか。



「そんな『裏ボス』の太刀を避けたんだもの、誇っていいわよ」


「うるせぇ。何なんだよその強さ……理不尽すぎるだろ……」



悪態をつきながらも、剣を構えるその男の姿はやけに堂に入っている。やはり、彼はPvPにかなり慣れているようだ。


そんな姿を見て、敵討ちではなく、単純にPvPを楽しんでみたいと思ってしまったのは、やはりゲーマーの性なのだろうか。



「あなたはそんなの逆鱗に触れたのよ。覚悟は良いかしら?」



少しだけ付き合ってもらおう……先手はだ。

鞘に納めた『艷桜白長濤』を腰に佩き、柄に手を添えて範囲攻撃スキル【月白波つきしらなみ】をチャージ。


刀身から斬撃を放って攻撃する範囲攻撃スキルは、本来のリーチよりも広い範囲を攻撃できるからこそ『範囲攻撃スキル』なのだ。


この時、相手が取り得る行動は3択。

範囲外に逃げるか。

ガードするか。

発動前に潰すか。


しかし、もし『艷桜白長濤』で発動しようものなら、逃げ場の無い超広範囲なってしまう。

もちろんそれは相手も分かっているわけで、『範囲外に逃げる』は現実的ではない。



ならば『ガード』はどうか……先ほど一撃で9人を撃破したばかりだ。

その火力と『即死効果』をガードしきれるかと言われると疑問が残る。



だからこそ取り得る行動は、『発動前に潰す』となるのだ。



予想通り、剣を構えて間合いを詰めてきた相手を見て【月白波】をキャンセル。カウンタースキル【鳴雷なるかみ】のモーションを見せる。


そのまま斬りかかれば、手痛い反撃が待っている。さて、どうする?



「ふんっ」



相手の返し手は、足を止めて範囲攻撃スキルの【ウェーブスラッシュ】をチャージ。


カウンタースキルは範囲攻撃の衝撃波には無力だ。

なるほど、正解。


けど、チャージしてる暇があるかしら。

そこはの間合いよ。


鳴雷なるかみ】もキャンセルし、抜刀。

尻尾に鞘をくくりつけているのは、手だけで抜刀が難しいため。本来の『稲荷空狐』は尻尾を持たないが、わざと尻尾を出しているのもそのためである。


自慢の尻尾も使って255cmの刀身を一気に抜き放ったは、相手へと斬りかかる。



対する相手の対応は───



「ふはっ、てめぇの攻撃で自滅しやがれ!」



───カウンタースキル【ラディエルカウンター】。

【ウェーブスラッシュ】のチャージは一瞬だけでキャンセルし、の居合い読みでカウンターを仕掛けていたようだ。


わりと防御を捨てているが自身の攻撃を受けたら、確かに一撃で死ぬだろう。

ここまでは・・・・・読めていたようね、お見事。


なら次は・・どうかしら?



「はっ?」



居合い斬りを空振り・・・した私を見て、相手は間抜けな声をあげる。


当然、あの瞬間にカウンターを仕掛けてくることは分かっていた。と言うか、使うならあの瞬間しかなかった。分かっていれば対応も簡単だ。



居合い斬りを振り抜き、刃を返した私は、再び【月白波】をチャージする。


これで最初の手筋に戻ったわけだけど……決定的に異なる部分が一つ。相手はカウンタースキルの不発で硬直に襲われているのだ。


の空振りはスキルでも何でもないため、硬直はない。

硬直はほんの一瞬とはいえ、どう足掻いてもの後手を踏むしかなくなる。つまり、相手は避けることも発動前に潰すこともできず、のスキルを受けるしかないのだ。



そうこうしている間に、チャージはどんどん進む。


『発動前に潰す』と『範囲外へ逃げる』は不可能。一撃死の可能性があるが、一か八かの『ガードする』しか選択肢が無い相手は、歯を食い縛り覚悟を決め───



「なっ!?」



───【月白波】すらキャンセルして飛び込んできたに目を見開く。せっかくチャージした【月白波】を捨てるとは思わなかったのだろう。


しかし、そんな相手は、自身の身体を貫くダメージとダウン判定・・・・・に全てを察したようだ。


がチャージを捨ててまで発動したスキルは【虚空瞬雷こくうしゅんらい】。

ガード貫通効果を持ち、クリティカルで相手を数秒間ダウンさせる追加効果を持つ。


一瞬しかない硬直を狙うより、ガードしかできない状況に陥れ、その瞬間を貫通攻撃で狩って数秒間のダウンを取った方が確実に仕留められるのだ。


ここまで全ての掌の上だ。



刹那よりさらに早い神速の刺突が相手を貫き、その身体は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。続くの攻撃を、避けられるはずもない。



「さようなら」



次の瞬間、膝から崩れ落ちた相手を、私の大上段が切り裂いた。



        ♢♢♢♢



初心者たちが集う【ハイドリナ】。すでに日付が変わる時間だというのにプレイ人口は減らず、むしろ賑やかさを増しているほどだ。


そんな初心者の街に、ざわめきが広がった。



彼らの視線の中心にいるのは、もちろんだ。

種族も職業ジョブも、纏う防具やアクセサリなども、全てが超上級者のそれである。

初心者の集まりにそんな異物が混ざりこんだら、当然浮くだろう。



中にはが『裏ボス』であることを知っているプレイヤーも居るようで、ひそひそと聞こえてくる気がする。


そんな周囲の様子を無視し、とりあえず衛兵団の詰所へと足を運ぶ。

衛兵団はNPCが運営する街の秩序を守るために機関であり、街を守るためになかなかの実力者が集まっている。


中には衛兵団に入るプレイヤーも居るらしく、隠し職業ジョブを習得できることが分かっている。



街中でPKをしようものならすぐに衛兵が飛んできて捕まるだろう。

だからPKerは人里離れたところにいて、見つけるのが面倒なんだよね……。



がそこを訪れると、狙ったかのように衛兵団のNPCが現れた。

精悍な好青年の彼は、実はトップランカーともタメを張れるほどの実力者だ。



「これはこれは、『とこしえの魔王』様。どうしてこんなところへ?」


「……これ」


「これはっ……!?」



ジャラジャラと音を立ててインベントリから溢れ落ちたのは、PKerの首に取り付けられていたタグであった。


『タグ付き』がキルされた場合、装備していた武器や防具などを落とすと同時に、取り付けられていたタグもその場に残る。


他のプレイヤーは、そのタグを近くの衛兵団に届けることで、タグの色に応じた報酬を受け取ることができる。



それだけなら見慣れた光景であるが、衛兵団の彼が驚いたのはが持ち込んだ数だ。

軽く積み上がるほど積み上がったそれは、実に50個強。


つまり———



「目障りだったPKerクランを殲滅してきたわ」



———こういうことだ。


夜更かししての連戦だから少し辛かったが、『イザヨイ』にかかれば50人抜きなど造作もない。


トップランカー級の実力を持つNPCすらも絶句させたは、しばらくの待機の後、衛兵のNPCから報酬を受け取った。



「『とこしえの魔王』様、やはり衛兵団に入りませんか? 今ならあなたの望むポストを用意しますが」



衛兵のその申し出を受ければ、間違いなく隠しクエストが発生し、隠し職業ジョブも手に入れることができるだろう。


しかし、



「ごめんね、私はそういうのに興味ないから」


「……ですよね。すみません、そう言うと分かっていて聞きました」


「ところで、一つお願いしても良いかしら?」


「はい、何でしょう?」


「ある二人の冒険者に、渡して欲しいものがあるの───」



─────────────────────あとがき


すみません、初期段階での構想はここまでしかできていません。需要があれば続きを書きますので、よろしくお願いします(_ _)

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