第13話

全て聞いた私は、怒りを向けた。何に怒っていたのかはさっぱり分からなくなったが、穏やかな気持ちでいられなかった。


響「どうして今まで黙っていたんですか」


奈緒子「私も、今まで期待していたんです。あの事件は関係ない、偶然の出来事だって。でも違った。その証拠に、こうして利用されて、一人、また一人と殺された。虫がいい話ですが、私はこれで現実を突きつけられた気分です」


響「…そうですか」


私はそれ以上問い詰めることはしなかった。ただ聞きたくなかったのだ。被害者四人の悪辣ぶりがとにかく嫌になったし、自分も加害者でありながら被害者かのように話す早乙女さんに対して軽蔑する気持ちが溢れてしまった。


いずれにせよ、それまで疑わしいと思っていた人物が、今回の事件の犯人だと分かったため、それ以上聞かなくても良かった。あとはトリックさえ解明できれば犯人が言い逃れできない状態にできる。


その時点で疑わしいと思っていたことがいくつかあったため、それを整理していかねばならない。そのために、早乙女さんとは別れて、自分のコテージに戻った。


コテージに戻ったところで、私は一か八かの賭けに出た。結果は成功だ。まさかこれが現実になるとは想定してもいなかったが、目の前で起こったのだから気にしすぎるのも良くないだろう。


犯人のトリックを利用して、私はメインコテージへ向かった。一度、倉庫を詳しく調べたくなったのだ。向きが分からなかったせいで時間がかかったが、なんとか倉庫へたどり着くことができた。あまりにも暗すぎて、ライトがなかったら間違いなくどうしようもなくなっていた。


倉庫の中は、相変わらず気持ち悪いほどに整理されていた。よく考えると、トリックで欠かせない場所なのだから、整っていたところで問題はないのだが。


倉庫の中を調べると、色々面白い発見があった。てっきり備品で溢れているのかと思ったが、実際には遊び道具だったり、どこで使うのだろうかと思うようなものもあった。その中でも、私はあるものが気になった。その道具自体はまだあっても違和感はなかった。では、何がそんなに気になるのか。それは、犯人がうっかり漏らした発言と、その道具が明らかに関係していたからだ。


さらに詳しく調べると、ポリタンクがひとつなくなっていたことに気づいた。最初から用意されていなかっただけだろうと思う気持ちがあった反面、何か嫌な予感を感じ取った。他の道具がなくなっていないからこそ、ポリタンクがなくなっていたことがどうしようもなく違和感を抱かせたのだ。


もうひとつ気になった点があった。縄だ。私が把握してる限りでは、早乙女さんを縛る一回だけ使っていたため、一本を除いて動かされた形跡はないはずだった。しかし、実際にはもう一本多く動かされていた。そして、縄を使われた水田さん殺害のときと繋ぎ合わせると、ある仮説に行き着いた。


犯人がうっかりミスをしていなければ気づかなかっただろう。こちらとしては、犯人に言い逃れ出来ない方法を増やせるので、むしろ好都合だ。


そうして、倉庫を調べ終えた。詳しく調べたつもりだが、大量の情報を得たわけではない。むしろ、ひとつひとつの情報がとても重要なものだった。


そうして証拠を集めた私は、また一か八かの賭けに出ることにした。夜明けぐらい待つべきだという考えもあったが、その間にもし新たなる殺人が起きたらと考えるとゆっくりしている場合ではないと感じたからだ。


しかし、よくこのトリックに気づけたものだ。ただのバイトだったら分からずじまいで事件が終わっていただろう。ある意味探偵の力を発揮できたと言える。全く嬉しくないが。


私は、犯人の居場所に着いた。嬉しいことに簡単なイラストでどこにいるかがわかったため、確実に間違った場所にいないと自信を持つことができた。この時はそんなこと考えもしなかったが、犯人にそこまで計算されていたら間違いなくはめられたことになったので、実際は意外にギリギリの賭けだった。


そして、静かに、それでいて大胆に犯人の居場所へ乗り込んだ。そこにいた犯人はあまりにも仰天していた。そんな姿はよそに、私は話を始めた。


響「こんばんは。やっぱり本日の星は綺麗ですね。まるでこんな惨状を忘れられそうだ」


犯人「っ!?なんで、なんでこんなところに…!」


響「なんでこんなところにって?あなたと話がしたいんですよ」


犯人「話ってなんですか。まさか、今回の事件のことで?」


響「えぇ、今回の事件についてのことですよ」


犯人「だったら、他の人に話してもいいのでは?わざわざ僕に話さなくても…」


響「理由なんて大したものではなくてですね、ただ単純に、犯人があなただからですよ…」


いかにもな痛いヤツの発言で話を始めたくせに、このころにはすっかり事件解決の覚悟を決めていた。


響「あなたがこの事件、『星座山殺人事件』の犯人だ。侵略者…いや、





















日辻 慶太郎!!!」

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