第18話
響「____これが、あなたが事件を起こした動機ですか」
そう言ったところで、正直どうしようも無かったとは思う。既に四人死んでいた。もし私がこのコテージに来てなければ、きっと、最後のターゲットまで殺していた。
慶太郎「あぁそうだよ、なんとも酷い話だと思わないかい、探偵さん?」
日辻さんの目はすっかり冷酷な殺人鬼のものになっていた。
響「確かに、酷い話ですね」
私はそのことに同意したうえで、「それはそれとして、あなたと共犯者の早乙女さん、なんだか似ていますね。やっぱり親子だからでしょうか」と言った。
彼は「あんなやつと一緒にするな!僕とあの女のどこが同じだってんだ!」と強く反論した。自分の親を裏切り、殺すきっかけを作った相手と同じだとか言われたら怒るのも無理はないだろう。しかし、私には似ているように見えてしまったのだ。
響「どこが、ねぇ…」
少し考えてから、「無駄に話が長いところですかね。わざわざ事件に至るまでの経緯説明してくれましたし」と言った。
慶太郎「フッ、最悪だなぁ」
彼はそう言った。その姿はさっきまで明らかな殺意がこもった目をしていた人物とは思えないほどに透き通っていた。透き通っていたというより、何もなくなったような、そんな印象を受けた。
慶太郎「犯人だってことは暴かれるし、計画も最後まで達成できないし、心から憎んでいたやつに似ているなんて言われるし。本当に最悪だ」
彼は諦めたような口調で言った。
そして、クローゼットからポリタンクを取り出した。嫌な予感を感じた。
響「日辻さん、一体何をしようとしてるんですか?」
不安になって聞いてみた。それに対して、彼はこのように答えた。
慶太郎「今から死のうと思います。どうせ全員殺したら自殺するつもりでしたし。あの計画が破綻した時点で、もうどうしようもなかったんですよ。結局あの女は生きることを選んだんだ。裏切ったんだ。だったら、無理しないでさっさと死んだ方がマシだ」
響「そんなの…」
私はそのことを止めようとして、必死に説得しようとした。
響「そんなの、あなたの勝手な思い込みだ。早乙女さんは、心のどこかであなたのお父さんが死んだことを後悔していた。だから、子供のあなただけでも幸せにしたくて、罪を少しでも軽くしようとしたんじゃないのか!」
慶太郎「そんなわけないだろ!」
彼も言い返してきた。
慶太郎「あの女が本当に後悔していたなら、お父さんが死んだ時点で自首でもすれば良かった。なのに、あいつはしなかった。大切なのは自分自身だけなんだ。今回だって、自分が死ぬって分かっていたから、探偵のあんたに事件のことを話して、解決させようとした。これから先、まだまだ生きていたいんだ!」
こんなことを言い合ったところで、意味はまるでない。所詮は机上の空論だ。それに、彼の中では意志が固まっていたようだ。だから、こんな説得には何の意味も無かったのだ。
慶太郎「もういいや」
そう言って、日辻さんはポリタンクの中身をこぼした。匂いでわかった。灯油だ。どうなるかもわかった。だから、「やめろ!日辻さん!」と、それまでよりも強く止めた。
その説得も意味はなかった。
慶太郎「探偵さん、もういいんだ。さっさと諦める方が、僕にはいいんだ」
そう言って、彼は灯油に向かって、鞄から取り出したライターを、火をつけてから落とした。
そして、彼は「探偵さん、さっさと出なよ。今からこのコテージは燃えるんだ。僕はここで死ぬ。でも、あんたはまだ生きていってほしい。だから、早くしな」
いけないことだとはわかっている。しかし、コテージから出ようと足を動かしていた。死にたくないのだ。それに、彼を助けようにも、彼は死ぬことを望んでいる。私が止めてもどうせ無駄なのだろう。そんな諦めが生じていた。
慶太郎「あ、そうだ」
彼から、こんなことを言われた。私が聞いた、彼の最後の言葉だ。
慶太郎「今からお前は五人殺した殺人鬼として、一生苦しんで生きていけ、早乙女 奈緒子」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます