はずれスキル「採掘師」をひいた俺は世界を見返す!

美澪久瑠

本編

スキルがだめだと人格否定!?

「ふわぁぁ…」

大きなあくびをして青年はベッドの上…細かく言うと下半身はベッドの上、上半身は床に投げ出されている。

「くっそ…寝起きドッキリとか期待してたのに…」

そう言い青年は起きる。身長は…ざっと164.3cm。20歳にしては大分小柄だ。


鏡の前で身支度をする。鏡に映った青年…『ショーテル』は水を顔にバシャバシャかける。その後また鏡を見る。

寝癖のせいでいつもボサボサな明るい茶色の髪の毛はもっとボサボサになって、普段はぱっちり開いている瞼はほとんど閉じている…本当に見えているのか心配になるほどに。まだ眠いのかエメラルドグリーンの瞳は少しくすんでいる。後々キレイな瞳をお目にかかれるだろう。多分。


パジャマから普段着に着替える。

Tシャツに黒いネクタイ。その上に小柄な体に似つかわしくない大きいフードの付いた黒いケープ。一見すれば魔法使いにも見えるこの姿。ショーテルの趣味ではなく、妹の…

「お兄ちゃん!!身支度終わった!?さっさと朝ごはん食べて!『スキル』を貰いに行くよ!!」

「うるさい。ってか男の部屋に勝手に入ってくんな!!」

「へいへい。じゃぁお兄ちゃん置いて『スキル』貰いに行くよ!?それでもいいんだったらもう一生お兄ちゃんの部屋には入らない!!」

「あー!ちょっとは黙ってろ!喋り続けないと死ぬ病気でもかかってんのか!?パルフェ!」

今ショーテルが言った名前、『パルフェ』彼女の趣味は…

「…あ!お兄ちゃん今日もケープ着てくれてる!ありがと!」

ナレーションの途中だろ。もう…。


パルフェの趣味は「兄の服を決めること」だ。

そして最近ハマっているものは「魔法使い」この世界では両手で数えられる程しか居ないらしい。その人達は全員「」のスキルを持っているらしい。

この2つが合わさって20歳にもなっているのに厨二病っぽい、魔女のような見た目をしているのだ。

『ありがと!』の言葉に少しドキッとしたショーテル。照れくさいのか顔を背けてパルフェの頭をぽん。と撫でる。

そう。2人は「シスコン」「ブラコン」…もっと簡単に言うと両思いなのだ。

撫でられて嬉しそうにしている。


パルフェはとても美しい姿をしている。

暗い茶髪は両サイドに編み込まれて後ろで結んでいる。

兄と同じくぱっちりと開いている瞼。エメラルドグリーンの瞳。

身長はざっと170cm。兄よりも身長が高い。

兄にとっては大分屈辱だろうが、そういうものだと言って割り切っている。

『双子なのに…』この言葉はショーテルの口癖だ。

それに対してパルフェは『双子だから!』

ポジティブな正確なのだろう。彼女らしい口癖だ。

似ていないようで似ている双子の兄妹。正直羨ましい…。


「…いただきます。」

「5分で食べてよね!」

「わかってるよ。」

ショーテルの前には豪華…というわけでもないが質素でもない。極めて平凡な料理が並んでいる。


正面はパンにマヨハムエッグ。焼き加減がとても絶妙だ。ふわふわなのにパリパリ。見ているだけでもお腹が空いてくる。左側にはキャベツのような葉野菜を使ったサラダ。味付けは塩ひとつまみ。質素だがこれがとてつもなく美味しい。右側にはピンク色の丸い果物が4個。どれもキレイに輝いている。通称『宝石の実』。

「ごちそうさまでした。」

あっという間に食べ終わったショーテル。顔を見ただけでわかる満足感。

私も食べたかったなぁ…おっと失礼。


「早く行くよ!お兄ちゃん!」

「さっきから気になっていたけど…」朝ごはんを思い出しながら言う。

「どこ行くんだっけ?」

「お兄ちゃん…流石に寝ぼけすぎでしょ…。」

パルフェはそう言うとゆっくりとショーテルの方を向く。

「王都の噴水公園の地下にいくよ。」

なにかを思い出したような顔をして兄は頷く。


噴水公園はその名の通り噴水がある広場のような役目を果たしている公園だ。

その噴水はとてつもなく大きく美しい。白を基調とした台。よく見ると複雑な模様が描かれている。

そこから吹き出している液体は時間によって色が変わるらしい。今の色は薄いピンク色だ。まるで今日食べた『宝石の実』のような…。


「あ!噴水の近く!地下へと続くはしご!やっと見つけたよ…!」

兄妹が噴水公園に来て早30分。

地下へと続くはしごが見つけられず兄妹汗だくで探していた。

赤い、不吉な葉が地下へと潜り込んでいった。

兄妹は何も言わず、緊張を帯びた顔ではしごを下る。

「よぉ。若いの。まずは20歳の証明書を見せてくれ。」

ふと体格のいいおじさんに声をかけられた。

監視官だ。


2人は何も言わずに顔写真を貼り付けた証明書を監視官に見せた。

「偽物じゃないな。よし。入れ。いいスキルを手に入れるといいな。」

人のいい監視官は兄妹の目の前にある重厚感のある門を開けた。

門を通ると足元に魔法陣がある。

複雑な線が絡み合ってできた魔法陣は紫色に光る。

「パルフェ。これを呼んでくれ。」

ショーテルの手には説明書のような紙がある。

実際にスキル召喚の説明書だ。

「ふむふむ…なるほど…。」

なにかを理解した妹は魔法陣の中央らしき空間に足を踏み入れる。

「我は女神『ライ』様の使いである。」

呪文を唱えだした瞬間。それに反応するように紫色から黄金色に輝いていった。

「我は一人前の神の使い。」

光はどんどん強くなる。

20歳はたちを超えた我たちに」

呼応するように光が強くなる。直視したら両目がなくなるほどに。

「今ここに祝福の光を授けたまえ!」

今までよりも強く、黄金色に輝いた。

優しい声がする。


「パルフェ。あなたには最高峰のスキルと言われる『勇者』を授けましょう。」

パルフェの目が見開いていく。

魔法陣の光が紫色に淡く光る。噴水の色が黄金色になった。一瞬だけ。


ショーテルは立ちすくんだままだった。

「…お兄ちゃん。次はお兄ちゃんの番だよ。」

パルフェは『勇者』のスキルの自慢もせずに兄に見えないバトンを渡す。

「我は女神『ライ』様の使いである。」

魔法陣がまた黄金色に輝く。

「我は一人前の神の使い。」

光が強くなる。

「20歳を超えた我たちに」

すると魔法陣に異変が起きた。黄金色の光ではなく、漆黒の光になっていた。

地下は電気がついていて明るいはずだ。それを覆い隠すように漆黒の光は強くなっていく。

「今ここに祝福の光を授けたまえ!」

漆黒の光は強くなり。

優しい声が聞こえる。「ショーテル。あなたには『採掘師』のスキルを授けましょう」

そう言うと部屋がパッと明るくなった。噴水の液体の色は赤黒い、血のような色をしていたのだという。


家についた途端、ショーテルはダイニングテーブルに顔を埋め、

「双子なのに…。」暗く沈んだ声で独り言をこぼす。

「人生最悪の日だ。死んでやろうかな。」本心を口に出す。

妹は何も言わずに兄の背中をさする。


ガチャ

扉が空いた音がした。ガチャガチャと甲冑の音がした。

「パルフェ様。貴方は女神『ライ』様に受け入れられた者。どうか我らの国…。王都に住んでいただけませぬか?仕事は王家の専属護衛として働いてもらいたい。」

騎士は一気にまくしたてる。まるで断ることを許さないかのように。

パルフェは驚かず、淡々と言う。

「…専属護衛は引き受けてもいい。このスキルが役に立つのならば。」

だけど、と続ける

「兄も一緒に住めるのであれば。」

騎士は迷わずに告げる。

「兄のスキルは『採掘師』だ。そんな底辺スキル、この時代では要らぬ。そんなスキルを持つ者はこの世に生きる価値もない。」

ショーテルは顔を下げる。俺のせいでパルフェは自由に道を選べない。兄の俺が背中を押してあげるんだ、と。

頭の中ではあーだこーだ言っても言葉が口から出ない。喉を通ってそのまま消えてしまう。

「スキルだけで兄の人格を否定しないでもらいたい。私は兄と一緒に行動する。これからも。」

「それでは力づくで貴方を奪うのみ。」


その言葉でショーテルの頭は真っ白になった。

今まで考えていた言葉をそのまま言う。

「パルフェ!さっさと行け!俺のせいでこんなに迷っているのだろう?そこの騎士の言うとおりだ!俺のスキルは要らない。この世はスキルが全てなんだよ!お前は恵まれた!スキルを生かせる場所で働いて…」

涙目なパルフェを正面から見る。

パルフェのほうが背が高いので、見上げる形になるが。

「この腐った国を正してくれ。」

「で、でも…!」

「頼むから!」

『頼む』この言葉に弱いパルフェは思わず言ってしまった。

「…わかりました。」


ショーテルの行動は深い深い愛の中で生まれた行動だ。

二人とも泪を流してハグをした。

「離れていても私達は繋がっている!!手紙を送り合おう!そしたら寂しくない!」

ポジティブな言葉で兄を励ます。

「あぁ。そうだな。離れていても繋がっている。またな。」

騎士はパルフェを連れて王都へ行ってしまった。

「…スキルで人格否定…か…。」


そのとき、大きな野望が芽生えた。

『底辺スキルで世界を見返してやる…!』と。

キレイなエメラルドグリーンの瞳は真っ黒になっていた。



裏話

パルフェが王都に行った数時間後、先程パルフェを連れた憎らしい騎士がショーテルの家を訪れていた。

「なんのようだ。」

「パルフェ殿の荷物を受け取りに来た。」

荷物?転送系のスキルでパッパと運べるはずだが…。

そもそも、荷物をまとめていない。

「荷物なんてまとめていないが?そんな知らせも受け取っていない。」

「え…新人に手紙を送るように言ったはずだが…」

少し焦ったようにぶつぶつと独り言を言う。

「すまない。もしかしたら手違いが起こったのかもしれない。明日の早朝、また取りに行く。」

「俺に迷惑をかけたついでに教えろ。王都には転送系のスキルを持つものは居ないのか?」

単なる純粋な疑問だ。

「居るが…今は病でスキルを使う暇もないらしい。迷惑をかけた。それではまた早朝に。」


何だったんだ…と思いつつ、パルフェが居た部屋に行く。

ドアの前に行き、ガチャッと、ドアを開ける。

今にも「お兄ちゃん!」と、うるさいくらいに追いかけ回すパルフェが出てきそうな、無情なほど、今まで通りの部屋。


バサッと、大きな紙袋を広げ、中に服、写真、メイク道具、便箋等を入れていく。

流石に大きいものは入れれないので、転送系のスキルを持った方の病が治ることを祈りながら入れていく。

一つ一つ丁寧に入れていくうちに、産まれてからずーっと一緒に居た妹との思い出が蘇る。


ショーテルは泣いていた。静かに泣いていた。荷物の整理が終わり、玄関の近くまで運ぶ。

自分の部屋に戻り、ベッドでうぅ…と、うめき声を上げながら眠りについた。


早朝、ショーテルの家を訪れた騎士に、荷物を渡し、朝食の準備をする。

希望の光が、直ぐ側まで来ていた。

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