第7話ㅤいらないと思って雑に使ってたものがあとから使えるってなると嬉しさと微妙な気持ちが半々になるよね
「さて、21層についてだけど……正直俺から解説できることは特にないな。配置が毎回ランダムだから固定されたムーブとかもないし……これに関する話で話題にできるのだと、せいぜい毎回別のとこに飛ばされてる派と構造の配置が変わってるだけで同じ場所派で議論が分かれてることくらいかね」
・どっちもそれっぽい意見だから甲乙つけられないんだよな
・あ~前ライブで討論会やってるの見たわ
・実際これどっちなんやろなぁ……
「サキュバスちゃんも20層以降のことは知らないらしいし……つっかえねーな」
・メスガキ成分変な残り方してますよ
・あんな使い方しといてその言葉が出るのもう怖いよ
・うーんこれはクズ系幼女
たしかに。ごめんよサキュバスちゃん、いつもありがとう。 これからもお世話になります。
「まぁサキュバスちゃんのことはもういいでしょう!たとえどっちだとしても俺からすれば対して違いなんてないしな!」
・それはまぁそう
・どっちでもいいことに対して使えないとか罵られたサキュバスちゃんがただただ哀れでしかない
「ま!とりあえず探索進めてくぞ~!今日はとりあえず30層くらいを目安に……あ、ちょっと待って、あの触手……紫と緑とピンクの触手ね、めっちゃ美味いんだよ。視聴者食ったことある?」
・ない
・ないよ
・まずそう
・そもそも食欲湧くような見た目してない
・あんないかにも毒あるよって見た目してるのに?
「いやいやホントに、あのイボイボとかカリカリに焼いたらちょっとお高めのクッキーみたいな感じだし、あれ壁から生えてるんだけどさ、先っちょの方は焼いたらTHE・おつまみって感じになるし、根っこの方は薄切りにして醤油掛けるだけで胸焼けしない大トロみたいな味になるし……」
……索敵範囲内に発動待機中の魔法トラップ?発動までは残り30秒ってところだが、準備ではなく待機中である以上無効化もできなそうだ。
・ちょっと興味湧いてきたかも
・触手だって知らない状態で食べてみたい、本当においしいのか
……具体的な効果は……対象の大幅な減速?いや、時間停止魔法か!発動までの残り時間は……ふむ、魔力の充填量と速度から逆算するとだいたい22秒ってところか?小細工を仕込むには十分すぎる時間だ。
・急に黙ったけどどうしたん?
・配信中に無言になるなんて珍しいやん
・どしたん飯の話して腹でも減ったんか?
……よしっと、こんなもんで十分か。配信コメントの方は……うん、15秒も黙ってたしさすがにダメだよな、さすがに。
「悪い悪い、ちょっと集中しててな。お詫び代わりにすごいもの見せてやるからそれで許してくれ」
・集中?
・期待
・これは楽しみですわ
残り時間はだいたい7秒といったところ。せっかくの機会だし、配信者としてなにかポーズでも取っておくかね。
・祈祷のポーズ?
・両手合わせて目までつぶっちゃって本格的
・サキュバスちゃんにあんなことしたくせにめっちゃ神聖な感じ出てる
・動かんくね
・白雪ちゃん祈祷長すぎて草
・焦らすね
・なんか触手迫ってきてね?
・白雪ちゃん舐めプするようなタイプじゃないよな
・見た感じ呼吸もしてなそうだしもしかしてこれ・・・
・時間停止トラップだあああああああ!!!
・2年半お預けされ続けてきた白雪ちゃんのアウトシーンだあああああ!!
・触手生えてる壁ごと動いてるじゃんww
・これは間違いなくすごいものだわ・・・!!
……そろそろか。
「ん~んぅ……ふぅ」
一つ伸びをすると、閉じていた目を開き、小細工のために一時的にすべて肉体に戻した魔力を再度策敵に回しなおす。
周囲には夥しい数の触手の群れ。方位は全方位の包囲、数はともすれば4桁にも届きそうなほど。大してこちらは武器も構えておらず、魔法の発動準備をしていたわけでもない。なんなら、すでに先頭の触手が俺の肌に触れてさえいる。
「俺の勝ちだけどな」
だが、それらの触手は一本たりとも微動だにしない。否、できない。トラップによって発動した、俺が何も認識できくなるほど、極限まで全てが遅くなる効果……、その効果を、『自分以外が自分の体に触れた瞬間に』反転させるという仕込みによって、今この時点で俺以外に動ける存在はいない。
「せっかくの機会だし、新しい魔法でも試しちゃおっかな〜、ちょうどこの前の落とし穴ので、空飛ぶ魔法のインスピレーションが湧いてきたし」
〈《》〉
「さって、そろそろ敵も倒し終わったし……時間停止解除」
・よっしゃああああああああ!!!!
・全裸待機
・うおおおおおおおおおおお!!!!!!
視界の右下……一切の動きがなく、自分以外が完全に停止していることを俺に教えてくれていたコメント欄が、魔法の解除と同時に動き出す。
・は?
・瞬間移動????
・一瞬で触手全滅してるし白雪ちゃんの位置も変わってる・・・
「これこそ祈りを妨げた罰……なんてのは冗談だけど、どうよ?なかなかすごいだろ?」
・なかなかすごいなんてもんじゃない
・どうやったのか教えて
・エロを期待してたけどそういうのじゃない方の意味で滅茶苦茶興奮してる今
「ありがとうありがとう。でもこれはさすがに教えられないから勘弁してくれ」
俺も周囲が止まったまま、孤独に死んでいくっていう人間はさすがに作りたくないからな。
「触手壁が動いてたおかげで気づいたんだけど、壁の中にでっかい空間があってさ、その中に宝箱あったからそれで許して、な?」
・いいよ
・そもそも話すか話さないかなんて白雪ちゃんが決めることだしな
・そんなことより宝箱や!次はどんな触手服が出るんやろか
「そういえばさっきどこまで話してたっけ?」
・触手がうまいとか
・大トロ云々っていってた
「ああそうそうそれそれ!……悪い、何言おうとしてたのか忘れちゃった……」
・ポンコツ?
・わかる、わかるぞその気持ち・・・
「……まぁいいでしょう!そろそろ宝箱も近づいてきてるし、ちょっと速足で……こちらになりまーす!!見てくださいこのピカピカ感!まさしく金の宝箱!今までの木製の宝箱とは別格の雰囲気を漂わせております!!」
・これは黄金の触手服が出てきそうないい宝箱ですね
・これは確かに期待大かも
・そろそろさすがになんかいいもの引いてほしい
「ではでは、開けますよ?オーーーーープンッ!!!」
中に入っているのは……小さな指輪、だろうか?大した飾りつけがあるわけでも、特徴的な刻印がなされている訳でもない。それでもこんなたいそうな宝箱に入っている以上、何かはあるはずだと触れて確かめる。
「おお!これすごいわ!」
・どんな効果だったん?
・珍しく興奮してる白雪ちゃんだ
「この指輪ですね、何度でも使えるダンジョンから一瞬で脱出できる指輪なんですが……!」
・おぉ!すごいやん!
・無制限ってなると相当値段付くんじゃない?
「なんと!使用すると全裸でダンジョンの入り口に飛ばされます!」
・草
・デメリット系かぁ・・・
・命と比べれば・・・って感じではあるけども・・・
「というわけで!使ってみたいので本日の配信はここまでといたします!今日も結局エロシーンはありませんでしたね!クソペド共はサキュバスちゃんで妥協しましょう!ほなまた!エロトラップと嬌声溢れる優しいダンジョンでお会いしましょ~!!……さて」
配信はちゃんと切った、機材含めて荷物はしっかりバッグの中に入れた―――よし!
「脱出装置ON!!!」
一瞬視界が光に包まれて、次の瞬間には全裸でダンジョンの入り口に立っていた。……周りに誰もいないからよかったが、さすがにテンションに任せて行動しすぎだろ……。
「さて、服はどこに落ちて……ない!?」
え?うそだろ、もしかして脱衣じゃなくて消滅!?そうなると俺服の持ち合わせなんて―――
「……あるじゃん」
もしかしたらバッグの中に入ってるんじゃないかと探した結果、服が出てきた。
ただし、触手付きの。
「……バッグ直入れくらいならついでに熱で消毒してくれるよな!」
スペースがなかったため直入れだった触手パンツの触手を焼き払い、(パンツの方は焦げ跡一つついていない。やっぱりどう考えても頑丈すぎるだろ)同様にしてタイツ、靴、ワンピースの触手も取り除く。
少しぶかぶかサイズだが、袖を通せばあら不思議、俺の幼女ボディーにぴったりサイズへと変化する。関節の動きは邪魔せず、少し余裕が欲しいところには余裕があって、まるで俺のためだけに作られたオーダーメイドの洋服のようで、正直めちゃくちゃ着心地がいい。今度からパンツ以外の触手服を見つけたら売らずに自分で使おうと思うくらいには。
さーてこれからどうしよっかなーとりあえずSNSで無事に脱出できたことを報告しようかな〜なんて考えたところで、久しぶりに見たDMの通知数が上限まで溜まっていることに気がついた。
「ん?ん〜?んんん?……コラボのお誘い……?」
数はざっと……10,20,30,40……
「57……??」
どーしよ、これ?
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