腐れ大学生の異文化交流編
第16話 ヴィーナス異世界語教材キット
翌朝。
まだ暗いうちに目覚めてから、トイレへ立ち、また寝て、また起きて、珈琲飲んで、朝飯喰って、煙草を吸ってぼんやりして、三時間くらい時間を無駄にしたところでようやく、私は女神の助言通りに本棚を見た。
備え付けのスチール製の本棚には、私が大学生協でコツコツ買い溜めた文庫本のコレクションや、必修科目のため購入したはいいものの無用の長物と化した教科書や、論文のコピー束や、慰み物の猥褻文書などが雑多に詰め込まれている。
その中に、見慣れない背表紙がいくつかあることに気がついた。
取り出してみると、『ホモサピエンスでもわかる異世界語!』『万能異世界語フレーズ100選!』『異世界語基本単語2000』『ヴィーナス和異辞典第1版』などなど。
どうやら、女神お手製の異世界言語教材のようである。
「こんなものを作るくらいなら、私の脳内に言語知識を流し込んだほうが早いんじゃないのか」
と私は愚痴を垂れるが、全知全能の女神にとってみれば、それらに大した労力の差はないのだろう。だとすれば、より面白いと思う方向に舵を取るのは理屈として合っている。
自助努力によって異世界語を習得する流れが面白いかどうかは、甚だ疑問ではある。
「ひたすらに怠いな」
元々日本語以外の言語を得意とせず、第二外国語の期末考査をいつもギリギリでくぐり抜けてきた私には、言語習得という道のりはひどく険しいものであった。
気は乗らなかった。
しかし、日本という島国から一切出る気のなかった大学在籍中とは異なり、今はもう、異世界という地へ放り込まれた後なのだ。
この地の言語を習得することは、避けることのできない課題である。
私はしぶしぶといった調子で、適当な一冊を手に取った。
とりあえず、なぜ、昨日、私はあの角帽の少女を怒らせてしまったのか、それを調べることにした。
教科書や辞書を調べるうちに、なんとなく、私が投げかけた言葉の意味がわかった。
どうやらあの角帽の少女及び私は、お互いに、「よう兄ちゃん」と呼び合ってしまったらしい。
なるほど。
怒るワケだ。
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