最終話 これにてハッピーエンド



*****



 犯人も捕まり事件は解決。つまりは香水店も再開できるはずなのだが、三日経った今もまだ休暇中である。

 というのも、濃い媚薬を浴びたせいで鼻が効かなくなっていること、結婚に向けた準備が進んでいることが理由だ。

 引っ越しの荷物をフロランの屋敷に運び終えて、私は汗を拭う。重い荷物を運ぶ必要はなくても、指示するだけでひと仕事なのだ。


「まだ婚約者だというのに気が早いと思うのだけど、君はこれでいいのかな?」

「いいんですよ。婚約者なのにあんなにしつこくされたら、帰れないじゃないですか」


 ハジメテの夜は媚薬が効きすぎていたせいで興奮が続き、翌日の昼まで何度も何度も注がれてしまった。毎度毎度あんなにされては屋敷に通うなんて無理である。お互いに仕事もしているのだ。勘弁願いたい。

 私の指摘に、フロランは不敵に笑った。眼鏡の反射も演出が効いている。


「君がそういう期待をしているなら、今夜は休まなくてもよいということかな」

「いえいえ、しばらくは遠慮願います」

「今夜こそは優しくしよう」


 腰を撫でてくる手がいやらしくてゾクっとする。でもそれが嫌ではなくて、あの日の夜を思い出して固まってしまった。


「愛しているよ、シュザンヌ」

「その言葉で機嫌が取れると思ったら大間違いなんですからね!」


 私は頑張ってフロランの手を跳ね除ける。

 言葉では拒否したけれど、今夜は彼の腕の中にいるだろうことがありありと想像できてしまって、私は悔しく思うのだった。


《終わり》

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虫除け令嬢は薬学博士に捕われる 一花カナウ・ただふみ @tadafumi

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