SUCCESS!

夢水 四季

プロローグ

一人足りない!

江の島東中学校、サッカー部。


「一人足りない!」

 三年が引退し、二年が主体となったチームで、キャプテンとなった寿 祐翔(ことぶき ゆうと・MFミッドフィルダー)は叫んだ。

 部員が10人になってしまったのだ。

副キャプテンの霧谷 司(きりたに つかさ・DFディフェンダー)は言う。

「適当に誰か連れてくるか?」

「まあ、それでもいいんだけど。どうせなら、、やる気ある奴をだな……」

「僕もクラスの皆に聞いてみるよ」

キーパーの坂田 孝太郎(さかた こうたろう)が言う。

この三人は幼馴染だ。


「足りないのはFWだろ。俺に合う奴を連れてこいよな」

FWフォワードの南雲 旭(なぐも あさひ)が言う。


「地味ーズも誰かいい奴知らない?」

笹森 昭夫(ささもり あきお・DF)と御手洗 渉(みたらい わたる・MF)のことだ。

 御手洗が「そういえば」と言って、同じクラスの水瀬青葉(みなせ あおば)が小学校の頃サッカーをやっていた、と思い出した。

「水瀬って女子じゃん」

「でも中学までは試合出れるんじゃなかったっけ」

「でも今、水瀬は応援団長だぞ」

 この学校で水瀬青葉を知らない者はいないと言っても過言ではない。

 女子ながら応援団長として特攻服みたいな学ランを着て、他の部活の応援にやって来る。

 彼女の声援とトランペットの音は数々の生徒を励ましてきた。

「ダメ元で聞いてみるか」

 寿は御手洗と共に、応援団が活動している場所へ向かった。


 応援団の声出し場所は、いつも日替わりだ。

 今日は池の前でやっていた。

 応援団の休憩を見計らって、寿達は水瀬に声をかける。

「あのさ、サッカー部なんだけど」

「何? 試合の応援?」

「いや、違くて……。水瀬もサッカー部に入ってくれないかなって。兼部でいいからさ」

「嫌。だって、あんた達、弱いじゃん」

 それはそうだった。

 今年も地区大会一回戦負け、先輩達はすぐに引退していった。

「いや~、でも水瀬が入ってくれたら強くなると思うよ、多分」

「何を根拠にそんなことを……。私には応援団があるの。サッカーをやってる暇はない」

「ごめん」

 二人は、すごすごと帰って行った。


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