第六話 進んで止まってそして巻き戻る―1
僕の先ほどの発言をまるで信じられないかのように、オーニは僕に聞いてきた。
「…あの、心が女ですよ…的な?」
「いや、そんなんじゃなくて、普通に生物学的に女です。」
「生物学的に女かぁ…」
露骨に残念そうにしている。彼女がつぶやいた後、暗かった空間に明かりが灯った。彼女の魔法か何かだろうか。明るい部屋は外観で見たよりも広くなっており、様々な家具や何かの実験に使うような道具が置かれていた。あのボロボロの塔の下部でこの量の物質を支えられるとは思えない。
「…謎のお姉さんポジを狙って演出してたのに…おねロリは萌えないのよ…。」
「…?」
よくわからない単語が僕の頬をかすめたような気がした。多分、気にしたら負けだ。
彼女は、長く白い髪をなびかせ、立ち上がった。頭には先がとがった帽子をかぶっている。絵本などでよく見る魔法使いっぽさがある。
「じゃあ、なんで君は一人称が僕なの?」
「理由は分からなかったですけど、親から強制されて…」
彼女の話を聞いた後ならわかる。僕の親は僕が赤髪の女だという事を隠したのだ。この世界では赤い髪の女性は差別され、最悪殺されてしまうから。僕の両親は僕のことを第一に思い、僕のための行動をした。それなのに、僕は両親のことなどおざなりにして、ミズの事しか考えていなかった。…最低な人間だ。
「うん、君の両親はいい人みたいね。」
彼女は先ほどとはうって変わった雰囲気をまとった。まるで母のような、慈愛に満ちた雰囲気。だが、それは一瞬にして剥がれ落ちた。
「しっかし、君が女の子なんてね。ルーク×ユウトがはかどらないわ、まったく。」
「それはどうでもいいんですが、同性だからという理由から、僕はオーニさんに話したんです。異性だとなにかしらトラブルが起きそうですし。」
「それはそうね。いい判断よ。にしても―――」
ずっと彼女は残念がっている。そんなに僕が男の方がよかったのだろうか。ルーク×ユウトって何なんだ。
まぁとりあえず、僕は真実を告白出来てすっきりできた。しかし、それだけが目的ではない。
「――恵まれない可憐な男児が王子に救出されてそこから始まる薔薇色の恋物語…いや、まだ何とか軌道修正はできるわね…ち〇こを作りましょう。」
彼女がボソボソと言っている物騒な言葉を無視し、僕は真の目的を打ち明けた。
「オーニさん、僕に手助けしてもらえませんか?」
「ち〇この話?」
「ち〇この話ではなくてですね……」
いったいどうしてしまったのか、初登場の時はまだ頼りになるお姉さん感があったのに、今ではもうダメダメお姉さんだ。しかし、いくらダメダメお姉さんだとしても、その魔法の実力は確かだ。”時使い”というだけあり、彼女の魔法は時間を操る。この力が弱いわけがない。
「あぁ、何とか自分が女ってことを隠ぺいして危うくなったら助け舟を出してってことね?全然いいわよ。暇だし。面白そうだし。」
「あ、いいんですね。」
案外快く引き受けてもらえた。正直、ここで断られてしまうという想像はしていた。そうなれば一巻の終わりだったわけだが、実際は受け入れられたのでよしとしよう。
「じゃあ、僕がしたいことは済んだので帰らせてもらいますね。」
「待つんだ、少年。いや、少女。」
彼女は床にある扉の取っ手に手をかけている僕を制止した。特に理由はないが、なんだか嫌な予感がする。
「もしかしたら、実験動物にされちゃうかもよ…?」
ルークの言葉が脳裏に浮かんだ。いや、まさか実験動物にされるなんてそんなことはないだろう…ないよね?
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