校庭プール
@osakenpiro
校庭プール
夏はきらいだ。泳げないから。
ぼくは大きらいなプールの時間を抜け出してきて、この炎天下の中に水とうを片手に校庭をうろついていた。
そんなとき、あきらくんは校庭のカメ山の上でうーうーと歌をうたっていた。
カメ山というのはこの第二後木小学校の校庭にあるコンクリートの遊具である。
ドーム型のコンクリートブロックに、よじ登るためのコブや通り抜けるためのトンネルがつけられている子どもたちに大人気の遊び場だ。
「あきらくーん。なにうたってんの?」
ぼくはこう声をかけた。
「ふなのりのうただよ」
「なんだよーそれ」
「ここからは海が見えるよ」
と言ってあきらくんはまたうーうーうたいだしたから、
しかたなくカメ山に登ることにした。
休み時間のたびに登っているからすいすいとあきらくんのもとまでたどり着く。
「うわあ!!!」
声を上げる。
本当に目の前に海が広がっていた。すごい!!
「小さな島が見える!!あれは?」
「ジャングル島だ。ヤシのつたを上まで登ると景色がいいぞー」
「あれは!?」
「島を渡るつり橋だったけど、途中をサメに食べられちゃったんだ。」
たまらず、ぼくは望遠鏡をかまえて辺りを見わたす。
タイヤが置いてあった場所にはウミヘビが太陽も飲み込んでしまいそうなうずしおを作っている。
カメの下をのぞき込むと深い海の底にクジラのかげが尾をゆらしていた。
だんまりの校舎は日をさえぎって大きなかおを僕たちに向けている。
「あれは?」
「海ぞくの大せんかんだ!にげろ!」
ぼくとあきらくんはカメの泳ぎを助けるために必死にオールをこいだ。
「やっとにげきれた」
「こんどはなんだ!?」
「流星だ!」「UFOだー」
「新種の虫だ!」「最新の魚群探知ドローンだ!」
「虹のはしらだ!」「怪物のおならだ!」「おおきな雲だ!」「空だ!」
ふたりは競うように指をさしては目に映るものを相手に教えた。
「ん?あれは?」
望遠鏡から目をはなしたぼくの目に映ったのは。
「あきらくん、たいへんだ。ホラ貝を持った人魚だ!
大きな声で叫んで、ぼくたちに魔法にかけようとしているぞ!!」
ぼくは必死になって耳をふさいだ。
しかし、あきらくんのほうを見るとのんきに手なんか振っていた。
「おーいせんせー。こっちだよー」
ぼくが耳から手を離すと、あきらくんののんびりした声が聞こえる。
「こら、しょうへいくん。
ダメじゃない抜け出しちゃ。森先生が探してたわよ。」
カメ山の下までやってきたのは副担任の桜木先生だった。
ぼくたちはいつの間にか元いた校庭に戻ってきていたようだ。
「だって、こっちの方が広いもん。海で水泳したらいいじゃん。な、あきらくん。」
「ねー、そうだよね」
ぼくとあきらくんは顔をあわせて笑う。
「二人とも、降りてきなさい。」
困った顔をした桜木先生をしり目に
2人はいっしょに船乗りのうたを歌った。
校庭プール @osakenpiro
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